1. トップ
  2. 恋愛
  3. キッチンカーの窓は異世界!? カリカリの唐揚げと鮭おにぎりが食欲を刺激する! グルメ漫画『デリ・ジョイ』【書評】

キッチンカーの窓は異世界!? カリカリの唐揚げと鮭おにぎりが食欲を刺激する! グルメ漫画『デリ・ジョイ』【書評】

  • 2026.2.27
キッチンカー デリ・ジョイ ―車窓から異世界へ美味いもの密輸販売中!― 水晶零:漫画、りぃん:原作、ゆき哉:キャラクター原案/白泉社
キッチンカー デリ・ジョイ ―車窓から異世界へ美味いもの密輸販売中!― 水晶零:漫画、りぃん:原作、ゆき哉:キャラクター原案/白泉社

この記事の画像を見る

現実世界でいろいろあって異世界に転生…というのが、異世界作品によくある“始まり”のパターンだろう。行った先の異世界には超絶美少女がいて、さらに転生したあとの多くは、現実より強くなってモテモテ。非常に憧れの強い設定ではあるが、主人公にとっては、突然異世界に飛ばされ、勇者や魔法使いとなって魔物を討伐しなければならない。ちょっとハードルが高すぎるのではないか。

そんな中、こんなにもお手軽に異世界とつながれる方法があったか…と感心してしまうのが、漫画『キッチンカー デリ・ジョイ ―車窓から異世界へ美味いもの密輸販売中!―』(水晶零:漫画、りぃん:原作、ゆき哉:キャラクター原案/白泉社)である。

勤務先のお弁当屋が放火されて無職になった透瀬了(すくせ・とおる)は、まるで運命が突然動き出したかのようにキッチンカーを手に入れ、お弁当やデリを販売する“デリ・ジョイ”の店長となる。

キッチンカーには両側に窓があり、どちらかの窓をあけて営業するのだが、営業していないほうの窓をあけると、なぜかそこが異世界とつながるのだ。転生も召喚もなく、タイムマシーンに乗るわけでもない。窓ひとつで異世界につながるというお手軽さ。

ところが、この“現実世界にいながらにして異世界”という設定こそが、本作の大きなポイントである。討伐のノルマもないし、突然魔物が襲ってくることもなく、気が向いたときに車窓をのぞけば、いともたやすく異世界とつながれるのだ。さらに、異世界ものでは1ヶ所に転生し、そこで腰を据えることが多いが、 “デリ・ジョイ”は、2つの異世界とつながっている。移動可能なキッチンカーだからこそ為せる業である。“移動式異世界交流”とでもいえるだろうか。

異世界とつながった了は、車窓を通じて2人の異世界人と出会う。ひとりは、アルヴェードの王都ベンリスで王城の警備兵をする爽やかイケメンのレイモンド。“お一人様”の彼は、仕事前に毎日デリ・ジョイに立ち寄り、朝食を買っていく。

もうひとりは、オッドアイのケモ耳、それもツンデレ属性という美少女要素が3拍子揃った、白銀豹(はくぎんひょう)族の純血種フィヴ。

了の前では無邪気な笑顔を見せるが、じつは隣国との戦争で家族と離ればなれになった戦争難民。森林地域で捕れる食料は限られており、おいしい食事を求めて了のもとにやってくる。了は、フツーなら絶対に出会えないはずの2人と、おいしい食事を通じてつながるのだ。了の料理はやがてレイモンドやフィヴの心を掴み、彼らの生活にもすこしずつ影響を与えていく。

レイモンドを夢中にさせた出来たてカリカリの唐揚げに、鮭ご飯のおにぎり。フィヴを虜にした甘くてしあわせな味がするフルーツサンドやクッキー。その輝きや香りまでも緻密に表現した料理の描写は五感をくすぐり、食欲を刺激する。つまり、おなかがすいてしまう。了は生粋の料理好きらしく、料理をするたびにおいしくなるコツを教えてくれるので(商売なのに作り方を気安く教えてしまうことでレイモンドを心配させるのだが)、グルメな読者はこの漫画を毎日の食事作りに生かすこともできるだろう。

デリ・ジョイの窓の向こうでは戦争が続いている。レイモンドは警備兵なのに緊急遠征に駆り出されるし、フィヴはまだ年端もいかないというのに家族から離れて孤独をかかえ、いつ襲ってくるかわからない敵の襲撃に怯えているのだ。そんな異世界を車窓からのぞくことしかできない了は、彼らが心配なのに何もできない自分にイライラが募るばかり。「こんな時、マジでファンタジー物のチート勇者になれたら」と考えるのだが…。最新の8巻では、了がレイモンドたちを取り巻く世界にますます入り込んでいく。車窓を通じて彼らの交流がどのように深まっていくのか見ものだ。

おいしい食事は人と人をつなげ、時に悩みまでふっとばしてしまう。それはどんな世界でも共通のようだ。現実社会で仕事や人づきあい、恋人、家族との関係などに悩みがちな私たちにとっても、了の作るおいしい食事が心の拠り所となるだろう。

文=吉田あき

元記事で読む
の記事をもっとみる