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【BTS連載vol.6 V】繊細な感性と4次元のユーモア。飾らない表現に宿る、ジャズの自由な精神

  • 2026.3.16
<strong>V(ヴィ)/1995年12月30日生まれ、韓国・大邱出身</strong> iMBC / Getty Images

2022年6月に活動休止を発表してから約4年、2026年3月20日リリースの5thアルバム『ARIRANG』でBTSがついに再始動を果たす。4月からはソウルを皮切りに世界23ヶ国・地域を巡る大規模ワールドツアーを控え、7人揃った“完全体”の復活を世界が心待ちにしている。

これに合わせ、オフィシャルブックの翻訳も手掛けた“BTSのプロ”桑畑優香さんが、全7回の特別連載でメンバーの魅力を紐解いていく。第6回は、圧倒的なカリスマ性で世界を魅了する“テテ”ことV。ルーツであるジャズとの出会いから、映画やアート好きな一面、愛すべき“4次元”キャラクターまで、表現者としての深淵と素顔にフォーカス。

計算なき感性が生み出す“余白”。嫌いだったジャズが導いた、自由な表現

「感情の空気」をすくい上げるアーティスト。BTSの楽曲において、Vの声は独自の陰影を刻む重要な役割を担っている。低く深いバリトンの響きは温かみを帯びながらも重くなりすぎず、清涼感を伴う。そこから柔らかなファルセットまで自在に行き来する声は、楽曲の感情に余白を生み出し、聴き手の心に余韻を残す。

その本質があふれているのが、『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』(2018)に収録されたソロ曲「Singularity」だ。官能的でありながら決して通俗に流れないネオソウルの楽曲で、Vというボーカリストの個性を世界に強く印象づけた。一方で「EPILOGUE: Young Forever」(2016)での力強い叫びや、「Save ME」(2016)での切実な歌声は、VがBTSの物語のなかで重要な感情の瞬間を彩ってきたことを示している。

高校一年生の時に、通っていた大邱のダンス学院で開催されたBig Hitエンターテインメントのオーディションを見に行き、「この子も踊ってもらえるかな?」と指名されて合格したのが、芸能界入りのきっかけ。表現者としての道を歩み始めた原点は、中学時代、芸術高校への進学を目指して始めたサクソフォンだ。試験勉強として渋々聴かされていたジャズに対し、当時は「二度と聴くものか」と思うほど苦手意識を持っていたという。

しかし、その経験が皮肉にも彼の音楽的バックグラウンドを形作った。練習生時代に受けた数々のダメ出しを自負心に変えて成長した彼は、やがて自らのルーツであるジャズの精神を、自身の音楽に投影し始める。初のソロ曲「Stigma」(2016)で聴かせたサビのファルセットについて、Vは『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS』でこう明かす。

「あれはアドリブでした。本当はファルセットなしでも曲は完成するのですが、いくら聴いても退屈だったから……。事務所はその前に歌ってみたバージョンもいいと言ってくださったけれど、個性が際立たないような気がして」

Jeff Kravitz / Getty Images

決められた枠に収まらず、その瞬間の感性に身を任せるジャズのような自由さ。それは、ステージ上で「計算ではなく、自然に出てくること」を大切にする彼のスタンスそのものとなっている。

「Sweet Night」(2020)、「Christmas Tree」(2021)。Vの創り出す世界には、一貫したモチーフがある。「雨、雪、夜」。リーダーのRMから言葉の美しさを学び、詩情豊かな表現を追求してきた彼は、自分を生きていると感じさせてくれる特別な瞬間として、これらを歌に刻んできたという。

2023年に発表された初のソロアルバム『Layover』は、まさにVの美的嗜好の結集だ。メイクを施さない自然な姿で撮影されたコンセプトフォト。そして、温かみのあるベースやジャジーなピアノの音色。そこには、BTSで見せる華やかなスターの姿ではなく、裏側にある「アーティスト、キム・テヒョン」としての内面が表出されている。

MV撮影は「一本の映画」のように。アートと映画が育んだ、独自の審美眼

BTSがデビューを目前に控えた2013年6月。7人目のメンバーとして最後にベールを脱いだのがVだった。『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー:10-YEAR RECORD OF BTS』では、当時の“作戦”についてこう記されている。

Vは2013年6月3日にBTSのデビューアルバムのティーザー写真、いわゆる〝コンセプトフォト〟で初めて顔を出した。カッコいいルックスのメンバーを〝サプライズ公開〟し、チームに新鮮さを加えるのは、常に成功率が高い戦略だ。

そのサプライズ公開は見事に成功、Vの存在感は瞬く間に注目を集めた。

Unique Nicole / Getty Images

2017年、米映画情報サイト「TC Candler」にて「世界で最もハンサムな顔」第1位を獲得。以来、彼は毎年のようにランキングの常連となっている。だが、彼が「K-POPビジュアルキング」と称される理由は、単なるルックスの美しさに留まらない。表現の一つひとつに、独自の「美学」が宿っているのだ。

