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鯛のカルパッチョにジャパニーズウイスキーが合う!野口真紀さん×若林英司さんによるペアリングの妙

  • 2026.1.28

ウイスキーと食べ物の絶妙なペアリングを探索する「ウイスキーと食」連載も第11回を迎えます。今回からは、家庭料理を発展させ、栄養や健康に配慮した料理を考案する、料理研究家の野口真紀さんが登場。家庭で気軽につくることができ、ウイスキーに合いそうな料理3品を提案いただき、そこに、ソムリエの若林英司さんがウイスキーをペアリングします。最初にご紹介するのは、鯛のカルパッチョ。さて、どんなウイスキーと合わせたときに、これまで知らなかった魅力が引き出されるのでしょうか。さっそく、料理に登場していただきましょう。

鯛のカルパッチョにジャパニーズウイスキーが合う!野口真紀さん×若林英司さんによるペアリングの妙

■鯛のカルパッチョ ひじきドレッシング×イチローズモルト ホワイト ソーダ

ウイスキーに合う料理を提案してくださいという注文に対して、家庭料理の延長線上でさまざまな料理を考案してきた野口真紀さんが出した答えの一つが、鯛のカルパッチョだ。そこにはどんな狙いがあるのだろう。

ウイスキーフロート
ウイスキーフロート

「私は、日ごろワインを飲むことが多いです。ウイスキーはときどきハイボールを飲むくらいで、銘柄もあまり知らないのですが、ウイスキーはワインに比べて強いお酒ですから、料理のほうも少し強めのものをと考えました。一般的には唐揚げなどの揚げ物をウイスキーに合わせることが多いと思いますけど、それにしても味の基本になるのは塩や醤油、それと、食材の組み合わせ方です。今回は、そういう意味で、普段とはちょっと違ったものをつくってみました」

角煮とウイスキー
角煮とウイスキー

■イチローズモルトをワイングラスで愉しむという提案

ウイスキー
ウイスキー

ここに合わせる酒は何が適しているのか。若林さんは、こう説明する。
「鯛のカルパッチョとウイスキーを合わせるのは、正直に言って、ちょっとハードルが高い(笑)。鯛の甘味、繊細さに、ウイスキーのパワーをどう合わせるかが問題です。普段なら、鯛のカルパッチョに合わせるのはイタリアワインの白か、プロヴァンスの白です。果実味がしっかりしていて、キレのいいきれいな酸味があり、ジューシーで、よく冷やすことでおいしさが出るワイン。カルパッチョに合わせるならこのあたりがまず思い浮かびますね。それをウイスキーに置き換えると、どうなるのか。まずは、形から入ってみることにしました。ウイスキーを合わせるのですが、グラスをタンブラーではなく、ワイングラスにしてみたのです」

形から入ると聞いて虚をつかれた思いだが、若林さんには、そうするだけの十分な理由があるのだ。
「ワイングラスに注ぐと香りの立ち方がタンブラーで飲むときとは少し違ってきます。香りがふわりと広がってワインのように感じられる。そこで、白ワインのようなさわやかな印象をもたらすウイスキーとして思い浮かべたのが、ジャパニーズウイスキーです。なかでも、鯛の甘味に合わせる目的で、ピュアだけれどふくらみのある味わいのものは何かと考えて、イチローズモルトが出てきたということです」

[dancyu]

イチローズモルトは、日本初のクラフトウイスキー蒸溜所と言われる秩父蒸溜所で生産されるウイスキーで、設立者の肥土伊知郎(あくと・いちろう)氏の名前をとって命名された。ここで用いるホワイトラベルの正式名称は「イチローズモルト モルト&グレーン ワールド・ブレンデッド・ウイスキー・ホワイトラベル」。イチローズモルトと呼ばれるが、単一の蒸溜所でつくられるモルトウイスキーだけをブレンドした“シングルモルト”ではなく、ほかの蒸溜所産のモルトウイスキーやグレーンウイスキーを混ぜた“ブレンデッドウイスキー”だ。
資料によると、秩父蒸溜所の原酒のほかに9種類のモルト原酒と2種類のグレーン原酒をブレンドしているそうだが、原酒の産地が日本だけでなく、他国のものも含むために、ワールド・ブレンデッドと表記されているのだろう。ほんのりとした果実香とやさしい飲み口のウイスキーは、穏やかで、おとなしすぎると感じる人もいるほどだが、繊細な鯛に合わせるには、たしかに絶好の相手かもしれない。

