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アレッシの”ドリーム・ファクトリー"に潜入。インダストリアル・クラフトマンシップとは?

  • 2026.2.16
TOMOYUKI TSURUTA
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イタリア・ミラノから北西に向かいアルプスの山々を正面に見ながら車を走らせること1時間半。オルタ湖畔の町、オメーニャに到着する。ここは、1921年に「アレッシ」が生まれた地で、現在も本社と工場が置かれている。

遠くからも目立つ、屋根に4本の角があるアクアグリーンの建物がアレッシの本社だ。屋外には、ティーポット“Bombé(ボンベ)” (デザイン:カルロ・アレッシ、1945年)、トイレットブラシ“Merdolin(メルドリーノ)” (デザイン:ステファノ・ジョヴァンノーニ、1993年)など、アレッシの名作の巨大オブジェが点在する。

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<写真> 本社内にある、歴代製品が陳列されているギャラリー。

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<写真>ミケーレ・デ・ルッキの”PULCINA エスプレッソコーヒーメーカー”シリーズ。

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<写真>深澤直人による”ITSUMO-YUNOKI WARE”シリーズと”EUGENIA ”シリーズ、”ITSUMO”シリーズ。

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”ドリーム・ファクトリー”の心臓部へ

遊び心あふれる風景に期待に胸をふくらませていると、アレッシ創業者の孫で、現社長を務めるアルベルト・アレッシさん(写真)が「チャオ!ベン・ヴェヌーティ!(ようこそ!)」と出迎えてくれた。

アルベルトさんにまず案内されたのは、社長室。とは言っても、普通の社長室を想像してはいけない。大きな机や壁、棚は、彼が1970年に入社してから現在までの歩みに大きく関わってきた品々-写真やオブジェ、スケッチ、アートピースなどのインスピレーションソースであふれている。大切なもの、忘れがたい記憶がぎゅっとつまったような、なんとも居心地の良い空間だ。

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アルベルトさんは、「1970年の入社以来、アレッシを“ドリーム・ファクトリー(夢のデザイン工房)”と位置づけ、空想豊かに国際的な創造性を表現できる場の創成を推進してきた」と語る。

世界のデザイナーと協業して、自由に創造性を発揮した製品を生み出してきたのはもちろん、1983年に建築家でデザイナーのアレッサンドロ・メンディーニの発案で実現した、11名の建築家たちが11種・世界99個限定の個性豊かなティーとコーヒーセットをデザインするプロジェクト“ Tea&Coffee Piazza(紅茶とコーヒーの広場)”など、当時は珍しかったひとつのテーマで競作するスタイルを生み出すなど、夢とエモーションにあふれる新たなデザインの魅力を発信してきた。

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<写真>若き日のフィリップ・スタルク。

この部屋が、サルバドール・ダリ、エットーレ・ソットサス、リチャード・サパー、アッキーレ・カスティリオーニ、アレッサンドロ・メンディーニらをはじめとするクリエーターと共にアイデアを交わしながら、夢とプロジェクトを育んできたコクーンだと思うと深い感慨に包まれた。

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<写真>本社はアレッサンドロ・メンディーニよる設計。

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本社工場へ!

いよいよ本社に併設された金属加工の工場に潜入! スタイリッシュで複雑な形のアレッシ製品がどのような現場で製造されているのか興味津々だ。

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「アレッシ」のステンレス製品には、鉄と炭素に加えて、ニッケル10%、クロム18%が含まれた18/10グレードのステンレススチールが使われている。ニッケルが7~8%のスタンダードなものと比較すると耐腐食性が圧倒的に高い。それらの鋼板は、あらかじめ指定したサイズに切断されて入荷してくる。

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<写真>指定のサイズにカットされた材料。

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その後レーザーカットの工程に進むが、訪問時は丁度、ブキヨン&マウイのフルーツバスケット“バークネスト”を製造中だった。複雑なモチーフが正確にカットされていく。実は、アレッシは、レーザーカットの技術を用いて、鋼板から日常の小アイテムを製作した先駆けで、導入当時その革新性が話題となった。レーザーカット技術では、あらゆる形状、デザインを正確に作ることができるが、デザインと板金支持システムを綿密に設計する必要がある。切り口の断面には窒素を吹き付けることで、切り口の角をまろやかに仕上げている

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<写真>レーザーで金属を精密に切断することにより、表情豊かなキャラクターを表現している。

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<写真>マイケル・グレーブスによる”ホイッスルケトル”は、何段階もの絞込み加工や磨きを丁寧に重ねている。世界で最も販売されている「アレッシ」のプロダクトのひとつだ。

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<写真>出荷直前の”ホイッスルケトル”。30周年を記念したバージョン。

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<写真>全品、目視による厳しい検査を経てから出荷されている。