Vのインスピレーションの源泉は、多岐にわたる。カメラを手に写真家「Vante」として風景を切り取ったり、愛するジャン=ミシェル・バスキアの絵画にインスパイアされたアートを描いたりしたことも。

大の映画好きでも知られる彼は、ミュージックビデオの撮影に臨む際、「一人のアーティストではなく、一本の映画」をイメージするという。ちなみに、「花樣年華」シリーズ(2015~2016)の頃のミュージックビデオでモデルにしたのは、俳優コリン・ファース。一方、『Butter』(2022)の制作時には、ジョニー・デップ主演の青春映画『クライ・ベイビー』(1990)から強烈なインスピレーションを受け、ハイティーンのようなエネルギーを自身の演技に投影したという。ロールモデルとする俳優たちの「静」と「動」の対比が、Vのパフォーマンスに深みと説得力を与えているのだろう。

そんな彼の感性は、「セリーヌ」や「カルティエ」といったハイブランドをも魅了し、アンバサダーに就任。しかし、Instagramアカウント(@thv)に並ぶのは、スターの姿だけではない。

「わざわざ他人の視線に合わせる必要はないと思う」。そう語る彼が投稿するのは、個人的な好みが凝縮された、文字通り「テヒョンの色」そのもの。Instagramでは世界で最も影響力のある男性ミュージシャン1位を記録。2026年3月13日に開設したTikTokアカウント(@tete_kimv)も、コンテンツをまだ何もアップしていないにもかかわらず(!)、わずか36時間で300万人以上のフォロワーを獲得して話題を呼んでいる。

愛すべき“4次元”キャラ。愛犬ヨンタンや「ウガウガファミリー」との深い絆

Vを語る上で欠かせないキーワードが“4次元”だ。計算されたユーモアではなく、その場の感覚に従った自然な行動は、時に周囲を驚かせ、そして笑顔にする。

たとえば、『ローリングストーン』誌のインタビュー中、通訳者が訳している隙にホワイトボードにいたずら書きをしてみたり。バラエティ番組『RUN BTS!』のミントチョコをめぐるディベートでは、「毎日歯磨き粉で磨くのに、歯磨き粉味のアイスを食べるなんてありえない」と独自の理論を真顔で展開して、SUGAに「意味不明なので飛ばします(笑)」とツッコミを入れられたり…など、逸話は多数。

その自由な精神の奥にある、最も深く繊細な素顔が表れているのが、愛犬ヨンタンとのエピソード。2017年に家族として迎えたポメラニアンのヨンタンは、Vにとって大きな存在だ。

ソロ曲「Slow Dancing」のステージでは前代未聞の愛犬との共演も。Vは生まれつき体が弱いヨンタンを気づかってきたが、2023年末、SNSを通じて「犬の星」へ旅立ったことを報告。「ARMYの皆さんが一度思い出してくださったらありがたい」という言葉には、愛する存在を失った悲しみと、共に愛してくれたファンへの誠実さがあふれていた。

Vの周りに人が絶えないのは、誰に対しても心の壁を作らず、素直に愛を伝えるからだろう。その象徴が、ドラマ『花郎<ファラン>』(2016)で共演したパク・ソジュンやパク・ヒョンシク、そしてチェ・ウシク、Peakboyと結成した「ウガウガファミリー」だ。

「僕たち家族なのかな?(우리 가족인가?)」と思うほど気が合うことから名づけられたという「ウガウガファミリー」は、まさに家族のように仲良し。入隊の際には、坊主頭になったVを愛おしそうに撫でる写真がSNSで共有され、除隊後もハワイ旅行へ出かけるなど、その絆は年々深まりを見せている。

「『Layover』はスタート地点」。兵役期間を糧に、新たな表現の領域へ

兵役期間を経て、Vの姿は確かに変化した。特殊任務隊(SDT)での過酷な訓練を経験した現在の彼には、デビュー当時の少年のような美しさに加え、たくましさと野生味が宿っている。兵役中に公開された近影には、鍛え上げられた体と凛々しい表情が映し出され、ファンの間でも大きな話題となった。

この変化は単なる外見の変貌ではない。軍生活のなかで培われた規律や精神的な強さは、復帰後の表現にも新たな深みをもたらすだろう。自由な感性を武器にしてきたVに、経験から生まれる力強さが加わるとき、音楽やパフォーマンスはさらに広い表現の領域へと向かうはずだ。

2023年のソロアルバム『Layover』の制作を振り返り、彼はこう語っている。「自分の人生とキャリアの最終目的地について考えていたとき、『Layover』というタイトルを思いつきました。そこにはスタート地点という意味が込められています。僕は、キム・テヒョンという絵を描きはじめたばかりなんです」

BTS完全体としてのカムバックまで、あと4日。Vは今、真っ白なキャンバスに、新たな色を乗せようとしている。

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