■鯛の甘味にあわせて、ソーダ割りに氷は入れない

[dancyu]

さて、この飲み方だが、ワイングラスに注いだら、後はどうするのだろうか。
「ソーダで割ります。ウイスキー1に対してソーダが2より少し多いくらいの割合で、氷は入れません。ほぼ1対2にするのは、この1杯のアルコール度数をワインの13%~14%に近くするためです。鯛に合わせるには、白ワインを思わせるようなフレッシュさとコクが必要ですから、通常のハイボールのように1対3以上だとアルコール度数が低すぎるのです。また、氷を使わないのは、氷を入れると飲み物の温度が下がりすぎるからです。飲み物が冷たすぎると鯛の甘味が感じられなくなります。ウイスキーも同様で、氷を入れると、グラスの中で香りが立ちにくくなるし、氷が溶ければアルコール度数も下がってしまう。だから、鯛のカルパッチョに合わせるイチローズモルトのソーダ割りは、比率が1対2強の常温ソーダ割りということになります」

さあ、それでは鯛のカルパッチョとイチローズの常温ソーダのペアリング、試してみることにしよう。

■薬味のアクセントがたまらない!ひじきのドレッシングの妙

[dancyu]

まずはウイスキーで口を湿らせてから、鯛の身にひじきのドレッシングをのせて、口へ運ぶ。にんにくと茗荷のインパクトを酢によって酸味の増したオリーブオイルが包み込み、鯛のふくよかな甘味を引き立てる。その味が残るところへ、ワイングラスのイチローズモルトを、今度は少し多めに含むと、ウイスキーは強すぎて食中酒には合わない、特に味わいの淡い前菜には合わないと思い込んできたことがバカらしくなった。

器とアルコール度数と温度を変えることで、ウイスキーはこれほど化ける。そのことにまず驚愕し、同時に、にんにくや茗荷で強めのアクセントをつけたカルパッチョだからこそイチローズモルトの持つ別の一面を引き出したことにも、ただただ感服するのだった。

[dancyu]

野口さんも、若林さんが提案した飲み方に、驚いた様子だ。
「白ワインっぽくウイスキーを飲む。こんなやり方があるんですね。度数を13度くらいにするのか。知らなかった。今度、ちょっとやってみたいですね」
若林さんはそれに答えて、
「ウイスキーの利点と欠点はアルコール度数なんですよ。本質を壊さずに割ることが大事ですが、食べ物に適した割り方をしないと食材を損なってしまいます」

深いなあ、話が深いぞ。こんな話をしながらあれこれとペアリングを試すのは至福としかいいようのない。
眼の前の、上品で、大人びた、見た目にも美しいペアリングは、まさにマリアージュ。和の風味とジャパニーズウイスキーの組み合わせが、ウイスキーと食の無限の可能性を示している。


――教える人

「若林 英司さん エスキス 総支配人兼ソムリエ 」

1964年長野県生まれ。あの、故ジャン・クロード・ヴリナ氏から、もっとも厚い信頼を得ていた日本のソムリエ。1995年より東京・恵比寿の「タイユバン・ロブション」シェフ・ソムリエ、2003年より「レストラン タテル ヨシノ」の総支配人を務める。2012年から銀座、エスキス勤務。エグゼクティブシェフ、リオネル・ベカの料理をペアリングで華やかに盛り上げる。2023年「ゴ・エ・ミヨ2023」ベストソムリエ賞、2024年「ミシュランガイド東京2025」ソムリエアワード受賞。テレビ等でも活躍し、ペアリングの醍醐味と楽しさを伝える。

「野口真紀さん 料理研究家」

1973年東京都生まれ。料理雑誌の編集者を経て、料理研究家となる。自身の子育て経験も活かし、簡単でつくりやすく、栄養や健康に配慮した家庭料理が人気。自然体なのにおしゃれなライフスタイルも注目されている。著書に、『家族でごはん12か月』(新星出版社)、『ぱらぱらきせかえべんとう』(アノニマ・スタジオ)、『毎日食べて体すっきり 野菜の酢漬けと展開レシピ』(エムディエヌコーポレーション)など多数。


文:大竹聡 撮影:池田博美 編集:木田明理

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