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「自分の存在なんぞは取るに足るまい」自分を大切にしない、生きるための哲学本ほか、本読みの達人たちが教える選りすぐりの新刊本

  • 2026.3.10

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年3月号からの転載です。

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本読みの達人、ダ・ヴィンチBOOK Watchersがあらゆるジャンルの新刊本から選りすぐりの8冊をご紹介。あなたの気になる一冊はどれですか。

イラスト=千野エー

[読得指数]★★★★★

この本を読んで味わえる気分、およびオトクなポイント。

前田裕太

まえだ・ゆうた●1992年生まれ、神奈川県出身。芸人。高岸宏行とともにお笑いコンビ・ティモンディを結成。数々のバラエティ番組に出演し活躍。著書に『自意識のラストダンス』がある。

『「死」を考える』 (南直哉/河出新書)968円(税込)
『「死」を考える』 (南直哉/河出新書)968円(税込)

逃げ場のない大人こそ読むべき一冊

本書は、禅僧である南さんが宗教や信仰の枠を超えて「死とは何か」「生きるとは何か」を真正面から問うたものであり、令和の時代に読むべき“生と死の哲学”が記された一冊だ。

目から鱗だったのが「自分を大切にしない」という考え方だ。生きる上で学びになる視点であった。

誰でもお宝は惜しいと思うだろう。だが、ゴミだと思えば簡単に捨てられる。

自分が死んで本当に困る人は何人いるのか。所詮自分の存在なんぞは取るに足るまい、と考えるのである。やや極端とも言えるこの考え方の意味が、本書を読むと明らかになるだろう。一見、自己を否定する考え方のようにも思えるこの思考が、実は生きる哲学に直結する。

他人と一緒に生きる上で生じる問題に対しても、本書では重要な指摘が与えられる。生きる意味を考えたことがある人は必読である。

哲学/死生観

生き方への学びがある度

★★★★★

『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』 (ジェーン・スー/光文社)1760円(税込)
『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』 (ジェーン・スー/光文社)1760円(税込)

当たり前へ強烈なアンチテーゼを食らわせる

本書は、美容雑誌での連載をまとめただけあって美容に関する話題を中心としたエッセイなのだけれど、軽快で読みやすい。何より文章に飾り気がなく、等身大な表現が魅力的である。プライベートも赤裸々に書かれていて、笑いながらサクサクと読み進められる。かつて同棲までしながら別れた彼氏とよりを戻したエピソードが秀逸で、これは是非読者には気楽に読んで楽しんでもらいたい。

そんなユーモア溢れるエピソードが綴られてはいるが、昔と比べて老いてしまった今をどのように生きているのか、若さを失った代わりに何を得たのか、と考えさせられる内容でもある。

30代の僕も、理想と現実の乖離を感じることがある。今の自分とどう向き合うか、というテーマの本書は、成熟した大人が元気を貰える内容で、歳を取ることは素晴らしいと思わせてくれる明るい作品である。

文芸/エッセイ

今の歳の自分を肯定する度

★★★★★

村井理子

むらい・りこ●1970年生まれ、静岡県出身。翻訳家、エッセイスト。著書に『村井さんちの生活』『兄の終い』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。訳書としては『ゼロからトースターを作ってみた結果』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』ほか。

『なぜ日本文学は英米で人気があるのか』 (鴻巣友季子/ハヤカワ新書)1254円(税込)
『なぜ日本文学は英米で人気があるのか』 (鴻巣友季子/ハヤカワ新書)1254円(税込)

日本文学の躍進に胸熱!

