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江戸一の利者、蔦重は最期まで戯けて旅立った… しりあがり寿の「べらぼう」最終回ひとコマ劇場

  • 2025.12.16
@しりあがり寿

「べらぼう」最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」の名場面は……

江戸時代中期の出版文化を描く令和7年のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~(つたじゅうえいがのゆめばなし)」をしりあがり寿さんが絵と文でレビューする本連載にも、ついにこの日がやってきました。「とても終わるとは思えない⁉」と視聴者が気を揉んだ今年の大河、最終回は冒頭から「あっ!!」と驚かされ、史実と作りごとの間隙を夢の噺が橋渡し、ああそして最後はあの名場面! 「しりあがり寿の「べらぼう」ひとコマ劇場も今回が最後です。どうぞとくとご覧くだせぇ。 ※以下ネタバレあり&記事の最後に話題の場面写真を掲載

病に倒れた蔦重、最期は「屁」踊りの輪のなかで…

@しりあがり寿

絵と文=しりあがり寿

いよいよ最終回!

まずは怒涛の伏線回収だ!

一橋、源内、瀬川、さまざまな登場人物のその後が走馬灯のように映し出されたかと思うと、やがてその中心の蔦重もまた、回る「屁」の円の中で最期を迎える。なんか最後まで絵のようなドラマだったなー。

それにしても蔦重というのは面白いこと、ひとを楽しませることを貫いた人だったんだね。

でもそれは同じ字だけど「楽」なことじゃなくて、このドラマでも身分差別、地域差別、既得権益、頑迷な保守、禁欲主義、そして自分のことしか考えないラスボス権力者との、戦いの連続だった。

いやー、楽しみのためには楽はできないという見本のような人生だ。

そして最期、2大偉大な死に方パターンの「抱きかかえられるキリストのピエタ」と「人々に囲まれる釈迦の入寂図」の二つをあわせて「屁」を足したような往生。かつて春町先生が書いた「屁に囲まれた屍の図」がついに完成した見事な最期だったね。

上から見たらあれは様々なクリエイターが蔦重を囲む曼荼羅のように見えたかもしれないね。

しかし自分もあの輪に入りたかったなー。
時代を作る才能が若い頃、一堂に会してるような場所。

マンガで言えばトキワ荘だったり、芸術だったらモンマルトルの洗濯船だったり、モンパルナスの蜂の巣だったり、新宿のジャックと豆の木、原宿のセントラルアパート。

そういう場ってのは様々なジャンルに大なり小なりあって、スリリングで面白くて、そこに居合わせることができる選ばれた人々ってホントに幸せだと思う。

そんな場を甦らせ、この1年僕らをそこに居合わせてくれた「べらぼう」。
楽しかったね。

このドラマに携わった全ての人にお疲れさま! そしてありがとう!
<完>

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」

【最終回「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」あらすじ】
店を再開した蔦重(横浜流星)は、写楽絵を出し続け、更にその後、新たに和学の分野に手を広げたり、本屋として精力的に動いていた。しかし、ある日、蔦重は脚気の病に倒れてしまう。てい(橋本 愛)や歌麿(染谷将太)たちが心配する中、病をおして政演(古川雄大)や重政(橋本 淳)、南畝(桐谷健太)、喜三二(尾美としのり)ら仲間とともに作品を作り、書を以って世を耕し続ける。そして蔦重は、ある夜、不思議な夢をみて…。

治済は落雷で命を落とした。だが斎藤十郎兵衛(生田斗真:二役)にはもう戻るところはない。気遣う蔦重(横浜流星)にこの暮らしも悪くはない、と告げる 写真提供=NHK
写楽のつぎの施策のため蔦重が伊勢に訪ねたのは和学者の本居宣長(北村一輝)。越中守の書状を持参、古事記を引用して持論を滔々と語る蔦重に宣長は耕書堂から書を出すことに首を縦に振った 写真提供=NHK
本好きの女将がいるらしい。平蔵(中村隼人)は瀬川のその後を突き止め、蔦重を伴って陰から幸せそうな姿を見つめた 写真提供=NHK
金太郎は俺で山姥が母親。歌麿(染谷将太)の心を覆っていた重たいものが晴れていく。脚気に倒れた蔦重(横浜流星)に続きの絵を見たいなら生きろと歌麿は語った 写真提供=NHK
日の本中に笑いという富を広げた。町を富ませた陶朱公のようにあなたは生きたと弱っていく蔦重におてい(橋本愛)は語りかけた 写真提供=NHK
絵師も戯作者も狂歌師も、忘八連中も、本屋仲間も、店の者も。おやじさまも義兄さんも、おていが抱きかかえる蔦重のもとに集まった 写真提供=NHK
「蔦重を呼び戻すぞ!」。大田南畝(桐谷健太)の掛け声で蔦重の臨終の場に駆けつけた全員で「屁」踊りが始まった。蔦重が夢で告げられたお迎えの合図は拍子木。だが皆の声が騒がしくて聞こえない…… 写真提供=NHK

ときは江戸時代中期、泰平の世が長く続いた時代。江戸独自の文化が花開き、いまで言えば“メディア・プロデューサー”として多くの戯作者、絵師を世に出した蔦屋重三郎(横浜流星)を主人公にした物語が2025年の大河ドラマ。脚本は「JIN-仁-」「大奥」「おんな城主 直虎」などを手掛けた森下佳子さんです。

【放送予定】総集編は2025年12月29日(月)[総合/BSP4K]
後0:15 総集編巻之一
後1:05 総集編巻之二
後1:48 総集編巻之三
後2:31 総集編巻之四
後3:20 総集編巻之五

しりあがりことぶき◯1958年静岡市生まれ。多摩美術大学デザイン科卒業。幼少期から浮世絵が好き。小学校の学区内に『東海道中膝栗毛』の原作者・十返舎一九の生家があった。2014年紫綬褒章受章。北斎のパロディ作品の個展は2018年、2021年とすみだ北斎美術館にて開催、大きな反響を呼ぶ。パロディ作品集『しりあがり×北斎 ちょっと可笑しなほぼ三十六景』(小学館)を2022年に出版。

画・文=しりあがり寿 編集=内田理惠(婦人画報編集部)

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