1. トップ
  2. 朝ドラで特に“演出の妙”が光った2つの名場面「脱帽しっぱなし」「全て計算されてたんだろうな」視聴者から“称賛の声”止まず

朝ドラで特に“演出の妙”が光った2つの名場面「脱帽しっぱなし」「全て計算されてたんだろうな」視聴者から“称賛の声”止まず

  • 2026.3.31
undefined
『ばけばけ』最終週(C)NHK

多くの視聴者の心を掴んだNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が、3月27日に最終回を迎えた。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と、その妻・小泉セツをモデルに、西洋化が進む明治の日本で埋もれてきた“名もなき人々”に光をあて、代弁者として語り紡いだ夫婦の物語を描く本作。セツをモデルにしたヒロイン・松野トキを髙石あかりが、夫のレフカダ・ヘブンをトミー・バストウが演じた。

放送のたびに視聴者からは「ずっと見ていたい」「朝から元気もらってる」など話題を巻き起こしてきた本ドラマの魅力について、掘り下げていく。

※以下本文には放送内容が含まれます。

「ただそこに起きていること」を見つめる

undefined
『ばけばけ』最終週(C)NHK

まず際立つのは、朝ドラでは異例の設定だ。朝ドラの舞台は昭和や大正が中心で、明治を舞台にした作品は珍しい。時代設定ゆえ、戦争や災害といった社会的に大きな出来事を全面に出さない本作では、各エピソードで登場人物それぞれの心の機微に丁寧に光が当てられている。時代の変化に取り残された孤独感や、貧困の中で現状を変えることの困難さは、コロナで世界が一変し、閉塞感の中を生きる現代の私たちにも響くものがある。

そうした人物たちの中で、ひときわ印象的なのがヒロイン・松野トキを演じる髙石あかりの豊かな演技力だ。トキは幼少期に父が多額の借金を背負ったことで学校に通えず、しじみ売りや女中の仕事を掛け持ちして家計を支えてきた。やがてヘブンと結ばれ生活は豊かになるが、今度は街の人々から誤解を受け、非難の的となってしまう。あらゆる困難に直面しながら、いつもトキは笑顔でいた。嬉しくて笑う時もあれば、悲しいことがあっても気丈に浮かべる笑顔もある。一つの表情のようでありながら、あらゆる感情を奥に滲ませる。その表現力は、本ドラマの吸引力のひとつに間違いない。

さらに、彼女が体現したトキは、どんな状況でも地に足のついた生活を続けるたくましさと、笑いを忘れない朗らかさを併せ持つ。そんな姿が、毎朝私たちに笑顔と活力を与えてくれたのは確かだ。

厳選された実力派俳優の演技だからこそできる“見せる演出”

undefined
『ばけばけ』最終週(C)NHK

映画を思わせる画面構成やカメラワークなどの演出も、本作の大きな特徴だ。ここでは特に印象的だった2つのシーンを挙げたい。

1つ目は、2025年最後の放送回の第65回の中の、トキとヘブンの想いが通じ合う場面だ。

トキとヘブンは、橋を挟んだ対岸に住んでいる。その橋は町の人々の間で貧富の差を表すもので、トキとヘブンを隔てる大きな存在だ。ある日、2人は互いの気持ちを確かめられないまま、橋の上で別れようとする。しかしトキが思い切って散歩したいと声をかけ、ヘブンは橋を渡らずに、トキと共に水辺へと歩き出す。やがて2人は手を取り合い、笑顔を交わし、気持ちを確かめ合う。カメラは水辺でそっと距離を縮める2人の姿を、遠くから静かに捉える。

橋という物理的かつ心理的な“距離”の象徴、そしてセリフに頼らず空気で語る演出。さらにこの場所は、トキがかつて前夫・銀二郎(寛一郎)と訪れた場所でもあり、過去と現在が重なり合う構造も印象的だ。

2つ目は、第122回。雨清水八雲(レフカダ・ヘブンの改名後)が縁側で静かに息を引き取る場面である。

自身の死期を悟った八雲は、トキの肩に頭を預け、その手を握りながら最期を迎える。カメラは2人を背後から捉え、やがてわずかに角度を変える。トキの涙を一瞬だけ映した後、再びバックショットへと戻り、静かな最期の時を見守る。

セリフではなく、画角と沈黙で語る演出。そして、それを成立させる俳優陣の確かな演技。これらの積み重ねが、『ばけばけ』を単なる朝ドラの枠にとどまらない作品へと押し上げた。作品を通して、多くの視聴者から「脱帽しっぱなしだった」「全て計算されてたんだろうな」といった、演出や脚本への称賛の声が相次いでいる。

最終週のサブタイトルは「ウラメシ、ケド、スバラシ。」怪談を愛した夫婦がたどり着いたその境地は、現代を生きる私たちへの静かなメッセージでもある。


連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:山田あゆみ
映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand