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第43回「愛媛」地理と産業であらゆる恵みをもたらすこの地の本棚には、どんな本が並んでいるのか?【あの町の本棚】

  • 2026.2.26

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年3月号からの転載です。

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世界的にも有名なサイクリングロード「しまなみ海道」を擁し、みかんなどの柑橘類や今治タオル、じゃこ天など、日本中で親しまれている生産物も複数作っている愛媛県。地理的にも産業的にも非常に恵まれたそこが今回のエリアだ。温暖で暮らしやすい土地ともいわれる愛媛に根ざす人々は、一体どんな本を愛しているのだろうか。本棚の一部を覗かせてもらおう。

松山城 学芸員の皆さん

『坂の上の雲』(全8巻) (司馬遼太郎/文春文庫)825~858円(税込)
『坂の上の雲』(全8巻) (司馬遼太郎/文春文庫)825~858円(税込)

秋山好古・真之兄弟と正岡子規。伊予松山出身の3人を中心に、近代国家の誕生を描く傑作。「NHKで映像化もされた近代歴史小説の金字塔。この本を読んでから、松山の人は“ぞなもし”と語尾につけるんだと思って生きてきましたが……まだ出会っていません」

『しろがねの葉』 (千早茜/新潮文庫)880円(税込)
『しろがねの葉』 (千早茜/新潮文庫)880円(税込)

女だてらに坑道で働くウメの姿を通し、生きることを見つめた大河長編。「戦国末期のシルバーラッシュに沸く石見銀山が舞台の一冊。あの時代、女に生まれるということは生き方を制約されるということ。それでも、挑み、阻まれ、受け入れ、生きる女は強いです」

『いっしん虎徹』 (山本兼一/角川文庫)1012円(税込)
『いっしん虎徹』 (山本兼一/角川文庫)1012円(税込)

一流の刀鍛冶を目指す長曽祢興里。江戸に向かった彼だったが、想像を絶する試練が立ちはだかる。「19年前の単行本発刊の際に購入し、一気読み。刀づくりだけではなく鉄づくりに対する執念、描写の緻密さは秀逸。刀剣愛好家ならずとも感嘆の一冊」

[松山城](松山城総合事務所)

〒790-0004 松山市大街道3-2-46

☎089-921-4873

HP:https://www.matsuyamajo.jp

江戸時代までに建てられた、現存12天守の一つを有する城。1602年から築城が開始され、約四半世紀かけて完成した。日本で唯一現存している望楼型二重櫓である野原櫓や、韓国の倭城の防備手法である「登り石垣」が見られ、城山公園全体が国の史跡になっているほか、21棟が重要文化財に指定されている。

本の轍 Shopkeeper 越智政尚さん、Bonamiさん

『ヨーロッパ退屈日記』 (伊丹十三/新潮文庫)693円(税込)
『ヨーロッパ退屈日記』 (伊丹十三/新潮文庫)693円(税込)

1961年、俳優としてヨーロッパに長期滞在したときの経験を洒脱な文体で綴る。幅広い教養を踏まえた文章は、読み手をニヤッとさせるはず。「松山と縁が深い伊丹。その語り口調は気のいい親戚の伯父さんみたいだ。それまでの随筆をエッセイへと変えた一冊」

『光子ノート』 (やべみつのり/たろう社)3850円(税込)
『光子ノート』 (やべみつのり/たろう社)3850円(税込)

矢部太郎による出版社「たろう社」初の書籍。父が描いてきた子育て日記から厳選したイラストには、どれも掛け替えない愛情が滲む。「誰に見せるためでもなく描かれた日々の記録から色濃く漂う生活の匂い。“連々たる人生の営み”を楽しんでほしい」

『大切なことは小さな声で語られる 大江田信の音楽コラム 1973-2025』 (大江田信/国書刊行会)4180円(税込)
『大切なことは小さな声で語られる 大江田信の音楽コラム 1973-2025』 (大江田信/国書刊行会)4180円(税込)

長きにわたって「音楽の世界」に身を置いてきた著者が、音楽で生きていくことを綴ったコラム集。ページを開くたびに、金言が見つかるはず。「縦横無尽に展開する音楽話。サブカル好きにはたまらない、キラキラ輝く音の宝石が詰まった宝箱のような本」

[本の轍]

〒790-0024 松山市春日町13-9 春日ビル 2F

☎089-950-4133

HP:https://www.honnowadachi.com

アート、暮らし、学びをテーマに好奇心を刺激する本が並ぶブックストア。ドリンクを飲みながら、ゆっくりと流れる時間の中でブックハントを楽しめる。2025年4月の移転を経てよりいっそう居心地の良い空間となり、定期的にイベントも開催している。

こりおり舎 代表 千々木涼子さん

『サイレンと犀』 (岡野大嗣/書肆侃侃房)1870円(税込)
『サイレンと犀』 (岡野大嗣/書肆侃侃房)1870円(税込)

柔らかな言葉で日常を切り取ったような短歌を収録。どの歌にも寂しさが滲み、しかしそれが、私たちの世界を照らしてくれる。「やさしいのに深く刺さる言葉たち。知っているのに見えていなかった、見えているのに気づかなかった世界を教えてくれる」

『つくる人になるために 若き建築家と思想家の往復書簡』 (光嶋裕介、青木真兵/灯光舎)2420円(税込)
『つくる人になるために 若き建築家と思想家の往復書簡』 (光嶋裕介、青木真兵/灯光舎)2420円(税込)

「つくる」という行為を手掛かりに、社会の常識を見つめる一冊。そのやりとりはやがて、人間がどう生きていくかを問い直す。「やりとりからお二人の思考が流れ込んでくるよう。考えること、つくることに対する刺激を受け、何かを始めたくなる本」

『星を編む』 (凪良ゆう/講談社)1760円(税込)
『星を編む』 (凪良ゆう/講談社)1760円(税込)

孤独を抱えた暁海と櫂、ふたりのすれ違いと愛を描いた『汝、星のごとく』。そこで語りきれなかった愛の物語を3編収録した、続編。「しまなみの光と影、いろいろな愛と生のかたちがひりひりと胸に迫る。『汝、星のごとく』の映画公開も楽しみ」

[こりおり舎]

〒794-2104 今治市吉海町仁江2436

☎0897-72-8006

HP:https://coriolisbooks.stores.jp

しまなみ海道の端、愛媛県今治市の大島にある、本と自家焙煎珈琲の店。古民家を改修し、古本や新刊、リトルプレス、雑貨などを販売している。併設の珈琲店では自家焙煎珈琲豆の販売やドリンクの提供を行う。また、島の暮らしを伝える雑誌づくりなど出版事業も行っている。

あの町と本にまつわるアレコレ

穏やかな瀬戸内海では多島美が堪能でき、また、内陸には西日本最高峰の石鎚山がそびえる。海と山、そのどちらも楽しめる愛媛県は、まさに自然に恵まれた土地だ。そんなシチュエーションは、創作心をくすぐるのだろうか。何人もの作家が愛媛を舞台に重厚な物語を生み出してきた。

近年、最も話題になったのは凪良ゆうの『汝、星のごとく』だろう。しまなみ海道沿いの島を舞台に、孤独を抱える少年少女の関係を描いた本作は2023年の本屋大賞に輝き、実写映画の公開も控えている。また、司馬遼太郎の代表作『坂の上の雲』もそう。明治の日本を描いた歴史小説の大作で、県内には坂の上の雲ミュージアムもあり、盛り上がり続けている。

一方で、『ザ・ロイヤルファミリー』のドラマ化で注目された早見和真が著したのは、『八月の母』。これは愛媛で実際に起こった集団暴行事件から生まれたサスペンスで、著者曰く「裏の愛媛」がテーマ。凄惨な事件をひもときながら「母性とはなにか」に迫っていく筆致がスリリングだ。ちなみに早見は愛媛新聞にて、今治市出身の絵本作家と共に「かなしきデブ猫ちゃん」シリーズも連載していた。こちらはほっこりした読み口で、作家の振れ幅の大きさを感じさせるだろう。

豊かな土地から生まれた名作の数々。これを機にぜひ、手に取っていただきたい。

構成・文:イガラシダイ イラスト:千野エー

『汝、星のごとく』 (凪良ゆう/講談社文庫)990円(税込)
『汝、星のごとく』 (凪良ゆう/講談社文庫)990円(税込)
『八月の母』 (早見和真/角川文庫)1078円(税込)
『八月の母』 (早見和真/角川文庫)1078円(税込)
『かなしきデブ猫ちゃん』 (早見和真:文、かのうかりん:絵/集英社文庫)880円(税込)
『かなしきデブ猫ちゃん』 (早見和真:文、かのうかりん:絵/集英社文庫)880円(税込)
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