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『悪いんだけど、息子の新居に届けて』実家に届いた荷物、元宅配員が“そのまま運べなかった”深い理由

  • 2026.3.29
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さんこんにちは、元宅配員のmiakoです。

3月は引っ越しが多い季節。
かつて住んでいた場所から遠く離れた場所へ引っ越す人もいれば、実家からさほど離れていない近所へ引っ越す方もいらっしゃいます。

今回は春先に近所に引っ越ししたお客様の荷物にまつわるお話です。

実家に届いた荷物と、思いがけないお願い

それはとある年の3月のお昼過ぎのことでした。

見慣れた常連のお客様の荷物を、いつも通りお届けした日のことです。
その日はいつもと様子が違いました。

「こんにちは、宅配便です」
「あら、息子の荷物ね。悪いんだけど、新しい家に届けてもらえる?」

受け取りに見えたのは60代くらいの女性でした。
何度もお伺いするうちに顔見知りとなった、いつも受け取っていただく受取人のお母様です。

「新しい家」と言われて、心が静かに身構えます。
本来、転居したのであれば転居先の住所で届くはずです。

しかし、この場合住所はこのご実家の住所でした。
近年は大手宅配業者でも、住所間違いや転居に伴う荷物の転送が『有料(着払い)』になるケースが増えています。

忙しい引っ越しの季節だからこそ、通販サイトの登録住所の変更や、転送手続きなどを忘れずに行うよう、少しだけ気にかけていただけると安心です。

「息子さん引っ越されたのですね。ではご本人にご確認してお届けするようにします」
「わざわざそんなことしなくていいわよ。ほら、あそこに見える白い壁の家。あれが息子の家よ」

そう言って女性が指さした先には、最近建築されていた、白い外壁の二階建ての家。

「多分、夕方ならお嫁さんが居ると思うし、LINEしておくからそのまま届けてあげてね」

意図せず新しい家と新しいご家族の存在を知ってしまい、内心ヒヤヒヤです。
コンプライアンスに引っかからないか心配する私でしたが、笑顔で伝えてくれるお母様に引くに引けず、笑顔でありがとうございます、と伝えてその場は引き上げました。

善意の情報と、迷いの気持ち

私の担当しているエリアは、山間部にありました。

家の敷地が広い家も多く、同じ敷地に2軒、3軒と一軒家が建っていたり、広い畑の中に家が建ち、家の敷地と畑の境界線が分からない家もありました。
また、敷地内ではなくとも、同じ町内に実家と子供の家族や身内が集まることが多く、まるで地域全体が大きな家族のような、コミュニティ力がしっかり根付いた地域でもありました。

しかし、見方を変えるとプライバシーの垣根が低いと感じられる地域です。

この地域の方が他の家のチャイムを鳴らさずにドアを開けて、中に入ってから声をかけるような訪問を見かけたり、荷物を玄関ドアを開けた中に置いておいて、と言われたご本人は畑仕事で忙しく、家の中には誰もご家族はいないようで静かです。
おおらかで人を疑わない反面、不用心さにこちらがハラハラしてしまうこともあり、そんなお宅がこの地域には何軒かありました。

それだけ信頼していただけることはとてもありがたいのですが、逆に心配になってしまう地域でした。

そのため「あそこに建った新しい家はね、○○さん家の娘さん夫婦の家が引っ越してきて入った家だよ」と勝手に個人情報を聞いてしまって慌ててしまうこともありました。

正直、仕事上では時にその情報に助けられることもあり、個人的にはとてもありがたいと感じながらも、個人情報の管理意識が心配になる場面もありました。

そんな地域柄があるのは理解していましたが、いざこんな現場に出くわすと戸惑います。

荷物を持って車まで戻ったものの、さてどうしよう…と悩みました。
このまま届けてしまうのは問題があります。

10年ほど前ならそのまま届けていたかもしれませんが、昨今はコンプライアンスの関係上、個人情報の扱いにはとても厳しくなっています。
たとえ親子や夫婦関係であったとしても、個人情報の扱いは非常に慎重にならなくてはいけません。

本人確認を取るという判断

伝票を確認すると、電話番号が記載されています。

念のため、ご本人にお電話をして確認をしようと、意を決して電話することにしました。
しかし、お仕事中なのかお電話は繋がりませんでした。

お母様も、受取人の奥様が夕方なら帰ると言ってました。
それなら、少し時間がかせげます。

改めて夕方以降に受取人にお電話しよう。
そう決めて次の配達先へ向かいました。

その日の夕方の便をトラックに積み込んでいた時、私の携帯電話が鳴りました。
出ると、昼間、ご実家から新しい家を教えていただいたお客様からでした。

「すいません、着信があったのでお電話しました」
「折り返しのご連絡ありがとうございます。お荷物がおひとつ届いているのですが、昼間に伝票に記載されたご住所にお伺いしたところ、ご家族様からお引っ越しされたので、そちらにお届けをとの指示をいただいたのですが、ご住所をお伺いしてもよろしいですか?」

「あ!なるほど。すいません、住所、実家のままでした。新しい住所は…あれ?番地なんだっけ?実家から近いんですよ。
実家から数10m先の白い壁の新しい家です。家の周りは畑だし、周辺に新築の家はうちしかないので行けばすぐわかると思います」

「わかりました。実はご実家のお母様からもご実家から近くの白い家だと教えていただいておりまして、間違いがないか確認をさせていただきました。この後夕方の便でお届けに向かいます」

「お願いします。多分妻がもう家に居ると思うので渡しておいてください」

「かしこまりました。お電話ありがとうございました」

受取人ご本人様からの言質が取れました。
これで、安心してお届けできます。

確かにこのお宅の周囲は畑に囲まれていて、近隣に新築の家はこちらの家しかなく間違いようがありません。
こうして、このお荷物は無事、お届けすることができました。

善意と個人情報の境界線

宅配会社では、一般的なビジネス倫理に加え、企業理念や行動規範などのルールを覚えたり、車を扱う仕事なので、輸送の安全や交通ルールなどの教育が、入社した直後に研修時間を設けて集中的に教育されています。

また、配属後には継続的な短時間研修も行われたり、SNSや情報対策、労働環境に関する事やハラスメントなど、守るべきルールができる度に、社員全員がルールを把握するための研修を都度ごとに行い、理解度テストもあります。

そのため、古くからその土地に住まわれている地方の方々とのやり取りが、親身を感じたり他意のない優しさだと思う反面、プライバシーやセキュリティの垣根が低いと感じてしまうことがあります。

良かれと思って教えていただいたとしても、個人情報保護の観点から受け取れないこともあります。
それは、受取人ご本人様を守るためでもあります。

今やコンプライアンスがひしめく時代。
昔ながらの優しさも大切な場面もありますが、個人にかかわる荷物に関しては別です。
受け取るご本人の意思がとても大切になります。

引っ越しの多い春先は、住所の変更が間に合わないまま荷物が届いてしまうこともあります。
良かれと思って教えていただいた情報でも、宅配員の立場ではそのまま受け取ることができない場面もあります。

それは、受取人ご本人様の大切な情報を守るためでもあります。

けれど、こうしてお客様ご本人と確認を取り合うことで、安心して荷物をお届けすることができました。

これからも宅配員とお客様が互いに信頼し合いながら、安心して荷物を受け取れる関係が続いていくことを願っています。
忙しい引っ越しの季節だからこそ、住所変更や転送手続きなど、少しだけ気にかけていただけると安心かもしれません。



ライター:miako
宅配ドライバーとして10年以上勤務した経験を生かし、現場で出会った人々の温かさや、働く中で積み重ねてきた“宅配のリアル”を、経験者ならではの視点で綴っています。
荷物と一緒に交わされてきた小さなエピソードを、今は文章としてお届けしています。


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