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着物の裏地・八掛のおしゃれ|今さら聞けない&意外に深い着物の基本

  • 2025.12.2
撮影=桂太(フレイム)

「小紋の着物について深掘り」の記事の中で、着物の裏地である「八掛」の色合わせについて触れさせていただきました。今回はその裏地について、もう少し詳しくご紹介させていただこうと思います。

胴裏と八掛のキホン

女性用の袷(あわせ)の着物の裏地には「胴裏(どううら)」と「八掛(はっかけ)」という裏地を使います。

例えば洋服と同様に、裏地には「補強」と「保温・防寒」という役割があり、特に「胴裏」はその意味合いが強い部分です。仕立て上がった着物の裏地を見ると、おもに「胴」のあたりに、白いすべりのよい裏地がついていますが、それが「胴裏」です。

これに対して、着物の裾まわり(下半身)や衿の裏側には、色(場合によっては柄)のついた裏地が使われています。これが「八掛」です。表地の素材が絹であれば裏地も絹を選ぶのがよいとされ、素材を揃えるのが一般的です。

左3点が、無地の八掛。右3点がぼかしの八掛。表地が薄い地色の場合には、裏地の色が表地に影響しないように、ぼかしの八掛を選ぶことをおすすめします。八掛すべて(<a href="https://www.takashimaya.co.jp/" target="_blank">髙島屋</a>) 撮影=桂太(フレイム)

「胴裏」はその名の通り、胴部分の裏地です。

「八掛」はかつて「裾まわし地」とも呼ばれ(今でもその呼び名が残っているかもしれません)、前身頃(まえみごろ)、後身頃、衽(おくみ)身頃、衿の、それぞれ2か所──計8か所用に裁断して使うものとして、「八掛」という名前がついています。ただし現在では袖口にも使うようになったため、10枚に裁ちわけています。

「胴裏」は、着物を着用すると表からは見えず、体に巻き付ける部分なので、色は白で、絹の場合はすべりのよい薄手の羽二重地が一般的です。これに対して、八掛は前述の箇所、例えば袖口や裾からわずかにのぞくため、着姿全体の印象に影響を与えます。

フォーマル&セミフォーマルの着物の八掛選び

袷(あわせ)仕立を希望される場合、店頭で表地と一緒に「胴裏」をご購入、またはご自身でご用意いただく必要があります。

一方「八掛」は、振袖や訪問着などの礼装用の着物は表地とセットになっていることがほとんどです。また、色無地や付けさげなどセミフォーマルの着物でも、丸く巻いた反物の最後の部分に、「八掛」が付属して販売されることが増えています。そのため、これらの着物をお仕立てされる際には、「八掛」について特に意識をされていないかもしれません。

表地(左)と、裏地(右)がセットになった色無地。着物85,800円(<a href="https://www.takashimaya.co.jp/" target="_blank">髙島屋</a>) 撮影=桂太(フレイム)
色無地(右)と共色に染めてセットになった八掛(左)。着物107,800円(<a href="https://www.takashimaya.co.jp/" target="_blank">髙島屋</a>) 撮影=桂太(フレイム)

一般的にフォーマル、セミフォーマルなど改まった着物の場合には、“八掛は共色(=表地と同色、または同じような色)が良い”とされています。制作メーカーは表地とともに「八掛」も一緒に染め、色を揃えたものを用意する場合が多いです。

八掛のおしゃれ

礼装以外の場合には、この八掛が「コーディネートや着こなしのおしゃれ」の重要なポイントにもなります。八掛はほんの少し見える程度ですが、動作によって袖口や裾からのぞく色や柄が着姿の印象を左右し、着る方の個性や好みが出るといわれます。

小紋や紬など、気軽なお出掛けやご自身のお楽しみの場面で着用される際の着物は、八掛選びにもこだわり、おしゃれのポイントとされてみてはいかがでしょうか。

ただし表地と違う色を選ばれる際は、裏地の色が表地に影響しないようにご注意ください。八掛にはすべて同じ色に染めた「無地」と、色のある部分と白の部分に染め分けた「ぼかし」があります。もし薄い色の表地に、強い対照色の八掛を選びたい場合は、この「ぼかし」をご注文ください。

着物と同じような色の「ぼかし」の八掛。濃い紫、ピンクに近い薄紫、辛子色の3色。着物308,000円 八掛各16,500円すべて(<a href="https://www.takashimaya.co.jp/" target="_blank">髙島屋</a>) 撮影=桂太(フレイム)
焦げ茶や紫、赤など多彩な先染めの糸を用いて織り上げた紬の着物。濃地の着物には、「無地」の八掛もおすすめです。着物253,000円 八掛15,400円(<a href="https://www.takashimaya.co.jp/" target="_blank">髙島屋</a>) 撮影=桂太(フレイム)

八掛の役割とは?

八掛には、重なり合う生地の裾さばきをよくすることや、例えば裾や袖口のように表地の傷みやすい部分を保護するという役割があります。

また、調べてみると裏地を「おしゃれの一部」として楽しむようになったのは江戸時代からのようです。その理由は定かではありませんが、江戸時代にたびたび出された贅沢禁止の倹約令によって、表地を質素なものにしなければならなかったぶん、見えない裏地に柄を入れたり、色を少しのぞかせて楽しんだりする美意識が生まれたという説もあります。

八掛の色選び

八掛の色選びについては小紋のコラムにも書いていますが、可能であれば、その着物に合わせて締める帯の色を考えながら選ぶのもよいと思います。着物の表地と違う色をと言われても、なかなかとっさにはイメージしにくいかもしれません。帯の地色やメインの柄の色に近づけると、おしゃれにまとめやすくなります。また、ご自身の好みの色が店頭にない場合は、販売員の方と相談され、別染をご注文される方もいらっしゃいます。着物のお仕立てをする際の楽しみのひとつに、この八掛選びを加えてみてください。

ここまでご紹介した裏地のことは、高島屋では販売時に必要な情報をご案内いたしますので、詳しいことをご存じなくても差し支えはございません。

ただ、後々のお仕立て替えの際などに「胴裏」「八掛」という言葉は必ず登場します。知っておかれるときっとお役に立つと思い、お話をさせていただきました。

髙島屋呉服部が答えます

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