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クリスマスは1年で最も「受精」が起こる日なのか?

  • 2025.12.24
Credit:Canva

「12月24日21時〜25日3時は「性の6時間で、世のカップルが一斉に盛り上がる」──そんな噂を聞いた人もいるでしょう。

もちろん、これは統計的にきちんと証明された事実ではなく、もともとは掲示板文化から生まれた“ネタ”に近いものです。

それでも、多くの人がこのフレーズを見て妙に納得してしまうのは、「クリスマスってやっぱり“そういう日”なのでは?」という直感をどこかで共有しているからかもしれません。

では、真面目にデータを集めてみたとき、クリスマスは本当に「最も受胎が多い日」だと言えるのでしょうか?

今回は誕生日の分布、妊娠期間の統計、商品やコンドームの売れ行き、月経管理アプリのビッグデータ、さらにはGoogle検索の動きまで調べ、その謎に迫りたいと思います。

目次

  • 誕生日から見えてくる「受精の日」
  • クリスマスから始まる「性の波」
  • クリスマスは頂点ではなく受精ラッシュの開始ベル

誕生日から見えてくる「受精の日」

誕生日から見えてくる「受精の日」
誕生日から見えてくる「受精の日」 / Credit:Canva

まず基本的な事実として、人間の妊娠期間は、受精から出産までだいたい38週間前後(約266日)とされています。

受精(受胎)した正確な「日付」は、本人でさえ分からないことが多いですが「生まれた日」であれば、各国の統計庁がきちんと記録しています。

そのため人間の妊娠期間から逆算し、受精の時期を推定することが(概算として)可能となります。

医療分野では妊娠週数を最終月経の開始日から数えるため、約40週(約280日)になりますという計算もなされますが、今回は受精の瞬間を取り扱う関係上、前者の38週、266日(約9カ月~9カ月半)を妊娠期間とします。

たとえばアメリカでは、1994〜2014年の数千万件規模の出生データを用いた解析で、9月9日が「最も誕生日が多い日」であり、上位十日間のほとんどが9月上旬〜中旬に集中していることが報告されています。

イングランドとウェールズでも、統計局が1995年から2014年までのデータを調べたところ、「最も人気の誕生日」は9九月26日で、その前後の九月後半に「誕生日の山」ができていることが示されました。

オーストラリアでも状況はよく似ていて、統計局は2007〜2016年の公表データで9月17日や9月23日など、やはり九月後半に出生のピークがあると説明しています。

日本でも、厚労省の人口動態統計をもとにした集計として「9月25日が最も多い誕生日」という結果が広く共有されています。

したがって9月下旬の出生ピークから受胎時期を逆算すると、12月下旬〜1月上旬、つまりクリスマスから年末年始にかかる時期に「受精」の頻度が高くなっている可能性が見えてきます。

驚きなのは公的機関もこの点に言及していることです。

イギリスの統計局は、9月26日というピーク日が、クリスマスからおよそ39週と2日後にあたることを明記しています。

さらに、9月下旬の出生ピークは、クリスマス前の数週間とクリスマス後の数日間に受胎が最も多いことを示唆する、という趣旨も述べています。

このことからクリスマスは1年の中でも受精が起きやすい有数の日であることがわかります。

クリスマスから始まる「性の波」

クリスマスから始まる「性の波」
クリスマスから始まる「性の波」 / Credit:Canva

行動データで確かめると、波形がもう少し具体的になります。

月経管理アプリ「Clue」の大規模ログ(50万人超・1億8000万日ぶん)を分析した報告では、性行動(性行為の自己申告)が「週末」と「祝祭日」に強く引っ張られることが示されました。

さらに興味深いことに、クリスマスに関しては「直前の3日間」は性行動が減少するものの、当日〜その後3日で急速に増加し、年始にピークを迎えていることが報告されています。

