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「正直、もう入れる場所ないよね…」それでも断れない。定員オーバーの病棟で、看護師たちがとった“ギリギリの行動”

  • 2026.1.10
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病院で働いていると、「満床」という言葉は、単なる病床数の問題ではなくなります。

それは、「行き場を失った誰かが、これからここに来る」という知らせでもあります。

その現実は、いつも、余裕のないタイミングでやってきます。

「もう無理だ」と思った、その直後に

その日の病棟は、朝から張り詰めていました。

定員超過、ぎりぎりの人員配置、次に何か起きたら回らない。

誰も口には出しませんが、そんな空気が漂っていました。

そこへ、地域連携室からの電話。

「他院では受け入れが難しく、これから救急搬送になります」

受話器を置いたあと、ナースステーションにいた誰かが、ぽつりと言いました。

「…正直、もう入れる場所、ないよね」

それは愚痴でも拒否でもなく、限界を正直に表した言葉でした。

それでも、次に出てきた言葉は決まっています。

「でも、断れないよね」この一言で、全員が動き出しました。

居場所を「作る」しかない現実

救急車が到着するまでのわずかな時間、

私たちは「空き」を探すのではなく、居場所を作る作業に入ります。

「この方、今日一日は部屋移動できそうかな」

「デイルーム、衝立で区切るしかないか」

それぞれが患者さんの顔を思い浮かべながら、

誰かの安心を、誰かの負担にしてしまうかもしれない判断を重ねていきます。

もちろん、この判断が既存の患者さんにとって最善でない可能性も理解しています。

それでも、目の前の助けを求める人を受け入れるため、私たちはその時点での「最善」を選び続けるしかないのです。

「ごめんね、急で申し訳ないんだけど」

そう声をかけながらベッドを動かす手は、決して軽くはありません。

誰かの安心が、誰かの負担の上に成り立つかもしれない。その重さを両手に感じながら、判断を重ねていきます。

救急搬送されてきた患者さんの言葉

救急車で運ばれてきたAさんは、興奮した様子で、到着早々にこう訴えました。

「ここもダメなんだろ!どうせ、また追い出されるんだろ!」

その言葉を聞いた瞬間、胸が詰まりました。

怒りや攻撃性の奥に、何度も拒まれてきた経験が透けて見えたからです。

誰だって、行く先々で「うちは無理です」と言われ続けたら、

安心して助けを求めることなんて、できなくなります。

隔離という選択と、看護師の迷い

患者さんご自身の安全と、他の患者さんやスタッフの安全を確保するため、Aさんは一時的に隔離室(保護室)へご案内することになりました。これは、興奮状態が落ち着くまで安全な環境を提供するための医療的な判断です。

その判断が間違っていないことは、全員わかっています。

それでも、扉の前で誰かが小さく言いました。

「本当は、こんな形で迎えたくなかったよね…」

隔離は、必要な医療行為です。でも同時に、患者さんにとっては拒まれた体験として残る可能性があることも、私たちは知っています。

だからこそ、扉が閉まったあとも、声をかけ続けました。

「ここは、あなたを閉じ込める場所じゃありません」

「落ち着くまで、一緒に安全を守る場所です」

忙しさの中でも、言葉だけは手放さないようにしていました。

余裕のない場所で、人であり続ける

この日の受け入れ対応を振り返ると、

患者さんも、看護師も、誰一人として余裕はありませんでした。

患者さんは、選べない状況の中でここに運ばれてくる。

看護師もまた、限界の中で「今できる最善」を探し続けている。

そこに、上も下もありません。あるのは、同じ医療のひずみの中に置かれた人同士、という現実だけです。

「満床です」と言いながら受け入れたその人は、大変な患者さんではなく、その瞬間、最も助けを必要としていた一人の人でした。それを忘れないこと。

どんなに追い込まれていても、目の前の人を「人」として扱い続けること。それが、この現場で働く私たち看護師にとって、最後まで手放してはいけないものだと思っています。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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