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時空の壁も、自然と人工の境までも超越するアート

  • 2025.12.12

【モエレ沼公園】北海道の大地に展開する生命感にあふれる造形

直径2mのステンレスの円柱を三角に組み上げた、シンプルでダイナミックなモニュメント「テトラマウンド」。Photo_ Moerenuma Park
直径2mのステンレスの円柱を三角に組み上げた、シンプルでダイナミックなモニュメント「テトラマウンド」。Photo: Moerenuma Park

日本人の詩人を父に、米国人の作家を母に持ち、幼少期から2つの国を行き来しながら、人種や文化の壁を乗り越え、彫刻、庭園、家具、舞台美術といった多彩な分野で活躍したイサム・ノグチこそ、まさにトランスセンデントなアーティストだ。その作品は東洋と西洋の要素を併せ持ち、曲線を生かした優美で大胆な造形は有機的で、生命感にあふれている。

「ガラスのピラミッド
「ガラスのピラミッド"HIDAMARI"」は、ノグチの友人でもあるイオ・ミン・ペイが設計したルーヴル美術館のピラミッドへのオマージュ。Photo: Moerenuma Park

そのノグチが、1988年に基本設計を手がけたのが札幌市のモエレ沼公園。約189haの広大な敷地に、公園のシンボル的存在の「ガラスのピラミッド"HIDAMARI"」や、頂上の展望台から市街地を見渡す人工の山「モエレ山」、海辺をイメージして造った子供たちの水遊び場「モエレビーチ」などを配し、公園全体をひとつの彫刻にするという構想を描いた。彼にとっては最大級の作品だったが、完成を見届けることなく同年ニューヨークで逝去。ただその遺志は受け継がれ、17年後にようやくグランドオープンした。幾何学的なフォルムの施設が点在する美しいランドスケープによって、自然と人工の融合を体感することができる。

「モエレ山」はイサム・ノグチの生誕100年にあたる2004年に完成。展望台の幅も2004cmに設計した。Photo_ Moerenuma Park
「モエレ山」はイサム・ノグチの生誕100年にあたる2004年に完成。展望台の幅も2004cmに設計した。Photo: Moerenuma Park

モエレ沼公園

北海道札幌市東区モエレ沼公園1-1

Tel./011-790-1231

https://moerenumapark.jp/

【小田原文化財団 江之浦測候所】海の水平線を見渡す土地に古代から現代までの建築様式を集結

檜の懸造り の上に光学硝子を敷き詰めた「光学硝子舞台」とその左に「冬至光遥拝隧道」。 Photo_ 小田原文化財団
檜の懸造り の上に光学硝子を敷き詰めた「光学硝子舞台」とその左に「冬至光遥拝隧道」。 Photo: 小田原文化財団

世界各地の海の水平線を同一の構図で撮影した「海景」シリーズなどで知られる杉本博司。「古代人が見ていた風景を現代人も見ることは可能なのか」という問いから、その作品群が生まれたように、すべての作品は厳密なコンセプトに基づいて制作され、杉本の作品群に偶然生まれた傑作などは存在しない。写真家の枠に留まらず、現代美術作家、建築家、演出家としても活躍し、古美術の蒐集家 としても有名だ。

間に柱などがなく、37枚の大型ガラスが連続する「夏至光遥拝100メートルギャラリー」。Photo_ 小田原文化財団
間に柱などがなく、37枚の大型ガラスが連続する「夏至光遥拝100メートルギャラリー」。Photo: 小田原文化財団

その杉本が、構想から完成まで20年をかけた複合文化施設が、神奈川・小田原の江之浦測候所だ。相模湾の水平線を見渡す 広大な敷地に、古代から現代までの建築様式を織り込んだギャラリー、舞台、茶室、石庭を点在させ、「海景」シリーズをはじめとする杉本の作品のほかに、これまで蒐集してきた古美術も展示。古代の人類が自らの存在を天空との関係によって確認したことにならい、各施設は太陽の動きや地軸の角度と連動して配置されている。古典と現代の建築様式と文化が交錯する空間は、現在では継承が困難になりつつある伝統工法を再現し、将来に伝える使命を有する壮大なアートだ。

室町時代に鎌倉・明月院の門として建てられた「明月門」。その後、東京・根津美術館の正門にも使われていたが、改築の際に寄贈されてこの地に再建。Photo_ 小田原文化財団
室町時代に鎌倉・明月院の門として建てられた「明月門」。その後、東京・根津美術館の正門にも使われていたが、改築の際に寄贈されてこの地に再建。Photo: 小田原文化財団

小田原文化財団 江之浦測候所

神奈川県小田原市江之浦362-1

Tel./0465-42-9170

https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

※事前予約制

【鳥取県立美術館】みんなに開かれた美術館を象徴する光あふれる開放的な建築

大山まで見渡せる3階の展望テラス。天井のルーバーは倉敷絣を彷彿とさせる。
大山まで見渡せる3階の展望テラス。天井のルーバーは倉敷絣を彷彿とさせる。

モダニズムを原点に、国際的な感性を織り込んだ建築で世界を魅了した建築家・槇文彦。幕張メッセ、京都国立近代美術館、NYの4ワールド・トレード・センターなど、数々の傑作を残し、プリツカー賞やAIAゴールドメダル賞、フランス芸術文化勲章オフィシエなどの受賞歴を誇ったが、惜しまれながら2024年に95歳で逝去した。彼の哲学を引き継ぎ、2025年3月にオープンしたのが、鳥取県倉吉市の鳥取県立美術館。鳥取県立博物館の美術部門が50年近い年月をかけて集めた約1万点の作品や、アンディ・ウォーホル、ギュスターヴ・クールベなど、国内外の優れた作品をコレクションしている。

エントランスを入ると、ガラスの壁に囲まれた大きな吹き抜け「ひろま」がある。
エントランスを入ると、ガラスの壁に囲まれた大きな吹き抜け「ひろま」がある。

大きな平屋根を持つ、延床面積約1万㎡の建物の中心に、「ひろま」と呼ばれている3層吹き抜けの空間を造り、外周部の「えんがわ」を挟んで、隣接する7世紀の遺跡「大御堂廃寺跡歴史公園」とつながる。緑の山並みを望む展望テラスには、倉敷絣を感じさせるルーバーや町家の格子を意識した手すりなど、歴史ある倉吉の伝統様式を取り入れた。槇が常に意識してきた地域の歴史と自然を取り込み、現代的な透明性を備えたデザインは、「OPENNESS!」というコンセプトを掲げ、”みんなに開かれた美術館”であろうとするこの美術館にふさわしい。

美術館の南側には、山陰地方最古の古代寺院跡を含む「大御堂廃寺跡歴史公園」の緑地が広がっている。
美術館の南側には、山陰地方最古の古代寺院跡を含む「大御堂廃寺跡歴史公園」の緑地が広がっている。

鳥取県立美術館

鳥取県倉吉市駄経寺町2-3-12

Tel./0858-24-5442

https://tottori-moa.jp/

Text: Yuka Kumano

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