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ヨシタケシンスケ 初期スケッチ集にも"ヨシタケさんらしさ"は満載だった! 『そのうちプラン』『じゃあ君が好き』に込められた、さりげない人生の希望【書評】

  • 2026.3.12
『そのうちプラン』 (ちくま文庫 / ヨシタケシンスケ)
『そのうちプラン』 (ちくま文庫 / ヨシタケシンスケ)

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『じゃあ君が好き』 (ちくま文庫 / ヨシタケシンスケ)
『じゃあ君が好き』 (ちくま文庫 / ヨシタケシンスケ)

ヨシタケシンスケの初期スケッチ集が「復刻祭」と称して2冊同時に刊行される。赤ちゃんっぽいスケッチを集めた『そのうちプラン』(ちくま文庫)と恋愛っぽいものを集めた『じゃあ君が好き』(ちくま文庫)。あいかわらず、タイトルが秀逸だ。だいたいのことにおいて「そのうちね」と言ったことは実現しないし、「じゃあ好き」なんて言われて喜ぶ人はあんまりいない。でも、人生の希望って「そのうち」と思える瞬間の積み重ねのなかにある気がするし、「じゃあ」にこめられた面倒くささやとりあえず感のなかにこそ深い愛が詰まっている気もする。それが、ヨシタケシンスケさんの魅力だよなあ、と2冊を並べて集めて思う。

どちらの本にも、赤ちゃんっぽいスケッチと恋愛っぽいスケッチがあふれているかといえば、そうではないのも、なんかいい。あくまで「っぽい」だけであって、そのものではない。それくらい、ゆるくていいよなと思えるのもヨシタケさんの本のよさだ。

〈私が幸せになることがあなたの幸せなの。だからあなたはたくさん苦労しなきゃいけないの〉という言葉に添えられた犬(『そのうちプラン』)には、逆説的に「だから私はこんなに苦労ばっかりなのか!」としみじみしてしまうし、「ボクの好きな人がボクが好きなものをほめていた。最高だネ」という男(の子)にはきゅんとしつつ初心をとりもどすような気持ちになる。

でもただ渋い顔をしているオジサンや、「就活オンアイス」というダジャレだかなんだかわからない言葉、ハンバーグを作るだけのコック。意味なんてたぶんなんにもない瞬間をとじこめた、その愛らしさにこそ目を向けられる自分でいたいな、とも思う。ふふっと笑う。これ知ってる、と思い出す。あれに似てる、と連想する。ヨシタケさんのように描きためてはいなくても、心のなかに生きてきた日々のぶんだけ積もっているはずのスケッチをとりだしながら、つかのま、なんの役にも立たない時間をいつくしむ。明日から、いや、本を閉じた次の瞬間から、自分もこういう瞬間をスケッチしたいと思いながら町を歩く。そんな、なんでもなさの大事さを、この2冊はとりもどさせてくれる。

2冊ともに、新たにまえがきが書き下ろされているのだが、『じゃあ君が好き』で書かれていた〈今の自分も、未来の自分に「かわいいなあ」と思われているはず〉という言葉が心に残った。たしかに、過去の自分の写真を見て「このころは自分のことが大嫌いであれこれもがいていたけれど、けっこうかわいい顔して笑ってんじゃん」と思ったりすることがある。もちろん、だからって「今」の切実さが消えるわけじゃないし、その苦しみを矮小化するつもりもないけれど、そんな瞬間もふくめて人生のスケッチを重ねていけば、いつか、ふふっと笑える日が来るかもしれない、と思うと、なんだか気持ちが楽になる。

心のかたいむすびめは、簡単にほどくこともゆるめることもできないけれど「まあいっか、そのうちね」「じゃあこれはこれでありってことで」とつかのまラクにしてくれる。それこそがヨシタケさんなのだと、存分に体感することのできる2冊である。

文=立花もも

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