「クリスマス単体が頂点」というより、「クリスマスで火がつき、年末年始(特に新年)で本番が来る」というのがデータ的には正しいでしょう。

また、このようなクリスマス少し前に沈んでから持ち直すというパターンは複数地域で共通して観察されています。

さらにネットと現実世界の境界でも興味深い現象が報告されています。

Woodらが2017年に発表した約130か国のGoogle検索やTwitter(現X)でみられる情報を分析したところ、クリスマス(キリスト教圏)やイード(イスラム圏)といった祝祭に合わせて「性への関心」が鋭くピークを作ること(Google検索ではSEXを意味する単語の検索が増える)、そしてそのピークを9か月ずらすと出生の増加と対応する傾向が見られました。

そして同様の現象は北半球と季節が真逆の南半球でも同様にみられました。

ですがより直接的なデータは「商品」の売れ行きに隠れていました。

韓国のコンビニチェーンGS25が過去3年のデータを分析したところ、コンドームの売り上げは12月がもっとも多く、とくにクリスマス当日は「1日で1万個超」で、1日平均より3倍以上に跳ね上がる「クリスマス特需」になっていたとされています。

別のコンビニチェーン(7-Eleven)の調査でも、コンドーム販売がクリスマス当日に平常日比+162%、イブに+96%と大きく伸びたと報じられています。

またヨーロッパにおいてはセックストイ業界にとってもクリスマスは重要な商戦期です。

大手メーカーや通販サイトでは、クリスマス前の数週間を「バナー・ホリデー(書き入れ時)」と呼ぶと報じられることもあり、マッサージオイルやマッサージ用品、大人のおもちゃのギフトキットなどの売上が大きく伸びることが報告されています。

大手のLovehoney社の販売データでは「クリスマス前4週間」で前年比、カップル向けゲームが32%、マッサージ系が52%、セックストイキットが82%増えたと報じられています。

クリスマスは頂点ではなく受精ラッシュの開始ベル

クリスマスは頂点ではなく受精ラッシュの開始ベル
クリスマスは頂点ではなく受精ラッシュの開始ベル / Credit:Canva

ここまでの話は主に文化や行動の側面でしたが、妊娠にはもちろん、生物学的な要素も関わっています。

人間は、羊やシカのような「はっきりした発情期を持つ季節繁殖動物」ではありませんが、それでもごく弱い形で「繁殖に向きやすい季節」が存在するのではないかとする研究もあります。

精液についても大規模な研究やレビューでは、精子の濃度や一部の運動性が冬から春にかけてやや高く、暑い夏には低下する傾向が見られたという報告があります。

また、先ほど触れた月経管理アプリのデータと出生統計を組み合わせた解析では、北半球では秋から初冬にかけて、統計モデル上「季節的な受胎しやすさ」がわずかに高まっている可能性が示されました。

季節による差は決して多くはありませんが、一部解析では統計的に有意な差となっています。

もし、人体側にそうした「冬寄りの妊娠しやすさ」があるとすれば、そこに文化的な祝祭日の波が重なると、効果はさらに強調されることになります。

秋から初冬にかけて体のコンディションがわずかに妊娠向きの状態になっているところへ、クリスマス〜年末年始という恋人・家族イベントが訪れることで、一年のなかでも特に妊娠しやすい「シーズン」が形づくられていると考えることができます。

つまり、クリスマス〜年末年始に妊娠が多くなる理由はゆるやかな生物学的な季節性の上に、「祝祭日としてのクリスマス」という文化的なピークがきれいに重なっているダブルパンチのような結果として解釈できるのです。

そして肝心の結論ですが、クリスマスの夜に空を見上げながら、「今ごろ世界中で沢山の生命の神秘が起きているのだろう」と想像してしまったとしても、それはあながち的外れな想像ではありません。

ただ科学的な正確性を期すならば、クリスマスの夜に響く鐘の音は受精ラッシュの頂点というより、その後数日に渡り長く続くラッシュの開始ベルと言えるでしょう。

元論文

Human Sexual Cycles are Driven by Culture and Match Collective Moods
https://www.nature.com/articles/s41598-017-18262-5?utm_source=chatgpt.com

Unmasking Seasonal Cycles in Human Fertility: How holiday sex and fertility cycles shape birth seasonality
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.19.20235010v1?utm_source=chatgpt.com

Seasonality-Public-Repo
https://github.com/lasy/Seasonality-Public-Repo?utm_source=chatgpt.com

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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