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KATSEYE マノンの活動休止、その背景に何が? ポップ界と黒人女性アーティストの複雑な関係

  • 2026.3.14
Gilbert Flores / Getty Images

ポップミュージックで成功を目指す黒人女性たちは、歴史的に深く誤解されてきた。多くの場合、彼女たちは見過ごされるか、R&Bやソウルといったジャンルに押し込められてきた。その貢献が十分に評価されないままスターへの道の途中で大きくつまずいてしまう人も少なくない。ブレイクできるのは、ごくわずかだ。

率直に言って、今日のポップ界の黒人女性アーティストたちは、全力を注いでも必ずしも報われない業界に身を投じている。

マノンの活動休止が投げかけた問い

マノン・バナーマン(Manon Bannerman)。 Christopher Polk / Getty Images

マノン・バナーマンのガールズグループ、KATSEYE(キャッツアイ)からの最近の離脱を考えると、この現実を思わずにはいられない。2月20日、グループのレーベルであるHYBEとGeffen Recordsは、Weverse(HYBEが手がけるファンコミュニティ・プラットフォーム)で声明を発表し、マノンが「健康とウェルビーイングに集中するため」一時的に活動を休止すると明らかにした。その直後、KATSEYE唯一の黒人メンバーである彼女は、自身の声明を発表。そこではレーベルの発表に疑問を投げかけるような内容も含まれていた。

「こんにちは、みんな」と、23歳の彼女はWeverseのDMで書いた。「まず私から伝えたい。私は元気ですし、健康です。ちゃんと自分を大切にしています。気にかけてくれてありがとう。物事って、いつも自分の思い通りに進むとは限らないけれど、大きな流れを信じて前に進もうと思っています。支えてくれてありがとう。みんなのことが大好き。また会えるのを楽しみにしています」

この二つの声明は業界とSNSに波紋を広げ、ポップ系ガールズグループで活動する黒人女性が抱える孤独について、あらためて多くの人に考えさせる出来事となった。マノンの離脱は、単なるグループ内の問題にとどまるものではない。ポップシーンにおける黒人女性の立場を十分に理解し、支えきれていない音楽業界の構造的な問題が、あらためて浮き彫りになった出来事でもある。

KATSEYEは、ある意味で“実験的プロジェクト”として誕生したグループだ。2023年に結成された6人組(マノン、ダニエラ、ララ、メーガン、ソフィア、ユンチェ)は、HYBE × Geffen RecordsによるNetflixのグローバルオーディション番組「ポップスター・アカデミー: KATSEYEになるまで」(英語タイトルの「The Debut: Dream Academy」から通称”ドリアカ”と呼ばれる)から生まれた。スイス系イタリア人とガーナ系のルーツを持つマノンは、グループに最後に加わったメンバーだった。ファッション系コンテンツでSNSのフォロワーを集めていたマノンは、「ドリアカ」のオーディションを経て選ばれたのではなく、唯一スカウトでプロジェクトに加わったメンバーでもある。2024年、グループは初のEP『SIS(Soft Is Strong)』をリリース。急成長していく彼女たちの歩みは、Netflixの番組でも描かれた。

KATSEYEのメンバー、上段左からララ、ダニエラ、ソフィア、下段左からユンチェ、マノン、メーガン Sara Jaye / Getty Images

それ以来、KATSEYEは瞬く間に、いま最も勢いのあるガールズグループのひとつとなった。ビルボードチャート入りを果たすシングルを次々とリリースし、バイラルヒットとなった「Gnarly」も話題に。ジュエリーブランド「パンドラ」との大型契約を結び、「フェンディ」のキャンペーンに登場。「ギャップ」のデニムをまとったキャンペーン動画「Better in Denim」で世界的現象を巻き起こしたことも、記憶に新しい。さらにワールドツアーを発表し、2026年春のコーチェラ・フェスティバルへの出演も決定。グラミー賞では最優秀新人賞を含む2部門にノミネートされた。しかも、これらの快進撃はフルアルバムをまだ発表していない段階で実現したものだ。

“何かを証明するために、常に人一倍努力しないといけない気がします。本当はそんな必要はないのに”

急激な成功の裏で、メンバー全員に大きなプレッシャーがかかっていたことは想像に難くない。なかでも、グループで唯一の黒人メンバーであるマノンは、特有の重圧をより強く感じていた可能性がある。Netflixの番組「ポップスター・アカデミー」では、彼女がリハーサルを欠席した出来事が大きく取り上げられ、仕事への姿勢を疑問視する声も上がっていた。「“怠けている”と言われるのは、特にブラックの女の子としては本当に不公平です」と彼女は『The Cut』誌で語っている。「何かを証明するために、常に人一倍努力しないといけない気がします。本当はそんな必要はないのに」

2025年11月、トロントでKATSEYEとしてパフォーマンスを行うマノン Jeremychanphotography / Getty Images

現時点で、マノン自身が人種差別が離脱の原因だったと明言したわけではない。ただし彼女は、自身の活動休止について「また黒人女性が人種差別やレーベルの不当な扱いに直面した」と指摘する投稿に“いいね”を押している。

