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南仏の小さな村で現役、69歳アンティーク商が語る「人間に本当に必要なものは、実はとても少ない」

  • 2026.3.14

南仏の小さな村で現役、69歳アンティーク商が語る「人間に本当に必要なものは、実はとても少ない」

南フランスの田舎でアンティークショップを営む69歳、クリスティーヌ・カーズさん。10代の頃に抱いた「インテリアの仕事をしたい」という夢を実現したのは、子育てを終えた40代になってから。年齢を重ねるほど自由になっていく——そんな彼女の暮らしと哲学をお届けします。第1回は、アンティーク商になるまで。パリに住む日本人ライターがご案内します。

Profile

クリスティーヌ・カーズさん

フランス南西部生まれ。子ども時代をアフリカや南太平洋の島で過ごし、16歳で再び家族でフランスに。1990年代に古物商として独立。約20年前よりフランス南西部の村Saint-Antonin-Noble-Val(サンタントナン・ノーブルヴァル)でアンティーク店「Entre Cour et Jardin(アントル クー エ ジャルダン)」を営む。中世の元商家を修復し、住居兼店舗として暮らす。家族は成人して独立したお嬢さんが二人。現在69歳。
インスタグラム:entrecouretjardin_3
インスタライブ:mimizu_brocante

アフリカと太平洋の島で育まれた感性

フランス南西部の小さな村で、69歳のマダムが今も現役で働いています。
クリスティーヌ・カーズさん。

最近は60代後半で働いている女性は珍しくないかもしれませんが、年齢を重ねても好きな仕事を続けられるというのは、ひとつの理想の形。

中世の建物を修復した家に住みながら、アンティークショップを営み、好きなものに囲まれた暮らしを続けています。

彼女が暮らすのは、トゥールーズから車で1時間ほどの山あいの村、サンタントナン=ノーブル=ヴァル。アヴェロン川沿いに開けた人口約2000人のこの村は、中世の面影を色濃く残す美しい場所です。

12世紀の建物をながめながら石畳の路地を進み、鮮やかなブルーの扉を開けると、そこがクリスティーヌさんの店「Entre Cour et Jardin(中庭と庭の間)」。

時間がゆっくり流れるような、不思議な空間が広がっています。

フランス南西部の都市モントーバンで生まれたクリスティーヌさん。海外憲兵隊勤務のお父様の転勤で、幼いころ家族で海を渡り、アフリカのカメルーンへ。さらにはバヌアツへと移り住みました。

「アフリカや太平洋の島の大自然の中で、のびのびと自由に、家族の愛に包まれて育ちました。今のようにインターネットなどない時代ですから、家族と自然だけが私の世界だったんですね。自由と家族を愛する心が、そのころに培われたような気がします」

アンティークとの出会いは母のガレージセール

アンティークとの出会いも、そのご家族がきっかけだったそう。

10歳でフランスに戻り、街での生活にも馴染んだ16歳の頃、クリスティーヌさんのお母様がガレージセールのスタンドをすることになり、その手伝いをすることに。出品する品物を選びながら、古いものが持つ温もりや、不思議な引力を初めて肌で感じ、インテリアデコレーションを学ぼうと決意したそうです。

「思えば祖母もアンティークが大好きだったので、幼い頃から祖母の家を訪れると、古くて味のあるものに満ちていたんですね。オークションや骨董市へもよく連れて行ってくれました」

アンティークへの思いも温めつつ、その後、2人の娘さんを授かり、子育てのために別の道へ。

「娘たちが学校へ通い始めたので、子どもたちと同じリズムで働けるように、フランス語教師の資格を取り、1年ほど教壇に立ったこともありました。でも、やってみて、これは私の道ではないと気づいたのです」

「好きだから働く」69歳の今も現役

その後、離婚して、一人で子育てをした期間も長かったそうです。

シングルでの子育て、楽ではなかった時期もあったでしょう。それでも彼女は、穏やかな口調でこう話します。

「張り詰めた空気の中で暮らし続けるより、別れを選ぶことが正しいときもある。あの選択が私をより強くしてくれました。離婚を経て自由を手に入れたら、もう何も怖くないと感じたの」

その経験が、彼女の人生哲学の土台をつくりました。

「人間が本当に必要なものは、実はとても少ない。好きな仕事、家族を守る家、必要なものをまかなえる収入——それで十分です。自分が心地よく満たされているなら、隣の人より多くを持つ必要はどこにもない」

持つことより、存在すること。競うことより、満たされること。その言葉は、飾りのない真実として、静かに胸に落ちてきます。

娘さんたちも成人し、それぞれの人生を歩むように。子育ても落ち着いた1990年代、40代後半で、ついに正式に骨董商として歩み始めます。回り道をしたものの、16歳のころインテリアデコレーションの夢を抱き、胸の中でくすぶっていたアンティークへの情熱が、また勢いよく燃え始めました。

「近くの街で暮らす年老いた両親を支えたいと思って家を探していた時に、偶然この村で出会ったのが、今の家なんです。12〜14世紀ころの古い建物で、傷んではいましたが、家の個性を感じて、一目惚れでした」

ここで自分のお店を開くんだ——と、この家に背中を押されるように決意したクリスティーヌさん。後からここが中世の商人の家だったと知り「これは運命だったのねと思いました」。

アンティークショップを開いて20年近く経ちます。69歳の今も、彼女は働き続けます。「なぜ?」と問えば、答えはシンプルです。
「この仕事が好きだから。好きなことへの情熱が健康の秘訣でもありそうね」

回り道も、一目惚れも、すべてが必然だったかのような人生。その冒険はまだ続いています。

次回は、クリスティーヌさんが20年かけて育ててきた、暮らしと仕事がとけあう場所をご紹介します。

撮影/安田祐輔 @mimizu_france @mimizu_brocante

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