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AI生成の「ありえない動物映像」が子供の”判断力”を破壊する

  • 2025.12.4
AI生成の動物映像が子供たちに誤解を与える / Credit:Canva

「アライグマがワニの背に乗って川を流れる」といった、現実では起こりえない野生動物の映像が、いまSNS上にあふれています。

これらは人工知能が作り出した映像ですが、見た目がとても自然なので、一部の人が本物だと信じてしまいます。

スペインのコルドバ大学(University of Córdoba)の研究チームは、この状況が自然理解や生物識別能力にどんな影響を及ぼすのか、SNSで拡散しているAI生成の野生動物動画を詳しく分析しました。

研究はAIが生み出す架空の動物像が、人々の認識をどのように歪め、特に子供の学習にどのような混乱を生むのかを明らかにしています。

この成果は2025年9月3日付の『Conservation Biology』に掲載されました。

目次

  • 「AI生成の動物映像」は子供たちへ誤解を与える
  • AI生成の動物映像の影響力が強いのはなぜ?

「AI生成の動物映像」は子供たちへ誤解を与える

AI技術は、実在の動物の質感や動きを精密に再現できるほど発達し、一般の人が見ても本物と区別がつかない映像を簡単に作り出せるようになりました。

特にSNSでは、驚きや感情を刺激する動画ほど強く拡散されるため、捕食者と獲物が仲良く遊んでいたり、動物が人間のように感謝したりと、現実では起こらない演出が日常的に広まっています。

研究チームは、こうした映像の氾濫が、若い世代の自然理解をどれほど歪めているのかという点に強い危機感を抱いていました。

過去の教育プロジェクトでも、子供たちが自分の住む地域の在来動物をほとんど知らないことが明らかになっており、この「知識の空白」がAIの偽映像によってさらに深刻化する可能性が指摘されていたためです。

今回の研究では、SNS上で特に拡散されているAI生成映像を収集し、それぞれがどのような誤解を生み、どのような生態学的な捏造を含んでいるのかを分析しました。

学生の協力により、実際にSNSで共有されている映像の追加収集も行われ、分析対象は幅広いコンテンツに及びました。

そして分析の結果、AI生成映像には、「猫が子供を守るためにヒョウを追い払う」といった現実には成立しない行動の描写や、野生動物が人間のように笑ったり感謝したりするような演出が繰り返し登場していました。

また、本来は限られた地域にしか生息しない動物が、あたかも身近な場所に現れるかのように描かれている映像も多く、絶滅危惧種が過剰に登場することで、種が豊富に存在するかのような錯覚を生むケースも確認されました。

さらに、こうした動画は、野生動物と人間が安全に触れ合えるかのような誤った印象を与える傾向も強く、動物行動への理解を根本から揺るがす可能性が示されました。

研究者たちは、このようなAI映像が、子供たちの生物識別力を弱めてしまうと指摘しています。

さらに、野生動物を危険ではないと誤解させたり、希少な動物をペットとして飼いたいという気持ちを強めてしまったりするなど、いくつものリスクが同時に起きる可能性があると警告しています。

では、これらAIが生成した「ありえない動画」の影響が強いのはなぜでしょうか。

AI生成の動物映像の影響力が強いのはなぜ?

AI生成の動物映像がこれほど強い影響力を持つ理由として、まずSNSの拡散力の高さが挙げられます。

誤情報は正確な情報よりも速く広まりやすく、AI映像は視覚的なインパクトが大きく、内容の真偽を確認しないまま大量に共有されます。

その結果、虚構の動物像が瞬く間に一般の認識へ浸透してしまうのです。

さらに、人が動物の行動を人間の感情で説明しやすいという心理的な傾向が、AI映像によって強化されることも大きな問題です。

AIは人間が「そうあってほしい」と感じる物語性を巧みに盛り込み、動物が友情や感謝を示すように描くため、視聴者はそれを自然な行動として受け取ってしまいます。

加えて、現代の生活環境では子供たちが直接自然に触れる機会は多くありません。

身近な生き物を知らないまま育つと、AIが描いた「鮮やかな自然」のほうが、本物の自然よりも強く記憶に残ってしまうのです。

研究チームは、これらの問題に対処するために、AIで生成された映像であることを明確に表示することや、SNS情報の真偽を自分で確かめるためのメディアリテラシー教育を強化する必要があると提案しています。

さらに、小学校教育の段階で在来種と外来種の違いや、本来その地域に存在しない動物が映像に登場する理由などを丁寧に教えることで、子供たちが架空の自然像に惑わされない基礎を作ることが重要だとしています。

AIがもたらす「魅力的すぎる自然」に対抗するには、現実の自然を正しく理解するための知識と経験を育むことが欠かせません。

そして何より、私たち一人ひとりが、画面の中に現れる野生動物が本物とは限らないことを知り、「本当の自然」と向き合う姿勢を取り戻す必要があります。

参考文献

AI-generated wildlife videos generate confusion and threaten conservation efforts
https://www.eurekalert.org/news-releases/1104339

元論文

Threats to conservation from artificial-intelligence-generated wildlife images and videos
https://doi.org/10.1111/cobi.70138

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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