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子宮ではなく腹腔内で妊娠した女性、「奇跡の出産」へ

  • 2025.12.26
子宮外で妊娠した女性が出産 / Credit:Canva

妊娠の知らせは、新しい命の誕生を意味する、喜ばしい出来事です。

しかしそれが「子宮ではない場所」で起きていたとしたら、喜びよりも先に、強い驚きと不安に包まれるかもしれません。

アメリカ・カリフォルニア州で報告された今回のケースは、胎児が子宮ではなく腹腔内で育つ「腹腔異所性妊娠」という、極めて稀で危険な状態でした。

それにもかかわらず、母子ともに命を取り留め、無事に出産へと至ったのです。

目次

  • 子宮ではなく腹腔内での妊娠が発覚
  • 30人の専門家が集結し、出産成功。母子ともに回復へ

子宮ではなく腹腔内での妊娠が発覚

物語の始まりは、奇跡とは程遠い、日常的な医療判断でした。

スーズ・ロペスさんは20代の頃から、良性の卵巣嚢胞を抱えていました。

右の卵巣はすでに摘出されており、残された嚢胞については、長年にわたって経過観察が続けられていました。

2025年に入ると、腹部の膨らみと圧迫感が次第に強くなっていきました。

ロペスさん自身は「嚢胞がさらに大きくなったのだろう」と考えていました。

ついに嚢胞は約22ポンド、約10キログラムに達し、摘出手術を受けることが決定。

手術前には、放射線検査を安全に行うため、ごく一般的な妊娠検査が実施されました。

その検査で、医師も本人も想定していなかった「陽性」が出たため、さらに詳しく調べることになりました。

その後に行われた超音波検査やMRI検査によって、事態は一変します。

子宮の中には胎児が存在せず、内部は完全に空だったのです。

一方で、腹腔内の肝臓近くに、ほぼ正期産に近い胎児が確認されました。

この状態は「異所性妊娠」、一般には「子宮外妊娠」と呼ばれます。

異所性妊娠とは、受精卵が本来着床すべき子宮内膜ではなく、別の場所に着床してしまう状態を指します。

その約90%以上は卵管で起こり、破裂による大量出血の危険があるため、発見され次第、妊娠が中断されることも少なくありません。

腹腔内で起こる腹腔異所性妊娠はさらに稀で、医師によると、「正期産まで進行する例は100万分の1以下」とも言われています。

ロペスさんのケースでは、すでに胎児はほぼ成熟していました。

画像検査では、胎盤が肝臓などの主要臓器に深く侵入している様子は確認されませんでした。

さらに、胎児が腹腔内で成長するにつれて、その体がとても大きな嚢胞を前方に押し出し、腫瘍がますます大きくなっているように見えていたことも分かりました。

それでもこの腹腔異所性妊娠は、制御不能な大量出血を引き起こす極めて危険な状態であることに変わりはありません。

医師たちは、出産と嚢胞摘出を同時に行うという、ほとんど前例のない選択を迫られました。

30人の専門家が集結し、出産成功。母子ともに回復へ

手術当日、産科医、婦人科腫瘍医、麻酔科医、新生児科医など、約30人の専門家が集結。

この手術は一度きりの作戦であり、やり直しは許されませんでした。

まず巨大な卵巣嚢胞を持ち上げるように移動させ、わずかに確保された空間から胎児を迅速に取り出す必要がありました。

その後は、母体からの出血に全力で対応することが求められました。

生まれてきた男の子は体重約3.6キログラムで、髪も生えそろっていました。

外見上は健康そのものでしたが、医療チームが最も懸念していたのは肺が十分に成熟しているかどうかでした。

幸いにも赤ちゃんは自力で呼吸を始め、大きな問題は確認されませんでした。

しかし、本当の危機はその直後に訪れました。

胎児が取り出された瞬間、胎盤が付着していた腹腔内から激しい出血が始まったのです。

医療チームは事前に大量出血を想定し、すぐに輸血を行える装置を準備していました。

それでも状況は非常に緊迫しており、最終的に多くの輸血が行われました。

父親は手術の様子を見守りながら、いつ妻や子どもを失ってもおかしくない恐怖の中で、ただ祈ることしかできなかったと語っています。

結果として手術は成功し、母子ともに回復しました。

今回の症例は、異所性妊娠でも安全に出産できることを示したものではなく、複数の偶然と高度な医療体制が重なった、いわば「例外」です。

本来なら成立しないはずの妊娠が、ぎりぎりの判断と医療技術によって現実となったという意味で、「奇跡の出産」と呼べるのかもしれません。

参考文献

‘The best gift ever’: Baby is born after the rarest of pregnancies, defying all odds
https://medicalxpress.com/news/2025-12-gift-baby-born-rarest-pregnancies.html

Doctors deliver ‘miracle’ baby while removing 22-pound ovarian cyst
https://medicalxpress.com/news/2025-12-doctors-miracle-baby-pound-ovarian.html

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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