多くの黒人女性アーティストが支持を表明

リトル・ミックスのメンバー、ジェイド・サールウォール、ペリー・エドワーズ、ジェシー・ネルソンと並ぶリー・アン・ピノック(右端)。 Joseph Okpako / Getty Images

このニュースの後、マノンには多くのミュージシャンから支持が寄せられた。2月27日、ニューヨークのブルーノートで行われた公演中、リゾは「Gnarly」をフルートで演奏し、「あなたを愛してるし、応援してる。ゆっくり休んでね」とマノンにメッセージを送った。リトル・ミックスの元メンバーで、ノーマニやマノンとのコラボを望んでいるリー・アンは、Xに「私たちは互いを守らなければならない」と投稿。プッシーキャット・ドールズ唯一のブラックメンバーだったメロディ・ソーントンは、バナーマンの写真をインスタグラムに投稿し、「あなたを見てる」とメッセージを添えた。クロイ・ベイリーもDiscordで、「マノンの件、本当に悲しい」とコメントしている。

彼女に対するこの圧倒的な支持は、ポップ界で黒人女性が置かれてきた厳しい状況を、多くの人が理解していることの表れとも言えそうだ。 ポップシーンで黒人女性として活動することは、しばしばどこにも完全には受け入れられない立場に置かれることを意味する。ときには、自分と同じコミュニティからさえも。

1998年のSoul Train Awardsに出席したホイットニー・ヒューストン。 Steve Granitz / Getty Images

史上屈指のポップスターであるホイットニー・ヒューストンも、キャリア初期にその壁にぶつかった。1989年、ブラックミュージックを称えるSoul Train Awardsの会場で、彼女は観客からブーイングを受けたのだ。当時すでに、ヒューストンはデビューアルバムでソロアーティスト史上最大の売上を記録し、アメリカン・ミュージック・アワードを11回、グラミー賞を1回受賞していた。それでもブラックコミュニティの一部からは、「音楽がポップすぎる」と批判された。

ジャネット・ジャクソンも似たような軽視に直面したが、その相手は主に白人の観客だった。2004年のスーパーボウルで起きた衣装トラブルは、彼女の圧倒的な音楽的功績以上に語られる出来事となった。その結果、黒人女性を過度に性的に捉える有害なステレオタイプを、さらに強めることにもつながった。

1990年、「リズム・ネイション」ツアーでパフォーマンスを披露するジャネット・ジャクソン。 Al Pereira / Getty Images

現在では、黒人女性のポップスターが活躍できる余地は以前より広がっている。しかし課題は依然として残る。リアーナやビヨンセのようなスーパースターは、あまりにも巨大な存在であり、もはや個人ブランド級の例外的存在だ。オリヴィア・ディーンやピンクパンサレス、タイラのようにジャンルを越えて活躍するZ世代の黒人女性シンガーは増えているが、ポップ界ではいまだに白人女性アーティストが成功の大半を占めている。昨年、Spotifyの世界女性アーティストランキング上位は、テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュ、アリアナ・グランデなど白人女性アーティストに占められた。

2021年のMTVビデオ・ミュージック・アワードでパフォーマンスを行うノーマニ。 Jeff Kravitz/MTV VMAs 2021 / Getty Images

ダンスポップシンガーのティナーシェはキャリア初期、R&Bの枠に押し込められたことに対して、ポップアーティストとして真剣に受け止められないことへの苛立ちを公に語っている。2024年の『ELLE』誌で彼女は次のように打ち明けた。「この業界に入ったばかりの頃は、枠にはめられたり、型にはめられたりすることに必死で抗っていました」

元フィフス・ハーモニーで唯一のブラックメンバーだったノーマニも、同様に困難を経験してきた。グループ時代、彼女はネットで人種差別的いじめを受けた。2018年にグループが解散すると、ノーマニはソロのポップキャリアをスタートさせ、2019年のシングル「Motivation」とそのノスタルジックなMVで大きな期待を集めた。しかしデビューアルバム『Dopamine』がリリースされたのは2024年で、メインマーケットでの成功には届かなかった。ティナーシェと同様、ノーマニも苦悩を率直に語っている。「私のような見た目の黒人女性が、自分の好きなポップソングを歌うと、それがなぜかネガティブに扱われてしまう」

黒人女性のポップスターは、もっと必要とされている

マノン・バナーマン(Manon Bannerman)。 Frazer Harrison / Getty Images

ソロであれグループであれ、ポップシーンで活動する黒人女性たちは、長い間、正当な評価と敬意を受けることを待ち続けてきた。彼女たちは祝福され、自分自身の道を切り開き、業界の固定観念に縛られることなく、自由に表現できるべきだ。活動休止の発表以降、比較的沈黙を守っていたマノンは最近、インスタグラムのストーリーズでファンへメッセージを投稿した。「言葉では言い表せないほど、みんなを愛してる」

彼女がいつ、あるいは戻ってくるのかはまだ分からない。だがファンや仲間のアーティストから寄せられた愛は、ひとつの事実を示している。たとえ世界がまだ完全には受け入れる準備ができていなくても、黒人女性のポップスターは、もっと必要とされているのだ。

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