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「自分の居場所が欲しい…」家族を知らない少女が本能のまま愛される。切なくて危うい学園ファンタジーロマンス『兎は獣の肚の底でしあわせな夢をみる』【書評】

  • 2026.3.20
兎は獣の肚の底でしあわせな夢をみる 月永遠子/白泉社
兎は獣の肚の底でしあわせな夢をみる 月永遠子/白泉社

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「自分の居場所がほしい」「愛されたい」「誰かに必要とされたい」——そんな願いは誰の心の中にもあるに違いない。

だからこそ、この物語は私たちの心を強く揺さぶる。その作品とは、『兎は獣の肚の底でしあわせな夢をみる』(月永遠子/白泉社)。大ヒット逆ハーSFロマンス『アウトブライド-異系婚姻-』の著者・月永遠子による最新作だ。前作同様、本作も幻想的な世界を舞台に、主人公は抗いがたく求められていく。向けられるまっすぐな愛にときめきを覚える一方で、どこか拭いきれない危うさに胸が締め付けられる。ただ甘いだけでは終わらない。その複雑な余韻が、ページをめくる手を加速させるのだ。

どこにも居場所がない少女が、突然同級生に“本能のまま”に求められる

主人公の女子高生・兎村雪穂は、どこにも居場所がない。幼い頃に母を亡くした彼女は、新しい家族から受け入れられず、学校でも同級生から都合よく使われるだけだ。そんなある日、文化祭の準備のために買い出しを押し付けられた雪穂が学校に戻ると、校内には謎の怪物が出現。その怪物と戦っていたのは、クラスで目立つ存在の同級生・幽狐正宗だった。思わず幽狐を庇い、雪穂は大怪我を負ってしまう。幽狐は、神獣の力を受け継ぎ怪物と戦う一族・神祇官の血筋。さらに雪穂は、神獣の力を最大限に引き出す極上の餌・天ツノ玄兎であり、その血肉は特別な力を宿していると判明する。やがて雪穂は、神祇官たちからその身を本能のままに求められるようになって……。

かつて兎は、飢えた人を助けるために自らを犠牲にしたことで、神様から憐れまれ、光り輝く美しい月に住めるようにと送られたのだという。兎村雪穂という女の子もまた、まるでこの兎のように自己犠牲的で健気。雪穂は、常に自分のことより他人のことを優先してしまう。ずっと自分の居場所がほしいと思っていた彼女は、誰かから必要とされるならば、なんでもしたいとさえ思っている。「天ツノ玄兎である君の仕事は俺達に食べられる事さ」——そう告げられても、雪穂は素直に受け入れてしまう。

そんな雪穂の姿に複雑な思いを抱くのが幽狐だ。幼い頃、雪穂と出会い、救われたことのある彼は、雪穂を陰ながら守りたいと思い、彼女を追ってこの高校に入学した。それなのに、自分のせいで雪穂に大怪我をさせてしまったし、神祇官として、幽狐は彼女の身を求めずにはいられない。さらに、他の神祇官、たとえば同級生で幼馴染の赤狼八季が雪穂の身を求めれば、それを止めることはできない。「僕はいつも君を守れない」——そんな幽狐の嘆きがやるせなく響く。

人間の「愛されたい」という願いまでを暴き出す学園ファンタジーロマンス

雪穂が身を求められる場面はなんともエロティック。ドキドキさせられながらも、やっぱり胸の内に痛みが走る。愛されたいと願う雪穂の姿にも、愛する人を守りたいと願う幽狐の姿にも、共感できるし、同情したくなるし、時にときめきも感じる。そして、雪穂の運命が気になってたまらなくなる。……ああ、月に送られた兎のように、雪穂にもここだと思える居場所ができてほしい。切なくて、甘くて、危うい。この物語は、私たち人間の「愛されたい」という願いまで暴き出しながら、強く心をさらっていく。本能のまま求められる学園ファンタジーロマンス、その行く末を見届けずにはいられない。

文=アサトーミナミ

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