王谷晶、柚木麻子、川上弘美、村田沙耶香、市川沙央……近年、海外で高く評価されている女性作家をあげていけばきりがないのだが、同じ出版界の片隅に身を置く者としては、その快進撃が心から誇らしく、そして尊敬の念が湧き出てくる。海外の文学賞を受賞したと聞けばガッツポーズをし、賞レースの最終候補に残ったと聞けば、絶対に受賞してくれと祈る私。それほどまでに応援しているわけだが、ふと「なぜこんなにも人気があるのか?」と考えたとき、明確な答えを導き出すことはできなかった。そこで文芸評論家であり翻訳家の鴻巣友季子氏によるこの一冊である。鴻巣氏といえば真っ先にその翻訳作品が思い浮かぶ読者も多いはずだが、私にとって鴻巣氏は「日本文芸を広く見渡す唯一無二のスペシャリスト」。ますます海外で評価を高める日本文学を読み始めようと思う人は、本書も是非。翻訳文学を取り巻くムーブメントも深く理解できるはずだ。

評論/文学

日本文学を応援してしまう度

★★★★★

『面倒だけど、幸せになってみようか 日本文学翻訳家の日常』 (クォン・ナミ:著、藤田麗子:訳/平凡社)2640円(税込)
『面倒だけど、幸せになってみようか 日本文学翻訳家の日常』 (クォン・ナミ:著、藤田麗子:訳/平凡社)2640円(税込)

日本文学の韓国語訳だったらこの人!

日本を代表する作家の韓国語訳を数多く手がけ、エッセイの名手としても知られるクォン・ナミ氏の最新エッセイが本書。翻訳家として、母として、作家として、等身大の暮らしを綴る彼女のスタイルは、読めば読むほどクセになる。少し斜に構え、たっぷりと優しくて、いたずらで、文章がさりげなくて、とても上手。そんな女性に私もなりたいと思いつつ、次々とページをめくることができる。きっとナミさんご自身も、さらさらと、リズムよく文章を書かれるのだろう。一人の部屋で、カフェで、図書館で。韓国に住むひとりの女性の暮らしを想像しながら読むのがぴったりの一冊だ。そしてなにより、日本文学が韓国で広く親しまれるようになったのは、ナミさんが努力を重ねて翻訳をしてくれたから。翻訳という営みを考えるとき、ナミさんとタッグを組む翻訳家、藤田麗子氏の活躍も特筆に値する。言語を超えてわかり合えるというのは、本当に素敵なことだ。

文芸/エッセイ

韓国に思いを馳せる度

★★★★★

本間 悠

ほんま・はるか●1979年生まれ、佐賀市在住。書店店長。明林堂書店南佐賀店やうなぎBOOKSで勤務し、現在は佐賀之書店の店長を務める。バラエティ書店員として書評執筆やラジオパーソナリティなどマルチに活躍の幅を広げている。

『あーあ。織守きょうや自業自得短編集』 (織守きょうや/光文社)1980円(税込)
『あーあ。織守きょうや自業自得短編集』 (織守きょうや/光文社)1980円(税込)

自業自得だから同情無用! 変幻自在のイヤミス6連発

「幽霊刑」の主人公は、自宅への帰路、とある犯行現場をたまたま目撃した男・杉本。その危険性を認識していながら、巻き込まれることを忌避して現場を立ち去った彼は、近年制定されたばかりの「傍観罪」で有罪に。外出時には「不可視化装置」を装着するという、6カ月間の保護観察処分が下される。“その装置の中にいる限り、あなたの姿は誰にも見えませんし、声も聞こえません”。見て見ぬふりをした杉本にとって、誰からも見てもらえないという、まさに自業自得の生活がはじまるのだが……。

用意されたオチは想像の斜め上をいくものばかりで、どれも甲乙つけがたい。作者らしいキレッキレのイヤミスが発動するたび、ちょーっと同情しかけるものの、そこは基本的に自業自得。ざまあみろ! とまではいかずとも、なんとも言えぬ清涼感が訪れます。人の不幸は蜜の味。せめて誠実に生きよう……という自戒にもなる一冊です。

