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「切符に日付印を押してほしいのですが」対応しようとすると…元駅員が絶句した去り際の行動

  • 2026.3.22
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

今回は、私が駅員時代に経験した「記念印のトラブル」をご紹介します。

鉄道旅行みやげの記念印

きっぷにスタンプを押せることをご存じですか?

きっぷを持ち帰りたいときや、途中下車の記念に改札口で申告すると押してもらえます。ただ「無効」「途中下車」などと書かれているだけの質素なものもあれば、駅独自の特別デザインのスタンプを置く駅もあります。

フリーきっぷなどををご利用のお客さまの中には、駅の名前が書かれた小さな印鑑を所狭しと押したきっぷをSNSに投稿している方もいるようです。私の学生時代の知人は、無料で旅行の記念品が手に入るから絶対に押してもらうと言っていました。

ところが、この印鑑をめぐってお客さまとトラブルになることがありました。

印と同時に念も押す

ある始発駅の改札口にいたときのことです。改札口に1人のお客さまがやってきて

「すみません、日付印を押してほしいんですが」

と申告されました。

「記念印のことですか?」と尋ねましたが

「いえ、日付印を」

と返されました。駅名と日付の入った印鑑を日付印と呼ぶのは、通常は駅員のみです。

お客さまがそう呼ぶことはありません。「専門用語を使われる熱心なお客さまだな」と感じました。

列車の名前を運用上の番号で呼んだり、駅の名前をかつての電報で使われていた略称で呼ぶお客さまが時々いらっしゃいます。駅員が使う用語を使うお客さまを応対するときは

「『ムラサキ』とか『お愛想』とかお客さんに言われている寿司屋も同じ気持ちなのかなあ」

と心の中で感じていました。

「押させてもらえませんか?」

きっぷに日付印を押すことは珍しいことですが、明確なルール違反でもありません。押してほしいのなら、と日付印を取り出した私に、お客さまはさらに声をかけました。

「待った。埃はついていませんか?」

と印鑑の状態を気にされるなど、記念印に独自のこだわりをお持ちのようでした。

私は印鑑をひっくり返し、

「こちらでいかがですか?」

とお見せしました。読めさえすれば十分な印鑑なので毎日メンテナンスはしていませんが、幸いにもきれいでした。するとお客さまはその印鑑をつまみ、ぐっと引っ張ろうとしました。

つままれた瞬間に私も印鑑を強く握ったので、お客さまが取り上げることはできません。

「どうされました?」

私の質問に、お客さまはこう答えました。

「…私に押させてもらえませんか?」

事態急変

日付印は駅員が押すものなので貸せない、と断ると、今度は

「ではきっぷのこのスペースに、はっきり見えるように強く、傾きなく押してください」

と細かく指示。

ここまでこだわりの強い方なら、他の駅でもこのようなことをされているのかな?と感じたりもしましたが、とりあえず対応を終え通常業務に戻ろうと、日付印をいつもより強く長くきっぷに押し付けました。

そのとき、なぜかお客さまがきっぷを引き抜いたのです。

「あっ」

思わず声が出ました。きっぷを引き抜いたせいで、印影がかすれてしまっています。お客さまも一瞬固まり、黙ってホームへ去っていきました。

どうして…?

翌朝、駅に出勤した私を上司が呼び止めました。どうやらあのお客さまが電話センターに一連の出来事を話し、電話センターから「お客さまからのご意見」として駅に情報が下りてきたようです。

特にお客さまが許せなかったのは日付印の印影がかすれてしまったことだったそう。しっかりと自分が切符を預かった上で日付印を押せばこんなことにはならなかったのかなと思いました。

なぜあのお客さまはきっぷを引き抜いたのか不思議ではありますが、おそらく、滲んでしまうのを防ごうとしてご自身で調整しようとした結果、逆に擦れてしまったのではないかと、今は思っています。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


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