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1,000万円かけたのに…「住宅ローン控除」目当てで“築50年”を買った30代夫婦の末路【不動産のプロは見た】

  • 2026.1.10
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出典元:PIXTA(画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役の不動産会社社長として、日々土地や建物の売却相談に向き合っている岩井です。

家を買うとき、「補助金が使える」「控除が受けられる」と聞くと、少し安心する方は多いのではないでしょうか。とくに住宅ローン控除という言葉には、「あとからお金が戻ってくる」「実質的に安くなる」というイメージを持たれがちです。

しかし、実際に制度は使えても、家計全体で見ると楽になったとは言い切れないケースも決して珍しくありません。

今日は「旧耐震住宅×耐震改修工事×住宅ローン控除」という、一見賢そうに見える選択が結果的に長期的な家計圧迫につながってしまった、30代共働き夫婦のエピソードをご紹介します。

旧耐震でも「制度が使える」と聞いて、気持ちが前に進んだ

今から1年ほど前に相談に来られたのは、30代後半の共働き夫婦Aさんご夫妻でした。お二人はまだ子どもはいませんでしたが「将来の子育てを考えると、広い家と庭が欲しい」「都市部より自然の多い郊外で落ち着いて暮らしたい」という思いから、戸建て購入を検討されていました。

いくつか物件を見ていく中で、候補に挙がったのが、郊外にある築50年ほどの旧耐震基準(1981年6月1日の建築基準法改正以前に定められていた耐震基準)の戸建てです。物件の特徴は、次のようなものでした。

  • 周辺相場と比べて、価格がかなり抑えられている
  • 敷地が広く、家庭菜園も楽しめる庭付き
  • 建物は古いものの、外観や雰囲気は好みに合っている

「リフォームをすれば、かなり良くなりそうですね」

そう話すAさんご夫妻の表情は明るく、“古いけれど、手を入れれば理想に近づく家”として、前向きに捉えている様子が伝わってきました。

「耐震改修すれば、住宅ローン控除も使えますよ」

購入を検討する中で、Aさんご夫妻は金融機関から次のような説明を受けました。

「耐震改修工事(補強工事等で地震に対する安全性を高める工事)を行い、耐震基準適合証明書(建物が現行の耐震基準に適合していることを、建築士などの専門家が証明する書類が取得できれば、『フラット35』が利用できます」

「さらに条件を満たせば、住宅ローン控除(毎年の年末時点の住宅ローン残高に一定の控除率を掛けた金額を所得税などから差し引く制度)の対象にもなります」

フラット35とは、民間金融機関と住宅金融支援機構が提携して提供する、全期間固定金利の住宅ローンです。返済期間中の金利が変わらず、将来の返済額が確定するため、Aさんにとっては不安の少ない選択肢に映りました。

こうした説明を聞くうちに、ご夫妻の中で迷いは次第に薄れていきます。

「耐震性も確保できて、控除も受けられるなら安心ですね」「古い家でも、きちんとお金をかければ問題ないですよね」

ただ、後から振り返るとこの時点では「住宅ローン控除で実際にいくら家計が軽くなるのか」を、具体的に計算していなかったといいます。

制度が使えるなら大きな損にはならないという気持ちが先に立ち、冷静に数字を比較する余裕はほとんどありませんでした。

想定を超えた耐震工事。気づけば工事費は1,000万円

戸建て購入の売買契約を進める中で、耐震改修に向けた詳細な調査と工事内容の検討が始まりました。当初のAさんご夫妻の認識は、「それなりに費用はかかるが、想定の範囲内だろう」というものでした。

ところが、実際に調査と工事内容の検討が進むにつれ、状況は大きく変わっていきます。

  • 基礎部分の補強が必要と判明
  • 耐力壁(地震に耐えるための壁)の追加
  • 柱や梁への金物補強
  • 床や壁を取り除いて確認したことで、これまで見えなかった劣化が発覚

その都度、工事内容は見直され、計画は少しずつ膨らんでいきました。

「ここまで手を入れるなら、中途半端な工事はできないですね」

そんな判断を重ねた結果、耐震改修は想定以上に大がかりな工事になります。最終的にかかった費用は、約1,000万円。当初の想定を大きく超える金額でした。

控除は受けられた。でも、家計は思ったほど楽にならなかった

耐震改修工事の内容と費用が固まり、それを前提に住宅ローンの本審査も無事に承認されました。その後、計画どおり耐震補強工事が完了し、建物が現行の耐震基準を満たしていることが確認されます。無事に耐震基準適合証明書を取得し、住宅ローン控除も適用される状態になりました。

ところが、控除が始まってしばらくすると、ご夫妻の中で違和感が生まれました。

「思ったより、戻ってくる額が少ない」
「1,000万円かけた実感と、控除の金額がまったく釣り合わない…」

住宅ローン控除は、毎年の年末時点の住宅ローン残高に一定の控除率を掛けた金額を所得税などから差し引く制度であり、支払った工事費そのものが戻ってくる仕組みではありません。控除額には上限があり、所得水準や借入額、控除期間によって、実際に感じられる軽減効果は大きく変わります。

一方で、耐震工事費を含めたことで、毎月のローン返済額は当初の想定よりも確実に増えていました。食費や貯蓄の見直しが必要になり、将来の教育費や設備更新といった現実的な不安も、次第に重くのしかかってきます。

比較すべきは「生活への影響」

住宅ローン控除や耐震基準適合証明書が、家計を軽くしてくれる“切り札”になるとは限りません。制度が使えるかどうか以上に大切なのは、次の点を生活目線で冷静に見比べることです。

  • 実際の支出はいくらになるのか
  • 毎月の返済が、日々の暮らしにどんな影響を与えるのか
  • 将来の収入変化や出費増加に耐えられるか

旧耐震住宅は「制度が使えるから安心」「控除があるから大丈夫」と勢いで判断すると、後になって家計にじわじわ効いてくる後悔を抱えやすい選択でもあります。

安心感を得られること自体は、決して悪いことではありません。ただ、その安心が長期的な家計の重荷にならないか。

そこまで一度立ち止まって考えられるかどうかで、結果は大きく変わるのです。



筆者:合同会社ゆう不動産 代表 岩井佑樹

不動産売買の専門家として仲介・査定・買取に携わりながら、不動産Webライターとして1,000記事以上を執筆。「売る力×伝える力」を軸に、情報発信と販売の両面から不動産の価値を高めている。派手さよりも誠実さを大切にし、地域に寄り添う姿勢で「早く・高く・安心」の取引を支える不動産の専門家。