続いて、型押しと溶接の工程見学に進む。「すべて自社内で成形している」という金型がずらっと並ぶ様子は圧巻! アーカイブには2万点の金型があるという。ブランキングとレーザー加工を終えた半製品は冷間成形にかけられる。これは、金属にストレスがかからないよう、金属材料に熱を加えず、室温に近い温度で塑性変形させる成形方法だ。金型やプレス機などを用いて大きな圧力を加え、材料の形状を高速で変化させる。この加工法では、寸法の精度が高く、表面仕上げが滑らかで、金属の強度や硬度を高めることができる。その後、丁寧に一点づつ磨かれ厳密な検品を経て、製品は我々のもとに届くのだ。

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<写真>本社の一角には金属加工業として世界的な成功を収めた数々の証がひっそり展示されていた。

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<写真>創業家2代目でアルベルト・アレッシの父、カルロ・アレッシの時代に生まれた1935年頃のティー&コーヒーサービスシリーズ。六角形の特徴的なデザインでヒットした。

素材のセレクトから、綿密な設計、各工程で完成度を追求する姿勢、堅牢度を高める技術、完璧な検品まで、最高の製品を作り上げようという真摯な思いが見て取れる。

「アレッシのものづくりは、インダストリアル・クラフトマンシップ。すなわち、工業製品でありながら職人技が根底にある」とアルベルトさん。“ドリーム・ファクトリー”の“夢”は、このような質実剛健な仕事に支えられていた。「製品を見たときに“アレッシ”というブランドのものだと一目で分かるが、“特に決まったスタイルがない”のがアレッシのスタイルだ」とアルベルトさんは語る。一目見ただけで分かる製品の完成度の高さもブランドを認識するのに一役買っているのは確かだ

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アーカイブが眠る「Museo ALESSI」へ

本社内には「アレッシ」や日用品の歴史にまつわる品やアーカイブ資料を展示するミュージアム「Museo Alessi(ムゼオ・アレッシ)」がある。アレッサンドロ・メンディーニがインテリアを手掛け、1998年に完成した。20年代から90年代までのプロトタイプ、金型、スケッチなど2万5千点以上の資料が展示されている。

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興味深いのが、紙で作られた名作のプロトタイプ(写真)や、製品化されなかった失敗作も展示されている点だ。「工業的な機能を満たしながら、アートが日常にもたらす豊かさを手の届く価格で届けたい」というアルベルトさん。「プロトタイプから製品にしていく途中で、アート的要素やエモーションが欠けてしまった場合は商品化しない」という信念を貫くところが徹底している。

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フィリップ・スタルクの名作誕生秘話

フィリップ・スタルクの“JUISY SALIF ”シトラススクイーザー」(写真)の誕生秘話も伺うことができた。1980年代後半、スタルクにトレイのデザインを依頼したが、納品が遅れたので催促したところ「何も思いつかない!」と言われた。そんな折、トスカーナ州のカプライア島のトラットリアで一緒にイカを食べていたところ、スタルクが紙のランチョンマットにスケッチを始め、みるみるうちにスクイーザーのデザインが完成したという。そう言われれば、ちょっとイカに形が似ているような気も…。ミュージアムには、そのランチョンマットも展示されている。

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アルベルト・アレッシのライフスタイル

本社取材後、アルベルトさんの自宅へ。オルタ湖の輝く水面を見晴らす丘の上に建ち、ブドウ畑(写真)と広い庭に囲まれた自宅は、16世紀に建てられた農家の建物で、アルベルトさんが購入したときにはくずれかけた廃墟だったという。メンディーニ兄弟に修復を委託し、修復に10年もの歳月がかかった。

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地下のワインセラーに案内された。「ブドウはバイオダイナミック農法で作付け。化学薬品は使用せず、土地への介入もなく、太陰暦に従い作業する」というアルベルトさん。瓶にもこだわりがあり、レオナルド・ダ・ヴィンチのウィンザー手稿にあったボトルのスケッチからインスピレーションを得て、特注したという。セラーには、特殊な形の瓶を重ねることができるように、特別注文の棚が設えられている。

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<写真>アレッシ本社併設のファクトリー・ストアでも販売している。"VINO ROSSO 2015"。住所:Via Privata Alessi, 6, 28887 Omegna VB

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<写真>ユニークなボトルのデザインは、レオナルド・ダ・ビンチのスケッチからインスピレーションを得ている。

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自分のための図書館づくりに夢中!

離れには書庫もある。デザイン、建築、アート、世界のカルチャー、小説、漫画、オルタ湖周辺に関する文献など、アルベルトさんが収集したあらゆるジャンルの本が収められている。



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「蔵書のラベルは私がデザインしたオリジナル。今、世界で唯一の図書館づくりに専念しているんだ。それから、職人のカタログを作成している。これは自分の仕事の集大成となるものだ。」とアルベルトさんは誇らしげに語る。

アルベルトさんのものづくりはワインへ、そして世界で唯一の図書館へと広がっている。彼は、心も頭脳も手も総動員してものづくりをする、生粋のクリエーターなのだ。

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