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第98回アカデミー賞(2026年)のゆくえを映画ライターよしひろまさみちさんが大予測!『国宝』受賞はある?

  • 2026.3.13
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毎年恒例のアカデミー賞受賞予測。今年は、映画ライターよしひろまさみちさんが、要点を3つに絞って解説。これを読めば、今年のアカデミー賞の必見ポイントがまるわかり!

今年のオスカー、どうなりますかね? と、いつもですと、映画が大好きな現役バキバキの俳優さんにうかがってましたが、今年はちょいと趣向を変えてまとめ記事。というのも、今年はハリウッドの業界全体があまりにも激動過ぎて、一言でいうとエグいので。ただ受賞者の予想でワイワイ言える感じでもないんですよー。

さて、ポイントを絞りましょう。
①注目すべき作品・キーパーソン・部門
②日本勢をとりまく状況
③激動する映画業界のゆくえ

順を追って解説します。

①第98回アカデミー賞(2026年)の注目作品、キーパーソン、目玉部門

“ワンバト” VS.『罪人たち』勝つのはどっち?

(C) 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories
(C) 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema(R) is a registered trademark of Dolby Laboratories

まず①。今年の話題の中心は、史上最多の全16ノミネートとなった『罪人たち』、それに昨秋から前哨戦と話題をかっさらっている“ワンバト”こと『ワン・バトル・アフター・アナザー』。オスカー前哨戦とされる各組合のアワードの結果からいくと、ほぼ“ワンバト”に軍配が上がりそうです。じゃ『罪人たち』は? というと、ノミネート数が多すぎると話題の候補賞を逃すオスカーのジンクスが……。

たとえば2016年に13部門14ノミネートされて当時の史上最多記録となった『ラ・ラ・ランド』は6部門受賞しましたが、あの歴史的大事件「作品賞誤発表」のとおり、作品賞は『ムーンライト』でしたよね。この作品と同数タイだった1998年の『タイタニック』は11部門受賞と、とりこぼし3部門でほぼ総なめではありましたが、俳優賞は逃しています。候補数が多い作品は、話題性から言えばほぼ当確の部門を逃すという天邪鬼な結果になりがちなんですねー。

監督賞はPTAが最有力!

『ワン・バトル・アフター・アナザー』ポール・トーマス・アンダーソン監督、監督賞の受賞なるか Kevin Winter / Getty Images

そうはならん、と思いたいところですが、今年は前哨戦の結果からほぼ“ワンバト”がかっさらう予定。『罪人たち』はアクター賞を制しただけに俳優賞は当確(マイケル・B・ジョーダンの主演男優賞やキャスティング賞など)。とはいえ、注目されるのは世界三大映画祭で監督賞をゲットしていながら、まだオスカーはとっていないポール・トーマス・アンダーソンでしょうね。PTAに今回監督賞あげないでいつあげるの!? と思うのは、オスカー会員でなくても考える人は多いはず。しかも、脚色や編集なども含めて技術的な匠の技にも賞がいくでしょうし、それをたばねた監督にあげずにどうする! というのは自然なこと。

審査員の多様化が進行中

ちなみに、もしアフリカ系がメインの『罪人たち』がとりこぼすと、人種差別として批判する人もいると思います。そしてその気持も分かります。だって『罪人たち』、めちゃおもろいもん。ですが、その批判自体がちょいと筋違い。そもそもオスカー会員の構成がこの5年強でガラリと変わり、人種や国籍が多様化しているんですよ。

その実、国際長編映画賞の最有力とされている『センチメンタル・バリュー』が主要賞候補入りしていることや、主演男優賞でも『シークレット・エージェント』(国際長編部門の次点とされてます)ヴァグネル・モウラがノミニーに。アカデミー賞はアメリカ最大の映画賞なので、ハリウッド資本の映画、もしくは英語映画がひいきされて当然。なんですが、アカデミー自体の改革、『パラサイト 半地下の家族』が席巻して以来保たれているフラットな評価の流れは着実に進んでいるといえるのでは?

国際長編映画賞の最有力候補、スウェーデンのヨアキム・トリアー監督作『センチメンタル・バリュー』 ©2025 MER FILM / EYE EYE PICTURES / LUMEN / MK PRODUCTIONS / ZENTROPA ENTERTAINMENTS5 APS / ZENTROPA SWEDEN AB / KOMPLIZEN FILM / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ARTE FRANCE CINÉMA / FILM I VÄST / OSLO FILM FUND / MEDIEFONDET ZEFYR / ZDF / ARTE

人種、国籍、言語などはマジでどうでもよくて、「この部門ならこれが最高」とされるものに票が流れるようになったのは豊かで素晴らしいことだと思います(が、それゆえに、対象作が多様化して、いわゆるハリウッドの超大作が候補止まりになり、華やかさが失われていることは否めませんが)。

②日本勢をとりまく状況

日本に関する作品は『国宝』『スマッシング・マシーン』『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の3本!

