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現代女性に寄り添う「クロエ」。コミュニティの絆と“安らぎの聖地”を届ける

  • 2026.3.13
Aurore Marechal / Getty Images

女性デザイナーが女性のために服を作るとき、そのメッセージはしばしば“エンパワメント”という言葉で語られる。現実世界を生き抜くための強さや自立を象徴する、いわば鎧(よろい)のような衣服として。

Daniele Schiavello / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

だが、シェミナ・カマリの手がける「クロエ」の世界観には、女性を鼓舞しながらも、もうひとつ別のぬくもりを感じさせる。闘うための強さというよりも、むしろ包み込むような感覚。安心感と高揚感、そしてつかの間の解放。まるで心のより所に帰ってきたような、帰属意識をもたらす。“フォークロア”を中核に据えた今季は、まさにその象徴といえるだろう。

Daniele Schiavello / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

フォークロア、つまり民族的な要素を引用しながらも、カマリの世界では文化的参照は決して特定の土地にとどまらない。ヨーロッパの民俗文化の残響、アメリカのプレーリーを思わせる牧歌的なイメージ、旅の記憶の断片。それらがゆるやかに重なり合い、時間や場所の境界をぼかしながら、一つの情景を立ち上げていく。

Alessandro Lucioni / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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一貫しているのは、どれも空気をはらんで弾む軽快さ。色とりどりのモスリンが歩みに合わせて揺れ、シルクシフォンのスカートが大きく翻る。ほっこりとした懐かしさを帯びるチェック柄が多用され、ラバリエール付きブラウスや段になったペチコート、ゆるやかに流れるドレス、ふくらみのあるパンツに至るまで、さまざまなシルエットに繰り返し現れた。さらに、花をちりばめた手編みのカーディガンやキルティングのスカート、パッチワークのジャケットなどには、どこか手仕事のぬくもりが宿っている。

Alessandro Lucioni / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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ルックが進むにつれ、コレクションの風景はゆるやかに変化した。序盤の民族調のロマンティシズムを帯びた空気から、次第に都会的なボーホーシックへ。トレンチコートやポンチョ、長いケープといったアウターの存在感が増し、鮮やかな色彩はやがて「クロエ」らしいパウダーカラーへとなめらかに移行し、終盤には白と黒のモノトーンへと収束していく。

Alessandro Lucioni / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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レースやフリルを幾重にも重ねたボリュームたっぷりのブラウスやドレス。そこへレザーのボトムスやブーツが加わることで、ロマンティックなシルエットにほのかなエッジが差し込まれる。全体を通して、シルエットは風のような流動性を保ち続け、解放的な女性像を軽やかに描き出していた。

Alessandro Viero / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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アクセサリーもまた、この物語を補完するキーパーツ。シアリングのサイハイブーツは冬の厳しさを思わせながら脚をやわらかく包み込み、ストッキングに合わせたサンダルが抜け感を添える。髪にはビーズや小さなチャームをしのばせて、それぞれが自由を象徴する小さなタリスマンのように輝いていた。

Alessandro Viero / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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オランダの民族衣装から踏襲したチューリップのモチーフが、ジュエリーから陶器のような質感のバッグにまで姿を変えながら、コレクションのあちこちにちりばめられている。シグネチャーの“パディントン”にはキャンバスを配した新作が登場し、2010年に誕生し当時女性たちを夢中にさせた“マーシー”バッグも再解釈されてお目見え。装飾的なサドルステッチはそのままに、デイリーユースなレザーから、ベルベットのミニサイズまで、多彩なバリエーションがそろう。

Victor Virgile / Getty Images

こうして眺めていると、カマリの「クロエ」は特定の時代や場所に縛られていないことに気づく。むしろ、それらの境界を軽やかに越えていき、世界のどこかに存在するかもしれない“もうひとつの風景”を思い描かせる。それは、現実から逃避するための夢想ではなく、女性たちが誰かの期待や社会の規範からほんの少し距離を置き、心を解き放って自由でいられる場所。そんな感覚を共有する“クロエ ウーマン”のコミュニティは、これからさらに広がっていきそうだ。

Aurore Marechal / Getty Images
Hearst Owned
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