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朝ドラ視聴者から絶賛された“痛みの演技”「余計に泣ける」「がんばれ」解釈が分かれる展開に“注目”が集まった1週間

  • 2026.1.30
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『ばけばけ』第17週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』第17週「ナント、イウカ。」は、単なる恋の成就または失敗を描いた週ではない。同じ松江で、同じ貧しさを知りながら生きてきた3人の女性……トキ(髙石あかり)、サワ(円井わん)、なみ(さとうほなみ)が、それぞれどんな仕方で未来を選んだのかという、静かな分岐が描かれていた。誰かと出ること。一人で出ること。そして、出るのを急がないこと。そのどれもが正しく、そして切実な選択である。

※以下本文には放送内容が含まれます。

“差し出される側”に立ってしまった女の無自覚な孤独

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『ばけばけ』第17週(C)NHK

『ばけばけ』第17週は、視聴者にとっても受け取り方が難しく、解釈の分かれる週だったのではないだろうか。

誰が幸せで、誰が不幸だったのか。誰の選択が正しく、誰が間違えたのか。その問いに、物語は安易な答えを提示しない。その代わりに、3人の女性がそれぞれ異なる仕方で“未来”を選択して引き受ける、そんな堂々かつ真摯な姿が見られた。

まずは、ヒロインのトキ。この週のトキは、サワとの関係がギクシャクしている件で落ち込みながらも、常に“支えられる側”に立っていることを思い知らされる。夫のヘブン(トミー・バストウ)と父の司之介(岡部たかし)が仕組んだマジックショー。「ダイジョウブ」と書かれた紙が帯のなかから現れるあのサプライズは、微笑ましく、同時に象徴的だ。

トキはもう、守られる存在になっている。新聞に載り、知らぬ間に誰かの希望や指針となり、人生を動かす存在になってしまった。そのことに、彼女自身はまだ気づききれていない。

遊女のなみが身請けを決意した理由として、新聞でトキのことを見ていたら、自分にも良いことがあるかもと思った、と語ったことからも、それが窺える。トキの存在はすでに公に開かれ、ある種の象徴になっているのだ。

サワが庄田(濱正悟)のプロポーズを受けて夫婦になった、と早合点したトキは、お祝いにとこしらえた小さな花束を、素直に差し出せる強さを持っている。それは美徳であり、同時に、自分がどこに立っているのかを見失わせる効果も伴う。

“誰かと出る”ことを選んだ女の現実的な幸福

一方、なみはどうか。

彼女は、迷いながらも“誰かと出る”ことを選んだ。しかもそれは、不安や恐怖をきちんと引き受けたうえでの選択だった。遊郭しか知らない自分が、外で生きていけるのか。その不安を抱えたまま、それでも一歩を踏み出した。そしていま、“天国”と言い切れる現在地に彼女はいる。

重要なのは、なみがこの選択を夢物語ではなく、“現実”として語っている点だ。なみは、自分の人生を誰かに委ねたのではない。条件を理解したうえで、誰かと生きる道を選んだのだ。

だからこそ彼女は、サワに対して「無理して出なくてええ」と言える。その言葉は諦めではなく、自分の選択を肯定できている人間の余裕である。

“一人で出る”ことに人生を賭けた、最も不器用な選択

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『ばけばけ』第17週(C)NHK

そして、サワ。この週でもっとも痛みを引き受けたのは、間違いなく彼女だった。

松江中学の新しい英語教師候補としてやってきた庄田。彼がサワに差し出したのは、愛情だけではない。月25円という具体的な生活の保障、借金返済、そして長屋からの脱出。サワが長年願ってきたものの、ほとんどすべてだった。

それでもサワは、「つかめんかった」と泣き崩れる。彼女が拒んだのは庄田ではない。この形で救われてしまうかもしれない、自分の存在そのものだった。

ひとりで出ると決めた過去の自分。その約束を破ることは、これまでの努力や誇りを、自分の手で否定することになってしまう。だからこそ彼女は、幸せになれる道を知りながらも、あえて選ばなかった。いや、選べなかったのだ。

トキは惜しげもなく差し出せ、かつ受け取れる人で、サワは差し出されることに戸惑い、抗う人だった。その違いは、能力でも人格でもなく、選び方の問題なのだ。

第17週の『ばけばけ』が誠実なのは、サワを“失敗した女”として描かなかった点にある。サワを演じる円井わんの演技についても「演技うまくて余計に泣ける」「大丈夫だよ、がんばれ」と絶賛の声が多い。トキの無垢さも、なみの幸福も、サワの拒絶も、すべてを並べてイタズラに外部から価値判断をするのではなく、等価に置いた。

誰かと出ること。一人で出ること。出ることを急がないこと。そのどれもが尊厳を持ち、どれもが痛みを伴う。その残酷でやさしい真実を、3人の女性の背中で語っていた。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_