1. トップ
  2. 外からの視線でより深く掘り下げられる日本の美意識[秋山都さん今月のおすすめ]

外からの視線でより深く掘り下げられる日本の美意識[秋山都さん今月のおすすめ]

  • 2026.1.11
Hearst Owned

秋山都さん、山路美佐さん、森脇慶子さん、門上武司さん他、食通のジャーナリストや編集者が毎月ひとつのテーマから着想した3軒をまとめてご紹介する小誌連載「ガストロノミーの杜 極私的店案内」。

今回は編集者の秋山都さんが、東京の3店をご紹介します。

異国の感性が磨き上げるネオジャパネスク

40年ほど前ですが、米国のレストラン「ベニハナ」に連れていってもらったことが強烈な記憶として残っています。赤い欄干の橋がかかった日本式庭園に、芸者ルックのホールスタッフ、曲芸を思わせる鉄板焼き……若かった私は過剰な演出に一種の拒絶反応を示しました。「こんなのホントの日本じゃないよ」と。すると同行の米国人が「じゃあ、どういうのが日本なの?」。グ、と詰まった私には返す言葉がありませんでした。

「私も10代のころ同じような経験をして、日本をもっと知ろうと考えました」とは、「鮨 大矢」の大矢庸二さん。シカゴで生まれ、バンコクやLAで育った帰国子女ですが、日本の大学を卒業後に寿司職人の道へ。NYや香港で腕を振るったのちに帰国し、独立しました。

寺社建築にヒントを得たという凜としたしつらえや器使いの美しさもさることながら、特筆すべきは寿司。細かい仕事を施したいかに白樺の樹液を含んだ昆布水をひと塗りして旨みを引き出したり、穴子のツメに薬草酒「フェルネ・ブランカ」をわずかに加えて味に深みを加えたり。江戸前寿司の本質から外れず、その周縁を少しだけ拡げることで味わいを一層引き立たせることができるのは、海外で暮らした"外の視点"を持つからかもしれません。

撮影=前川明範

香港で人気のコンテンポラリージャパニーズが日本へ逆輸入を果たしたのは「CENSU TOKYO」。シェフの金須郁幸さんは焼きおにぎりやきんぴらごぼうなど居酒屋の定番メニューを大胆な発想で再構築。驚きのあるおいしさで、世界から見た日本らしさの最前線を教えてくれます。

最後にフランス人シェフ、ユーゴ・ペレ=ガリックスさんによる「氣分」は、日本的でありながら昆布やかつおの出汁を使わないボーダーレスな創作料理。フレンチの手法も用いながら、単なる和と洋の折衷ではない、唯一無二の世界観が印象的です。

この三者に共通するのは、日本の伝統を外から問い直すことで見えてくる新たな"らしさ"。多彩に進化するニッポンは私にとっても大いに魅力的で、刺激と学びに富んでいます。

撮影=前川明範

「鮨 大矢」(東京・神楽坂)

海外からのゲストも安心してもてなせる寿司

木の香りがすがすがしい店内で、樹齢200年という吉野檜の一枚板カウンターが目に入ってきます。異文化の中で日本料理の本質を見つめ直した大矢庸二さんは語学堪能、海外ゲストをもてなす際にも安心です。25年『ミシュランガイド東京』の一ツ星を獲得。写真は「鮨よしたけ」直伝の手法で6時間蒸した蒸し鮑と肝のソース。

DATA
コース35,000円~。
営業時間/18時~、19時~、20時30分~(すべて一斉スタート)
定休日/日・月曜
tel.03-6228-1868
Google mapで確認
東京都新宿区袋町3-6 神楽坂センタービル ANNEX3階

鮨 大矢

Hearst Owned

「氣分(きぶん)」(東京・西麻布)

驚きはあるけれど奇抜ではない、ウルトラ・キュイジーヌ

フランス出身のユーゴ・ぺレ=ガリックスさんは日本料理を学ぶために来日。京都「菊乃井本店」で日本料理を学び、東京・銀座「エスキス」で4年間料理長を務めたのち、2024年に独立。25年に『ミシュランガイド東京』の一ツ星を獲得しています。スペシャリテの一品である棒寿司はサフランとガリを使った酢飯に、3日間独自の手法で熟成させた鯖の組み合わせがユニーク。

DATA
コース27,500円~。
営業時間/19時~(一斉スタート)
定休日/日曜
tel.03-6433-5063
Google mapで確認
東京都港区西麻布4-11-28 2F

氣分

Hearst Owned

「CENSU TOKYO(センス トーキョー)」(東京・千駄ヶ谷)

香港発の人気"IZAKAYA"が日本に初出店

1階はカウンター、2階は大きなテーブルのあるダイニング。活気のある店内で飛び交うのは英語やフランス語……そして日本語。居酒屋の親しみやすさと、香港などアジアの都会的な感覚が重なり合うことで、「ここはどこ?」と迷うような独特な心地よさを生み出しています。焼きおにぎりを鮑のスープと合わせる「UNIGIRI」(3,980円)や、たくあんソースと海苔の佃煮を添えてトロたく気分でいただく、写真の「鮪の刺身」(2,380円)など。

DATA
営業時間/18時~22時(L.O.)
定休日/日曜、不定休
tel.03-6434-5883
Google mapで確認
東京都渋谷区神宮前2-12-9

CENSU TOKYO

教えてくださったのは……

秋山都さん(編集者)
あきやまみやこ●女性ファッション誌や富裕層向けライフスタイル誌、グルメマガジンの編集長を歴任し、アマゾン・ジャパン勤務を経て独立。食・酒・旅をおもなテーマとして、雑誌やウェブメディアなどでコンテンツを制作。趣味は散歩とはしご酒。好物は寿司、焼き鳥、タルタルステーキとハイボール。

文=秋山都 撮影=前川明範(鮨 大矢分) 編集=平田剛三(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年2月号より

〇選りすぐりの記事を毎週お届け。

元記事で読む
の記事をもっとみる