文芸/小説

心霊スポットは行きません度

★★★★★

『陽ちゃんからのそよ風』 (山崎ナオコーラ/河出書房新社)1980円(税込)
『陽ちゃんからのそよ風』 (山崎ナオコーラ/河出書房新社)1980円(税込)

ちょっと疲れている人に。優しいそよ風の人生賛歌

自分って一体何なんだろう、どこに属しているんだろう。ジェンダーへのモヤモヤを抱え、11歳まで友だちがいなかったアマネは、初めての友だち・陽ちゃんに出会う。本作はアマネがその生涯を終えるまでの、壮大な思考の物語だ。

アマネの眼鏡と言葉を借りて見る世界は新鮮の一言。“あ、でも、友だちって、理解し合わないといけないんだっけ? 理解できないままでも仲良くしていけるんじゃないかな”。傍線を引いた箇所はいくつかあるが、すとんと落ちてくる言葉たちは、しゅわしゅわの飴玉のようにいつまでも口の中で転がしていたくなる。

人は無風では生きていけない。出会いや別れによって巻き起こる風に背中を押されたり、時にその針路を変えたりして生きている。新しく生まれなおしたような体験ができる本作は、心が曇ってきたら何度でも読み返したい一冊だ。

文芸/小説

必要な人に届いてほしい度

★★★★★

渡辺祐真

わたなべ・すけざね●1992年生まれ、東京都出身。2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。著書に『物語のカギ』がある。

『感覚史入門 なぜプラスチックを「清潔」に感じるのか』 (久野愛/平凡社新書)1210円(税込)
『感覚史入門 なぜプラスチックを「清潔」に感じるのか』 (久野愛/平凡社新書)1210円(税込)

いつから人は品物を見た目で買うようになったか

食料品や家電など、何かを買う場面を想像してほしい。多くの場合、店舗に行くかネットショッピングをするだろう。その際、主な判断基準となるのは視覚だ。ネットの場合は実物に対面できないし、店舗の場合もまずは陳列棚を眺めるところから始まる。

しかし視覚中心の買い物はまだ100年程度だ。陳列棚が普及する前、買い物といえば、店主と話して奥から出してきてもらう形式が主流だった。そこでは店主とのコミュニケーションを軸にした、物品に対する総合力が求められた。つまり現在ほどの視覚優位ではなかったのだ。ではなぜ陳列が可能になったのか。それは物品を清潔に保ち、綺麗に見せられるプラスチックやセロハンが開発されたからだと、本書は述べる。そうした物と人間の感覚をめぐる近代史を通して、人間の感覚は絶対普遍ではなく、環境や物によって簡単に変化することが分かる。特にセロハンを通したジェンダー分析が面白い。

論考/マーケティング

個包装のすごさに気づく度

★★★★★

『ベルクソン入門』 (村山達也/青土社)2860円(税込)
『ベルクソン入門』 (村山達也/青土社)2860円(税込)

時間から人間の全てを解き明かした哲学者

ベルクソンにずっと憧れていた。19〜20世紀フランスを生き、ノーベル文学賞を受賞した哲学者だ。あまりに難解でよく分からなかったのだが、近年ベルクソン研究は進み、一般読者にも馴染み深い本が増えてきた。本書は入門と銘打たれた待望の一冊で、難解なベルクソン哲学を、いたずらに単純化せず、きちんと核心を伝えてくれる良書となっている。

ベルクソンの鍵は時間だ。自由意志、心と身体、信仰など、哲学が向き合うありとあらゆる問題に対して、時間を手掛かりに答えを出した。例えば、物から、虫や動物、そして人間までを、時間感覚の差をもとに分けた。外部からの刺激に対する応答に要する時間には、虫と人間で差がある。当然、虫の方が短く人間の方が長い。この時間差が各生物を生物たらしめているというのがベルクソンの主張だ。机上の空論ではなく、この論には先見性があった。世界の見え方が変わるはずだ。

論考/哲学

一瞬一瞬への感度が変わる度

★★★★★

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