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認知症でも前向き!全国7人のうち1人に選ばれた、82歳・元教師の「私らしさを忘れない」コツ

  • 2026.3.3

認知症でも前向き!全国7人のうち1人に選ばれた、82歳・元教師の「私らしさを忘れない」コツ

認知症になっても、こんなに明るく前向きに生きられる。地域の仲間に支えられ、講演やボランティアに勤しむ春原治子さんの生き方と言葉は、古い認知症の概念を覆します。

お話を伺ったのは
春原治子さん 認知症本人大使「希望大使」
はるはら・はるこ●1944年生まれ。長野県上田市在住。小学校教諭を38年間務める。定年後は民生委員やボランティアなど地域活動に勤しむ。73歳のときアルツハイマー型認知症と診断される。講演会や地域活動を通して当事者の声を発信。2020年に国から「認知症の希望大使」に任命される。2025年タイに招待され講演などを行う。1男1女を育て、孫5人。

「いよいよ私にもそのときがきた」と自然に受け入れた診断

取材で訪れたのは、上田市豊殿地区にある「ひなたぼっこ とよさと」。地域住民が運営する交流施設で、1階のふれあいサロンではランチとコーヒーを提供し、2階のオレンジサロンでは月2回、認知症の人同士が交流している。治子さんもオレンジサロンの相談役を担い、カフェも手伝っている。

「千葉に住む娘が、電話で同じことを何回も言う私の異変に気づき、受診を勧めてくれて。認知症とわかっても、私はそんなに驚きませんでした。歳をとれば脳も老化して、誰でも認知症になる。いよいよ私にもそのときがきた、と思いました」
病気をすんなり受け入れることができたのは、地域のセミナーで認知症について学び、知識があったからだという。豊殿地区では安心できる地域づくりを目指してセミナーを開講し、治子さんも認知症支援や医療・福祉政策などを学んだ。その後、卒業生たちは「安心の会」という同窓会を作り、地域づくりの種まきを続けている。

「地域の皆さんには『困ったことがあれば助けるから言ってね』『あー、そうなの』という反応で、みんな認知症を理解してくれていました。偏見もなく、今まで通り接してくれたんです」

地域に支えられ、希望大使として全国で活動

現在は週3日、隣の介護事業所のデイサービスを利用している治子さん。「デイサービスの後にここに寄ってコーヒーを飲むのが元気のもとです」と話す。認知症は段階的に進み、数分前に言った内容を忘れることもあるが、「不便は感じません。できないことは家族や仲間に言えば助けてくれる」と前向きだ。
6年前には股関節の手術をし、料理や入浴といった日常のことはできなくなったが、洗濯は全自動でできるし、食事は息子が作って孫が届けてくれる。お金の管理は支援者の櫻井記子さんが預かってくれている。
「物忘れが増えたからって落ち込みません。『人間は考える葦である』とパスカルが言ってますよね。私も物忘れはしても、常に新しい考えが浮かんでます。毎日が新鮮ですよ。昨日のことも忘れちゃうからね」

治子さんは2020年に国から認知症本人大使「希望大使」に任命された。全国7人のうちの一人である。「認知症のことを理解していただけるように頑張らなくちゃって思いました」と使命感を語る。昨年11月には希望大使として国際ヘルスケア学会に招待されタイに渡り、各国の医療関係者や研究者、認知症当事者と面会し、スピーチを行った。

「あなたの中身は変わらない」と寄り添う相談活動

認知症本人や家族が不安や悩みを共有し互いに支え合うピアサポート活動は治子さんの大きな役割だ。オレンジサロンでの相談会では、認知症と診断された人が「自分の人間性が変わってしまうことを一番恐れています」と涙を流しながら打ち明けることがある。
「『大丈夫よ。あなたの中身は変わらない』と手を握って話しかけます。言葉が出にくくなっても、言葉を忘れても、人を想う気持ちや本質は変わりませんよね」
治子さんの言葉に「心が解けました」「自分は変わってないと知れました」と相談者が答える光景を、支援者の櫻井記子さん(写真左)は何度も目にしている。認知症が進んでも人間的な魅力は失われない。会話から滲み出す知性やユーモア、包み込むような優しさから、誰もがそのことを実感できる。

「忘れることに不安をもつあなたへ。認知症になって少し不安になることはあっても、自分自身は変わっていない。もしあなたが認知症になったとしても、あなたが持っているものは変わらない。だから堂々としていればいい」
治子さんが自宅に貼っている希望宣言には、こう記されている。「私は認知症になっても目標に向かい、希望をもち、努力し続け、不可能を可能にしながら力強く生きていきます」。

撮影/佐山裕子(主婦の友社)

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