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「お金がないわ…」車内で焦る80代女性。タクシー運転手が直面した、高齢者送迎のリアルな実態と教訓

  • 2026.4.6
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

私が乗務するエリアでは、平日の昼間にタクシーを利用されるお客様の多くが高齢の方です。

その中でも、病院への送迎依頼が目立ちます。

体調が優れない中での利用シーンのためイレギュラーなことが多々あり、特に支払いに関してのトラブルが多いように思います。

そこで今回は、思わぬ方法での支払いを提案してきたお客様との出来事を紹介します。

病院から施設へ、一人無言で過ごすお客様。

「退院後にそのまま施設へ入所する高齢女性を送ってほしい」

とある総合病院からの依頼で車を走らせていました。

車椅子のまま後部座席に乗車するのは、80代と思わしき女性。

以前から入所していた施設へ戻るのでしょうか?荷物は殆どなく、着の身着のままの退院です。

要介護者の送迎には大抵付き添いの家族がいるのですが、この女性は一人きりでした。

車内では、テレビの音だけが軽快に響いています。

「今日はあいにくの雨ですね」

などと当たり障りのない話題を振ってみましたが、返事はありません。

バックミラー越しにこちらを見つめるばかりで、静かに過ごす女性。

無理におしゃべりをする必要もないので、私はただ黙って車を走らせ続けました。

「所持金がない」を安易に考えた私

しばらくすると、女性はまるで独り言のようにつぶやき出しました。

「カバンはどこ?財布も、どうしましょう」
「お金がないわ…」

これは困りました。

「どうされましたか?」

と何度かたずねましたが一向に返事はなく、どうしましょうどうしましょうと繰り返すばかりです。

お金がないんじゃ降りていただくしかありませんね~。

なんて普段なら簡単に言えますが、車椅子のご老人にこの言葉を投げかけることは現実的ではありません。

施設が支払いを立て替えてくれるだろうと安易に考え、そのまま目的地の施設に到着しました。

施設のまさかの対応と、女性の反応

インターフォンを鳴らすと出てきたのは、“研修中”の名札を下げているスタッフ。

支払いを建て替えてほしい旨を伝えますが、お金に関わることは勝手にやっちゃいけないから、と首を横に振るばかりで話を聞いてもらえません。

そのやり取りを見ていたのか、女性が口を開きました。

「私の部屋に金のネックレスがあるの。それを持ってきてちょうだい。価値があるものよ。」

料金の未払いが発生した場合、警察へ通報して対応を仰ぐなど、現場の運転手にとっては解決までに非常に大きな労力と時間を要する深刻なトラブルとなります。

マニュアル通りに対応しようと困惑する研修中のスタッフと、ネックレスで支払おうと必死に訴える女性の間に挟まれ冷静さを欠いた私は、この近くに鑑定店はあったかな?と漠然と現状を受け入れかけていました。

無事に精算へ

そこに、慌てた様子で別のスタッフが駆けつけます。

女性は耳が遠くてコミュニケーションが取りづらいこと、付き添う予定だった家族が急遽来られなくなったこと、支払いは施設が行うはずだったが伝達できていなかったことを話してくださいました。

場の空気に飲まれて思わず金のネックレスを受け取る気になりかけていた自分が恥ずかしいです。

そうして、無事に精算を済ませてその場を去ることができました。

未払いと運転手

先ほども触れましたが、タクシーでは未払いが発生すると運転手が負担を強いられる場合が多いです。

なのでなんとか精算してほしい一心で、こちらも一生懸命解決策を考えるしかありません。

近年は運賃も変動しているため、思っていたより金額が高くなるケースもあります。

目的地さえ分かっていればある程度の見積りはできるので、不安があれば気軽に運転手に聞いてみてください。

そして乗車前に一度、支払い方法や財布の中身を確認していただくことで、お互いに安心して利用できるのではないかと思いました。

この出来事を通じて、高齢者の単独移動にはご家族や施設との連携がいかに重要かを痛感しました。

あの時、必死にネックレスを差し出そうとした女性の不安な表情を思い出すと、誰もが安心して利用できるサポート体制の必要性を考えずにはいられません。


ライター:成田愛

当時では最年少の21歳で二種免許を取得し、タクシー運転手13年目。今も現場を走り回りながら執筆活動をしています。当事者ならではの体験談を得意とし、読みやすさと伝わりやすさを意識して発信することを心がけています。


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