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AIが「事故」と分類されていた病院の書類から「DV」を発見

  • 2025.12.25
AIが誤って分類された病院の書類から「DV」を発見 / Credit:Canva

家庭内暴力(DV)は、時に人間のミスによって見逃されることがあります。

こうした見逃しを減らすため、イタリアのトリノ大学などの研究グループは、救急外来で作成された文章記録をAIに解析させる研究を行いました。

その結果、本来は暴力によるものだった可能性が高い受傷記録が、病院側で「非暴力」と分類されていたことが判明。それらの数は約2000件でした。

目次

  • 病院の分類ミスにより「家庭内暴力」が見逃される
  • AIは膨大な書類からどのように「暴力」を見つけるのか

病院の分類ミスにより「家庭内暴力」が見逃される

救急外来では、患者が到着するとまず初期評価が行われます。

この際、看護師や医師は患者から聞き取った内容をもとに、受傷理由や状況を短い文章として記録します。

問題は、病院側のノートに暴力を示す手がかりが書かれているのに、後から付けられる分類ラベルが「事故」や「非暴力」のままになってしまうような、文章と分類のズレが起こり得る点にありました。

こうしたズレは、多忙な現場では見落とされやすく、結果として記録上は「暴力が存在しなかった」ことになってしまいます。

研究チームが行ったのは、このズレを文章解析で洗い直すことでした。

AIは文章を読み、その記述内容から「暴力由来の受傷らしさ」が高いかどうかを判定し、それを病院側の分類ラベルと突き合わせることで、不一致が疑われる記録を拾い上げました。

研究チームは、イタリア国立衛生研究所(ISS)の全国データベースとして153,826件の救急記録を扱い、さらにトリノのマウリツィアーノ病院のデータとして549,997件の記録を扱いました。

病院データは文章の整形などの前処理を経て369,402件になり、そこから検証に使う「非暴力」記録として359,436件が対象になっています。

つまり、現実の医療現場で書かれた文章を、桁違いの量で読み直す検証が行われたわけです。

そしてAI側も、巨大モデルで力ずくに解くというより、現場実装を意識した設計が選ばれています。

中核となったのがBERTinoというモデルで、イタリア語向けに事前学習された言語モデルです。

BERTinoは巨大な生成AIより軽く速いことが特徴で、病院の限られた計算資源でも動かしやすいとされています。

また、単語の有無だけを見る古い方式ではなく、文全体の構造を踏まえて文脈で判断するため、医療記録にありがちな省略や独特の言い回しが混ざっていても、意味の取り違えを起こしにくいという利点があります。

AIは膨大な書類からどのように「暴力」を見つけるのか

研究チームがこの検証に踏み切ったきっかけは、病院ごとの数字があまりに合わなかったことです。

全国データベースでは暴力由来として扱われた受傷が約3.6%だったのに対し、トリノの病院データでは約0.2%と極端に低く、単に街が安全だからでは説明しにくい差がありました。

そこで研究チームは、病院側で「非暴力」と分類されていた膨大な記録を、文章の中身から再チェックすることにしたのです。

AIは「非暴力」扱いの359,436件を解析し、その中から2,085件を「文章内容から見て暴力由来の可能性が高い」として拾い上げました。

その後、研究者が人の目で確認したところ、2,025件が実際に暴力由来の受傷だと判断されました。

この結果は、AIが拾い上げたものの大半が当たっていたことを示しており、研究ではこの一致の高さを適合率97.1%として報告しています。

ただし、ここで注意が必要です。

研究者自身も、拾い上げられなかった見逃しがどれくらい残っているかを全件確認できていないため、取りこぼしの規模まで含めた評価(再現率の評価)はできないと述べています。

つまり、このAIは「暴力をすべて見つけた」と言えるものではなく、「分類ミスで埋もれていた可能性が高い記録を、高い確度で掘り起こした」と理解するのが正確です。

また、この仕組みが扱えるのは、文章に手がかりが書かれているケースです。

例えば、ノートに「階段から落ちた」としか書かれておらず、実際には押されたのだとしても、それをAIが見抜くことはできません。

それでもこの成果が特に注目に値するのは、家庭内暴力は、そもそも被害が表に出にくいからです。

イタリア国立統計研究所(Istat)によると、暴力を受けた女性のうち報告に至るのは13.3%で、加害者が現在のパートナーの場合は3.8%にまで下がるようです。

言い換えると、医療記録に何らかの形で手がかりが残っているケース自体が貴重であり、そこに分類ミスが混ざると、支援につながる入口がさらに狭まってしまうということです。

今後もAIを上手く活用するなら、人間の手続きの中で生じたミスをできるだけ減らし、支援の入口を少しでも広げていけるかもしれません。

参考文献

AI Helps Catch Thousands of Cases of Domestic Violence That Hospital Paperwork Classed as “Accidents”
https://www.zmescience.com/science/news-science/ai-helps-catch-thousands-of-cases-of-domestic-violence-that-hospital-paperwork-classed-as-accidents/

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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