1. トップ
  2. 恋愛
  3. 運命が見えると、恋は不器用になる。“赤い糸の相手”が見える彼が選ぶのは運命か、本音か【書評】

運命が見えると、恋は不器用になる。“赤い糸の相手”が見える彼が選ぶのは運命か、本音か【書評】

  • 2026.3.10

【漫画】本編を読む

「運命の赤い糸の相手」を想像したことがある人は少なくないだろう。恋愛がうまくいかない夜や、心が少し弱っているときほど、「本当に運命の相手はいるのだろうか」という問いは、静かに胸に浮かび上がる。

『運命を信じない彼が言うには』(おむ・ザ・ライス/KADOKAWA)は、そんな誰もが抱いたことのある“運命”への憧れと不安を、等身大で、どこまでも不器用な恋模様として描いた物語だ。

営業職として働く26歳のサラリーマン・藤航介には、“運命の赤い糸”が見えるという誰にも言えない秘密がある。その能力ゆえに、彼は大学の同期・長谷川ゆかへの想いを胸の奥に押し込めたまま、踏み出せずにいる。なぜなら、二人の指先に赤い糸はつながっていない――その現実を、誰よりも彼自身が知っているからだ。

一方のゆかは、占い師から「運命の相手は近くにいる」と告げられたことをきっかけに、これまで“ただの男友達”だった航介を、急に意識し始める。恋愛に慣れていないがゆえの照れや戸惑いが、彼女の態度をぎこちなくし、素直になれない言葉や、すれ違う行動となって表れてしまう。その様子はもどかしくもあり、同時にどこか痛いほどリアルだ。

この物語が魅力的なのは、「運命が見える」というファンタジーの設定を持ちながらも、描かれている感情が驚くほど現実的である点にある。赤い糸という“未来の正解”が視覚化されているからこそ、航介は自分の気持ちに臆病になり、ゆかは自分の想いに確信を持てずに揺れる。好意は確かにそこにあるのに、お互いを思うあまり距離を取ってしまう二人の姿に、読み手はもどかしさを感じ、胸を締め付けられるはずだ。

『運命を信じない彼が言うには』は、運命に翻弄されながらも、最後に問われるのは、「それでも、自分はどうしたいのか」という、ごくシンプルで切実な問いだ。赤い糸が示す未来か、それとも今この瞬間に芽生えた想いか――選ぶのは、他でもない自分自身。

読み終えたあと、きっとあなたの心にも「あなたは、運命を信じますか? それとも、自分の気持ちを信じますか?」という、静かでやさしい問いが残るだろう。

文=ネゴト / すずかん

元記事で読む
の記事をもっとみる