1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 世界初「車いす利用者」が宇宙飛行に成功

世界初「車いす利用者」が宇宙飛行に成功

  • 2025.12.22
Credit: canva

もし「宇宙飛行士になりたい」という夢を抱いたとき、事故で歩けなくなったら、その夢は終わってしまうのでしょうか。

ドイツ出身のエンジニア、ミカエラ・ベントハウスさん(33)が、まさにその問いに答える出来事を成し遂げました。

このほど、民間宇宙企業ブルーオリジン(Blue Origin)の準軌道飛行で、車いす利用者として世界で初めて宇宙に到達し、無事に帰還したのです。

目次

  • 事故で絶たれた夢が「オンラインの一通」で動き出す
  • 10分の飛行で「宇宙は誰のものか」が変わる

事故で絶たれた夢が「オンラインの一通」で動き出す

ベントハウスさんは7年前、マウンテンバイク事故で脊髄を損傷し、歩行ができなくなりました。

それは本人にとって、宇宙への夢が現実的に消えた瞬間でもありました。

「障害のある人が宇宙に行った前例がない」と感じ、宇宙飛行は自分には無理だと思ったと語っています。

ところが彼女はそこで諦めず、引退した宇宙開発エンジニアにオンラインで連絡を取ります。

相手は、元スペースエックス(SpaceX)の幹部で、ドイツ生まれのハンス・ケーニヒスマン氏です。

ベントハウスさんは「私のような人でも宇宙飛行士になれますか」と率直に尋ねました。

この問いかけが、状況を動かしました。

ケーニヒスマンさんは、彼女の意志に背中を押されたと語り、飛行の実現に向けた調整や準備を支援します。

こうして、ジェフ・ベゾス氏が創設したブルーオリジンによる、10分間の準軌道飛行が具体化していきました。

10分の飛行で「宇宙は誰のものか」が変わる

打ち上げは米テキサス州の発射場から行われ、再使用型の準軌道ロケット「ニューシェパード(New Shepard)」が用いられました。

ベントハウスさんと5人の同乗者は上昇し、宇宙の境界線として知られるカーマン・ラインのすぐ上まで到達しました。

飛行中には数分間の微小重力も体験しています。

着陸後、ベントハウスさんは「最高にクールな体験でした」と笑顔で語りました。

景色や微小重力だけでなく、上昇する過程そのものが楽しかったとも述べています。

別のコメントでは、上昇中ずっと笑っていたことや、宇宙で逆さまになろうとしたことも明かしています。

実際の動画はこちら。音量に注意してご視聴ください。

今回の飛行で注目すべきは、特別な「大改造」ではなく、比較的小さな工夫の積み重ねで実現した点です。

ブルーオリジンは、ベントハウスさんがカプセルに乗り降りしやすいよう地上支援設備を追加し、移乗を助ける器具や手順を整えました。

ハッチから伸びるベンチを使い、彼女は車いすからカプセルへ自力で移動しています。

着陸後には地上で車いすにすぐアクセスできるよう配慮もされたといいます。

必要時に備えて、ケーニヒスマン氏は近くに座り、支援役として同行しました。

ベントハウスさん自身は「事故後、障害のある人にとって世界がまだどれほど利用しにくいかを本当に思い知らされた」と語っています。

だからこそ目標は、障害のある人に宇宙を開くだけでなく、地上のアクセシビリティも改善することだとしています。

ブルーオリジン側も「宇宙は誰にでも開かれていることを示す意味の大きい飛行だ」と述べ、今回のフライトを象徴的な出来事として位置づけています。

宇宙飛行は、健康な人でも簡単ではありません。競争は激しく、機会は限られています。

その世界で「車いす利用者が宇宙へ行った」という事実は、単なる快挙以上の意味を持ちます。

宇宙は、遠くて特別な場所に見えます。

しかし今回の出来事が示したのは、宇宙へ向かう道を広げるための鍵が、意外なほど地に足のついた工夫と設計にあるということです。

「夢を諦めないでください」と語ったベントハウスさんの言葉は、宇宙を目指す人だけでなく、日常のどこかで不便さに直面している人にも響くはずです。

参考文献

First wheelchair-using astronaut touches down after ride to edge of space
https://www.theguardian.com/science/2025/dec/20/first-wheelchair-using-astronaut-blur-origin-rocket

Engineer becomes first wheelchair user to go to space
https://www.bbc.com/news/articles/c5y9z0g7lleo

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる