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フィギュア女王アリサ・リウを支えた「亡命者の父」の正体。1億円の教育費と、五輪直前のスパイ事件とは?

  • 2026.2.26

フィギュアスケート界の頂点を目指す道のりにおいて、アリサ・リウ(20)ほど異例で、かつ人々に勇気を与える軌跡を辿った選手はいない。彼女が初めて世界を驚かせたのは、わずか13歳の時。史上最年少で全米選手権を制し、歴史にその名を刻んだ。その後、2022年には北京オリンピックの代表入りを果たしたが、16歳の若さで「競技生活を終える」と決意し、一度は氷上を去ったのだ。

5歳でスケートを始めてから、16歳までほとんど立ち止まることはありませんでした。ずっとホームスクーリング(自宅学習)で育ちました」と、アリサは2026年のNBCのインタビューで当時を振り返っている。「私はとても社交的な性格で、人との繋がりを求めていたんです。でも、当時はトレーニングのために、家族も友人もそばにいない環境で、何年も一人きりで生活していました」

普通のティーンエイジャーとしての生活を数年間送った後、アリサは再びリンクに戻る決意をした。ただし、今回は自分の意志で、衣装や音楽、プログラムを自ら選ぶという条件付きだ。復帰を決めた際、カリフォルニア州オークランド近郊の実家のクローゼットの奥に投げ込まれ、18カ月間も行方不明だったスケート靴を捜し出すという一幕もあったという。フィギュア界において、このようなブランクを経てのカムバックは前代未聞だが、アリサはこれまでのどのスケーターとも違う特別な存在なのだ。

父アーサーの献身

10年以上にわたり彼女を指導してきたフィリップ・ディグリエルモ氏は、「その言葉はあまり好きではないが、彼女は最初から『怪物』だった」と『Elle』に語っている。「アリサは、タイガー・ウッズやセリーナ・ウィリアムズ、シモーネ・バイルズといった偉大なアスリートたちと同じ領域にいる。間違いなく、彼らに匹敵する驚異的な選手だ」

2019年 Gregory Shamus / Getty Images

ディグリエルモ氏やマッシモ・スカリ氏といったコーチ陣とともに、カメラが必ず捉える人物がいる。スタンドに座るアリサの一番のファン、父アーサー・リウ氏だ。

中国からの亡命を経て、米国での新出発

アーサー氏は、中国・四川省の小さな山の村で育った。1989年、天安門広場での民主化デモに参加した後、政治亡命者としてアメリカへ渡った経歴を持つ。「民主化を求めてデモやハンガーストライキを主導しました」と彼は明かしている。

2019年 MediaNews Group/The Mercury News via Getty Images / Getty Images

その後、アーサー氏は5人の子供の父親となった。アリサは、サンフランシスコ・ベイエリアのリッチモンドで育った5人きょうだいの長女だ。2歳下の妹セレナ、そして4歳下にはジョシュ、ジャスティン、ジュリアの三つ子がいる。兄妹たちは全員、匿名の卵子ドナーと代理母を通じて誕生した。アリサが一時引退した際、「兄妹たちは、私と一緒に過ごせる時間が増えることを喜んでくれましたが、父は少し寂しそうでした」と彼女は語っている。アーサー氏は弁護士として働きながら、アリサの主要な大会にはほとんどすべて足を運んでいる。

約1億円に及ぶ未来への投資

アリサをフィギュアスケートの世界に入れたきっかけは、伝説のスケーター、ミシェル・クワンだった。ロサンゼルス・タイムズ紙によると、アーサー氏はクワンの演技に感動し、幼いアリサをスケート教室に通わせ始めた。オークランド・アイスセンターで、クワンの元コーチに師事していたローラ・リペツキー氏のもとでトレーニングを開始。アーサー氏はCBSに対し、アリサのキャリアのために50万ドルから100万ドル(約7,500万円〜1億5,000万円)を投じたと推測している。

2017年 MediaNews Group/Bay Area News via Getty Images / Getty Images

「彼女をあらゆる場所に連れて行きました。トップコーチから学ぶために日本へも行きましたし、カナダへも連れて行きました」とアーサー氏は語る。アリサもその献身を十分に理解している。2019年の全米選手権で金メダルを獲得した際、彼女はそのメダルを父の首にかけ、「父は毎日リンクまで送迎してくれて、本当に助けてくれます。父の努力はすごいし、このメダルを受け取る権利があると思います」と『Today』で語った。

オリンピック直前に発覚した「中国政府のスパイ事件」

「父は中国からの移民。メンタルヘルスについて学んで育ったわけではないので、家庭でそういった話題が出ることはありませんでした」とアリサは2025年に述べている。「でも今は、以前よりもずっと対話が増えました。学校での学びだけでなく、経験を通じて多くのことを共に学んできたんです」

2022年の北京オリンピックを前に、衝撃的な事件が起きた。アメリカ司法省の発表によると、中国政府が主導するスパイ工作の標的の中に、アーサー氏が含まれていたという。アリサが、中国の「帰化プロジェクト(海外選手を中国代表としてスカウトする計画)」の対象と見なされていたことが背景にあると考えられている。

2021年11月、チームUSA(アメリカ代表)の関係者を名乗る男から電話があり、パスポート情報の提供を求められたことで異変に気づいた。「何かおかしいと感じました。全米フィギュアスケート協会が電話でパスポートのコピーを求めるなんてあり得ないからです」とアーサー氏は振り返る。FBIが介入し、アリサはオリンピック前に捜査官と面会した。彼女はその経験を「少し怖かったけど、エキサイティングだった」と語っている。「まるで映画のキャラクターになったような気分でした。でも、父がかつて活動家として行ってきたことを考えれば、納得がいきました」。北京オリンピックの期間中、彼女には厳重な警備がつけられた。

父の誇りと娘への愛

2022年、北京オリンピック Annice Lyn / Getty Images

アーサー氏はこう断言する。「1989年に政府に対して声を上げた時から、自分の人生がこうなることは受け入れています。中国政府の手が世界の隅々まで伸びていることは知っています。しかし、私は自分の生きたいように人生を楽しみ続けます。彼らに屈することもしないし、勝利させることもありません」。

2022年、父の母国である中国の地を初めて踏んだアリサ。アーサー氏は記者団に対し、「これは彼女の瞬間です。オリンピックという一生に一度の機会を、彼らに邪魔させるわけにはいきません。彼女の安全を守るために、私はどんな犠牲も払う覚悟です。私の意見を封じ込めようとする勢力に負けるつもりはありません」と毅然と語った。

「彼らは我々を威嚇し、中国の人権問題などについて政治的な発言をさせないようにしたのでしょう。娘の安全には不安もありましたが、アメリカ政府がしっかり守ってくれました」

父の不屈の精神と、娘の自由な翼。アリサ・リウのカムバックは、単なるスポーツの再開ではなく、家族の強い絆と誇りを取り戻す旅でもあるのだ。

※この記事は『Town & Country』の翻訳をもとに、ウィメンズヘルス日本版が編集して掲載しています。

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