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会

さて、そんな中で日本関連です。『レンタル・ファミリー』はいいとこまでいったけど候補入りできなかったのが残念。ですが、ヘア&メイクアップ賞で『スマッシング・マシーン』と『国宝』、主要部門で『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』が候補入りしました。『国宝』は日本映画なのでいわずもがなですが(そして歌舞伎床山さんにスポットが当たったのは最高に嬉しい)、総合格闘技団体「PRIDE」の話である『スマッシング・マシーン』はほぼ日本が舞台で、主演のドウェイン・ジョンソンをマーク・ケアーそっくりにしたメイクは、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でオスカーを受けた日本出身のカズ・ヒロさんのチーム。『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』では主人公のライバルが日本人ということもあり、終盤の大接戦は東京で開催される大会(上野のロケセットで撮影)。と、実は日本、日本人が絡むものが3作あります(いや、もっというと『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』のVFXチームなど、スタッフレベルでは日本出身の方々がめちゃ大量にいるんですけどね)。

メイクアップ&ヘアスタイリング賞候補の『国宝』と『スマッシング・マシーン』はどうなる?

さてヘアメイクの方でいくと、昨年12月に発表された、映画業界の専門家たちが優れた作品や技術を称える業界賞「メイクアップ・アーティスト&ヘアスタイリスト協会賞」で選ばれたのは、“ワンバト”と『罪人たち』。実は『国宝』と『スマッシング~』、この業界賞の候補に入っていなかったんです。で、候補の中でオスカーを勝ち抜きそうなのは、全員が主役みたいな『罪人たち』か、主要賞候補ながらもどれも逃しそうで、なおかつクリエイティブなメイクだった『フランケンシュタイン』になるのでは? そして『マーティ~』で可能性がありそうなのは美術賞あたりになるのでは? とされてます(おティモの問題発言拡散は投票後なので影響なく、むしろBAFTA直後からちょっとずつ勢い失っているので)。むぐぐ。

ティモシー・シャラメ主演の『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は9部門でノミネート (C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

③激動する映画業界のゆくえ

最後に業界のお話。報道でもご存知のとおり、大手スタジオの買収劇が繰り広げられている今、業界自体が再編の流れを見せています。これは映画制作・配給だけではなく、テレビ事業や配信などで大きくなりすぎたスタジオが、自重に耐えきれなくなって起きていること。なんせ今の大手スタジオ、映画会社というよりは異業種が混在するコングロマリットの一部ですから、損切りするのは当たり前。

Mario Tama / Getty Images

その大きくなりすぎたスタジオを維持、もしくはパワーアップして旧来のやり方を変えずにいこうとする勢力と、そうではなくリスクを分散していこうとする勢力に分かれつつあるんですね。前者はもともとあるスタジオ、後者はオスカー候補にもなる有力作品を抱える中小規模の製作・配給会社。前者がふんばれば大丈夫、とは言いにくいのが、この問題の根深いところです。

じつはこういった問題は今に始まったことではないんですよ。たとえば、2000年代には、アニメーション大手のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに存続の危機があったんですね。『リトル・マーメイド』から続いた第二黄金期がじわじわと終わりを迎え、伝統と技術を持っていても事業縮小をしないともたない、とされた時期です。『塔の上のラプンツェル』以降、その後の大復活で第三黄金期を迎えたことは皆さん御存知の通りですが、復活を支えたのは当時のクリエイティブチーム。作品のデキがよろしければ、人もカネも回るようになる、という証左にもなっています。

ブラッド・ピット主演『F1(R)/エフワン』は作品賞など4部門にノミネート (C) 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

ところが、コロナ禍と大型ストライキを経て、ハリウッドのお財布の紐は固くなり「当たるものにしかカネは回さん!」という悪い流れに。オリジナル作品の企画は通らず、大作と呼ばれるものはほぼシリーズもの。たまに大ヒットする非シリーズの大作は、どれも配信社が大資本となっています。たとえば『F1(R)/エフワン』はApple、今年上半期最大の超大作とされる『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はAmazon(傘下のMGM)、配信メインで最多ノミニーになった『フランケンシュタイン』はNetflixです。

作品賞など9部門でノミネートされている『フランケンシュタイン』 Netflix映画『フランケンシュタイン』独占配信中

単純に「映画スタジオが弱体化して配信が強くなった」だけでは説明がつきません。多様であるべき映画が、ヒットが想定される作品にしかカネが回らない、回さなくなったことで、クリエイティブを担う人々にも影響が出ているんですね。だって、オリジナルでどんなにいい企画でも通らないなら、その仕事辞めて食い扶持探しますもん。この10年程度、その受け皿になってきたのが配信オリジナル作品。配信が強くなったことで、企画もカネも回る配信に映画業界の人が動いた(動いている)し、結局は人なんですよね……。とはいえ、ですが、その勢いも以前ほどではなくなっているので、シンプルに「配信が強い」とも言い難くなってます。

そこで頭角を現したのが、中小規模の企業。たとえば今回のオスカーでは『マーティ~』と『スマッシング・マシーン』が候補入りしたA24、または国際長編部門の大半の作品を買い付けて北米配給を担うNEONなどが急激に力を蓄えつつあります。この数年の作品タイトルの充実化、その高い収益率などが評価され、ブランド化。存在感が急増しました。ハリウッド大手に匹敵する勢力ではありませんが、「ハリウッド超大作」が流行遅れとなりつつある昨今、この存在感は無視することはできなくなっています。

いずれにしても、ハリウッド大手のあり方、収支に見合わない超大作の見直しなど、今後数年で今までの「ハリウッド」が様変わりすることは確定事項。その影響はオスカーにも出始めているとみていいでしょう。

NEON配給、カンヌのパルムドール受賞作『シンプル・アクシデント/偶然』は脚本賞と国際長編映画賞にノミネートされている ©LesFilmsPelleas



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