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樹齢4900年の「プロメテウス」の悲劇―最古の木だと知られずに伐採された木

  • 2025.12.24
樹齢4900年のプロメテウスは伐採された / Credit:(左)Wikipedia Commons,(右)Wikipedia Commons

樹木は、人間や動物よりもはるかに長く生きることが可能です。
数十年、数百年という時間を超え、数千年という気の遠くなるような年月を生き抜く木も存在します。

今回紹介する「プロメテウス」と呼ばれる1本の木は、後に樹齢およそ4,900年と判明し、当時「年代測定された単独の樹木として世界最古」となりました。

しかし、その事実が明らかになったのは、この木がすでに伐採された後だったのです。

目次

  • 当時、世界最古の樹木だった「プロメテウス」とは?
  • なぜプロメテウスは伐採されたのか?その後、判明したこととは?

当時、世界最古の樹木だった「プロメテウス」とは?

プロメテウスは、アメリカ・ネバダ州のグレートベースン国立公園周辺に生育していた、
Pinus longaevaという樹種の1本です。

Pinus longaevaは、世界で最も長寿な樹木の一つとして知られています。

標高の高い山岳地帯という、乾燥して寒さの厳しい環境に適応し、極めてゆっくりと成長することで、非常に高密度で腐りにくい木材をつくります。

その結果、風雨や菌類、昆虫の影響を受けにくく、長期間にわたって生存し続けることができるのです。

この樹種の寿命を特別なものにしている要因の一つが、「Sectored architecture」と呼ばれる体のつくりです。

Pinus longaevaでは、根と幹が部分ごとに対応しており、ある根が機能を失っても、その上に対応する幹の一部だけが枯れ、他の部分は生き続けます。

そのため、木の大半が枯死しているように見えても、細い帯状の樹皮だけで数千年生存している個体が珍しくありません。

こうした特徴から、Pinus longaevaは「生きた気候記録」である可能性があります。

年輪には、その年の気温や降水量などの環境条件が刻まれており、数千年分の気候変動を読み取ることができるからです。

そして、あるPinus longaevaは「プロメテウス」という名前が付けられました。

この名は、ギリシャ神話に登場するプロメテウスに由来し、人類に火、すなわち知識をもたらした存在として知られています。

この木もまた、年輪を通じて人類に過去の気候や時間の情報を提供する存在だったことから、象徴的にこの名で呼ばれているのです。

ちなみに、通常、このような古木を調べる際には、「インクリメントボーラー」と呼ばれる器具を使い、鉛筆ほどの太さの木材を円筒状に抜き取ります。

この方法で得られる年輪コアを用いれば、木を生かしたまま内部の年輪を解析することができます。

しかし、この極めて貴重なPinus longaeva「プロメテウス」は、1964年、科学的調査の過程で伐採されてしまいます。

なぜそのような事態が起きたのでしょうか。次項で詳しく解説します。

なぜプロメテウスは伐採されたのか?その後、判明したこととは?

1964年、地理学者ドナルド・R・カリーは、ネバダ州ホイーラー・ピーク周辺の氷河地形を研究していました。

彼の目的は、過去の氷河活動がいつ起きたのかを明らかにすることです。

その手がかりとして用いられたのが、Pinus longaevaの年輪でした。

カリーは、米国森林局の許可を得て、複数のPinus longaevaから年輪コアを採取していました。

その中で、地元の登山者たちから「プロメテウス」と呼ばれる1本の木が、特に古い可能性を持つと判断されます。

しかし、この木は非常に太く、通常の方法では年輪コアの採取が困難でした。

結果として、プロメテウスは調査のために切り倒されてしまいました。

なぜ最終的に伐採に至ったのかについては、コア採取用の器具が折れた、長さが足りなかった、あるいは断面を直接調べる必要があると判断したなど、複数の説明が残されています。

どれが正確なのかは、現在も断定されていません。

一方で、伐採そのものは正式な許可のもとで行われたことは確実であり、違法行為ではありませんでした。

伐採後、断面を詳細に調べた結果、4,862本の年輪が確認されました。

Pinus longaevaは、厳しい環境条件下では年輪が形成されない年もあるため、実際の樹齢はそれ以上と考えられます。

こうしてプロメテウスは、推定約4,900年という、当時としては前例のない長寿の木だったことが明らかになりました。

つまり、世界最古の木であると確定したのは、切り倒された後だったのです。

この出来事は、科学研究と自然保護のあり方を考え直すきっかけの一つとして語られるようになりました。

とくに最古級とされる個体については、保護のために正確な生育場所を公表しない例が増え、木を切らずに調べる非破壊的な研究手法が、より重視されるようになっています。

なお、プロメテウスが伐採された後、長寿記録の「次点」とされていたのは、カリフォルニア州ホワイト山脈に生育する別のPinus longaevaでした。

2012年には、このホワイト山脈の同じ地域で、5,065年と測定された新たな個体が確認され、現在はこの木が「年代測定された単独の樹木として最古」とされています。

ただし、未調査の個体の中に、さらに古いPinus longaevaが存在する可能性も否定はできません。

プロメテウスの切り株はいまも現地に残り、その断面はビジターセンターで展示されています。

この木は、失われて初めて、その本当の価値が理解された存在だったのです。

参考文献

A 4,900-Year-Old Tree Called Prometheus Was Once The World’s Oldest. Then, A Scientist Cut It Down
https://www.iflscience.com/a-4900-year-old-tree-called-prometheus-was-once-the-worlds-oldest-then-a-scientist-cut-it-down-81888

The Prometheus Story
https://www.nps.gov/grba/learn/historyculture/the-prometheus-story.htm

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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