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ホリデーシーズンが怖い「クリスマス恐怖症」とは?

  • 2025.12.4
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

ホリデーシーズンが近づくと、街はきらびやかなイルミネーションと音楽であふれ、SNSも「楽しそうな予定」で埋め尽くされます。

しかしその裏では「クリスマス」と聞くだけで胃がキリキリし始める人たちがいます。

彼らが抱えるのは「クリスマス恐怖症(Christougenniatikophobia)」と呼ばれる状態です。

言葉どおりに訳せば「キリストの誕生に関係したものへの恐怖」ですが、実態としては「ホリデーシーズンそのものが怖い」という感覚に近いものです。

周りが一年で一番ハイテンションになる時期に、自分だけが一年で一番しんどい。

このギャップは、とても孤立感の強い体験です。

では、なぜ「楽しいはずの季節」が、誰かの恐怖になるのでしょうか?

目次

  • クリスマスが「恐怖」に変わるまで
  • クリスマス恐怖症との向き合い方

クリスマスが「恐怖」に変わるまで

まず前提として、「クリスマス恐怖症」という名前の診断名が公式に存在するわけではありません。

ただし、ホリデーシーズンにありがちな行動(パーティー、買い物、家族行事)が、すでに知られているさまざまな恐怖症や不安障害を一気に刺激してしまうことは、専門家たちが指摘しています。

イギリスの不安症支援団体「Triumph Over Phobia(TOP)」の担当者は、祝祭シーズンの典型的な行動が、多くの人にとって「かなりきつい負荷」になり得ると述べています。

たとえば:

・クリスマスパーティーや親族の集まりは、社会不安(対人不安)を抱える人にとっては、地獄のような場になり得ます。大勢の前で話す、初対面の人と会話する、笑顔で振る舞う。そうした「当たり前」が、強い恐怖や動悸につながります。

・冬場のパーティー会場や電車、ショッピングモールは、閉所恐怖症の人にとって息苦しい空間です。逃げ道が見つからないように感じて、パニックに近い状態になることもあります。

・食べ飲みが中心のシーズンは、嘔吐恐怖症(吐くことへの恐怖)の人にとっても大きなストレスです。「人前で気分が悪くなったらどうしよう」「酔いつぶれた人を見たくない」といった不安が、イベントそのものを避けさせます。

・にぎやかな繁華街のイルミネーションを見に行くことや、混雑したショッピングモールでの買い物は、広場恐怖(開けた場所や人混みへの恐怖)を強く刺激します。

社会不安障害だけを見ても、アメリカでは生涯でおよそ8人に1人が経験するとされ、過去1年に限っても14人に1人ほどが症状を感じています。

閉所恐怖や嘔吐恐怖も、決して珍しいものではありません。

さらに、近年じわじわ注目されているのが「家族との時間」そのものへの心理的負担です。

海外の心理学者たちは、家族と過ごすとき、私たちは子ども時代のパターンに“逆戻り”しやすいと指摘しています。

・兄弟げんかの構図がそのまま再現される

・親との力関係や「役回り」が昔のままに戻る

・自分だけが「できない子ども」に戻ったように感じてしまう

こうした“退行”は、ごく一般的な防衛反応です。

しかし、ここに仕事の疲れや年内の締め切り、経済的な負担といった現代的なストレスが重なることで、「ホリデーシーズン=ストレスの塊」と感じる人が増えていると考えられます。

周りが「一年で一番楽しい時期!」と盛り上がる中で、自分だけが「一年で一番しんどい時期…」と感じる。

このギャップこそが、いわゆる「クリスマス恐怖症」を、より孤独でつらいものにしてしまうのです。

クリスマス恐怖症との向き合い方

では、ホリデーシーズンが怖いと感じる人は、ただ我慢するしかないのでしょうか。

専門家たちは、「どんな恐怖症も、対処法を学ぶことで軽くすることができる」と口をそろえています。

ひとつの代表例が、認知行動療法(CBT)です。

認知行動療法は、不安や恐怖に対して「考え方」と「行動」の両方からアプローチする方法で、よく「脳のパーソナルトレーニング」にたとえられます。

・苦手な場面に、少しずつ段階を踏んで触れていく「段階的な暴露」

・パーティーの前に、短い雑談の練習をしてみる

・「自分は絶対に失敗する」という自動的な思い込みを客観的に意識し、少しだけ別の考え方を試してみる

といった取り組みを通じて、「怖い=即パニック」だったパターンを少しずつ書き換えていくイメージです。

また、同じ悩みを持つ人たちとのコミュニティも大きな支えになります。

イギリスの社会不安フォーラム「SAUK」の運営者は、「社会不安の一部には、自分の恐怖を他人に知られまいと避けることが含まれるので、同じ不安を理解してくれる人たちと交流することは、とても安心感につながる」と語っています。

・「自分だけが変なんじゃないんだ」と分かる

・他人の体験談から、現実的な工夫やコツを学べる

・「自分の回復に、自分で主体的に取り組めている」という感覚が得られる

こうした要素が重なって、かつて「ほとんど家から出られないほど」だった人が、「今ではほとんど社会不安を感じない」と語るケースもあるといいます。

実際の場面で使える小さな工夫としては、次のようなものがあります。

・緊張する場に行く前に、深呼吸やストレッチなど、自分なりの“グラウンディング”を用意しておく

・「完璧に楽しむ」ことを目標にせず、「今日は2時間いられればOK」など、ハードルを意識的に下げる

・「これは一年のうちのほんの数日で終わるイベントだ」と、自分に言い聞かせる

ある心理学者は「心配している期間が、実際にストレスの場にいる時間よりも長くなりがちだ」と指摘しています。

だからこそ、「これは永遠に続く苦行ではなく、期限付きの行事だ」と意識することは、意外なほど助けになるのです。

もしあなたが、クリスマスという言葉を聞くだけで胸がざわつくなら、まず知ってほしいのは「あなたはひとりではない」ということ。

ホリデーシーズンを「最高の時間」と感じる人もいれば、「一年で一番しんどい時間」と感じる人もいます。

どちらも、人間としてごく自然な反応です。

自分の好みに合った穏やかな過ごし方を心がけるのが大切でしょう。

参考文献

What Is Christougenniatikophobia, And What Do I Do About It?
https://www.iflscience.com/what-is-christougenniatikophobia-and-what-do-i-do-about-it-81765

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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