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2025年ドラマで“特に目立った共通点”とは? 視聴者に“大切なテーマ”を訴えかけた【秀作3選】

  • 2025.12.9

2025年も残り1カ月。今年もテレビドラマには大いに楽しませてもらった。笑いを引き出し、涙を誘う作品はもちろん、自分自身の人生を省みるきっかけを与えてくれる作品が多かったように思う。とくに今年は、異なる立場の人々が連帯して社会を生き抜く姿や、大人が夢を見ることの尊さと厳しさを描いた作品が印象的だった。生きづらさと夢。誰もが頭を掠めるマイナスとプラスの感情を直接揺さぶった秀作を振り返っていきたい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

対岸で困っている人に手を差し伸べる『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』

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多部未華子 (C)SANKEI

4月クールで放送された『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(以下、対岸の家事)は、連帯を描いたドラマとして外せないだろう。原作は、朱野帰子の『対岸の家事』だ。

本作は、専業主婦の村上詩穂(多部未華子)を主人公に、2児の働くママ・長野礼子(江口のりこ)、育休中のエリート官僚・中谷達也(ディーン・フジオカ)など、それぞれの立場と価値観のもと、子育てに奮闘する親たちを描いた物語だ。はじめ、専業主婦の詩穂は、礼子や中谷から「専業主婦なんて」と侮蔑的な視線をぶつけられるが、詩穂は違う立場のふたりに寄り添い、共に助け合っていく。

特筆すべきは、彼女たちが互いの事情をすべて理解しているわけではないにもかかわらず、協力し合っている点だ。詩穂と中谷が親に対して抱えるわだかまり、礼子の会社での悩みなどに関して、3人は互いに理解しあっているわけではないにも関わらず、助け合うことを選択できた。違う立場や価値観の人に対して、「あの人とは違う」「私の悩みを分かってもらえるわけない」と諦める方が簡単だ。しかし、それではいつの間にか自分が限界を迎えていたり、すぐ隣の家で限界を迎えている誰かが生まれてしまうかもしれない。そうならないために境遇を越えて、助けを求めること、助けを求める声を聞くことの重要性を『対岸の家事』は伝えてくれた。

また本作は、なにも子育て世代のためのドラマではない。子どもができないことに悩む若妻や急に親の介護が必要になったキャリアウーマン、家庭を持たずに仕事をしてきた女性管理職などの立場も描いている。そして、それぞれのなかにある心のわだかまりを詩穂や礼子が解いていく姿も描かれていた。男/女、既婚/未婚、子どもがいる/いない、育児/介護という枠組みを越えて、手を差し伸べ、差し伸べられた手を取ることの大切さを、『対岸の家事』は描いてくれた。

現在の境遇に悩み、この世界にひとりぼっちだと感じている人がいたら、ぜひ見て欲しいドラマだ。

高校生に夢の見方を教える大人たち『ちはやふるーめぐりー』

近年、大人が夢を見ることを描いたドラマが増えつつある。『宙わたる教室』や『いつか、無重力の宙で』など、宇宙を題材にしたものから、10月クールでは『ザ・ロイヤルファミリー』など、動物に夢をかけるドラマも放送されている。

なかでも『ちはやふるーめぐりー』は、大人が見る夢と高校生の青春を重ねて描いた名作だった。映画『ちはやふる』の世界から10年後を舞台に、「青春は贅沢品だ」と諦念を持った主人公・藍沢めぐる(當真あみ)が、競技かるたを通して仲間と出会い、かけがえのない時間を過ごしていく物語だ。

映画『ちはやふる』シリーズのカウンターとして、『ちはやふるーめぐりー』は存在しているといってもいいかもしれない。映画『ちはやふる』の主人公・綾瀬千早(広瀬すず)は、めぐるとは真逆だった。誰よりも競技かるたを愛し、競技かるたを通して夢見ることを楽しみ、一直線に進むヒロインだった。『ちはやふるーめぐりー』では、受け身のヒロインであるめぐるが競技かるたを通して変わっていく姿が描かれることで、夢見ることの価値がより浮き彫りになっている。

高校生の青春を中心にしながらも、本作は映画『ちはやふる』シリーズの脇役であった大江奏(上白石萌音)の人生を通して大人が夢を見ることの尊さと現実を描いている。奏の高校生の頃の夢は、「専任読手になって、千早のクイーン戦で読手をすること」。しかし、それは10年後の世界では達成されておらず、研究者になることもできずに古文の非常勤講師として働いていた。そんな奏が青春を見ることを諦めているめぐるに出会い、彼女が青春に希望を見出せるようにともう一度、夢に向かって一歩を踏み出す。

「もう大人だから」「難しいし、時間もかかるから」と夢を諦めるのは簡単だ。ただ、動き出さない限り、叶わなかった夢は一生心の中に留まりつづけ、次の夢を見ることもできない。なにより、諦めてしまった自分を認められないままだ。本作が描いた奏の夢への道のりは大人になっても、いつからでも夢を見られることを教えてくれた。

奏のトリガーは、青春を諦めて閉じこもっていためぐるの存在だった。『ちはやふるーめぐりー』が描いた奏の人生が、夢を見る誰かにとってのきっかけになることを願ってやまない。

長年培われた構造にあらがう『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

『対岸の家事』と同じく、連帯を描きながらも社会構造の影響と個人のアップデートに焦点を当てたのが、10月クールで放送中の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』だ。谷口菜津子の同名漫画を原作に、オリジナル要素もふんだんに盛り込み、丁寧にドラマが紡がれている。

本作は、亭主関白思考の海老原勝男(竹内涼真)が、最愛の彼女・山岸鮎美(夏帆)にプロポーズを断られることから始まる物語。勝男は鮎美に振られたことをきっかけに、はじめて料理に取り組み始める。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』というタイトルではあるものの、料理はひとつのきっかけにすぎない。勝男は、料理の難しさに直面したことで、鮎美が提供してくれていた家事の価値、自分が持っていた女性とはこうあるべきという思い込み、自分を縛っていた男らしさに気づいていく。勝男がさまざまな面でアップデートしていく姿が描かれている。

一方で、勝男を振った鮎美のなかにも、固執する女の幸せの形、男にはこうあってほしいという願望があった。鮎美も、勝男からは若干の遅れを取りながら、自分らしさと相手らしさとは何かに向き合い強くなっていく。鮎美の成長物語でもあるのだ。

この作品が特徴的なのは、個人の問題として片づけず、その背景にある社会構造の影響を丁寧に描いている点だ。勝男が亭主関白気質になったのは実家の父と母のコミュニケーションに起因すること、鮎美がハイスペック彼氏を求めていたのは、父と母の夫婦関係に起因することがはっきりと描かれている。そして、勝男と鮎美の親の性質の奥には、祖父祖母からの影響があることも物語の中で示唆されていた。無意識に持ってしまっている男らしさ、女らしさ、父らしさ、母らしさは、個人が作り出したものではなく、社会構造が作り出したものといえる。

勝男と鮎美が自分らしさを手に入れようともがく姿は、長年培われた社会構造へのあらがいなのだ。男VS女とはせずに、男女VS社会構造として問題の本質を見つめようとしているドラマだと言える。そして、本作ではその問題を解決するために、何度も対話が描かれる。

「男だから」、「女だから」、「この年齢だから」と、属性によって生き方やらしさを決めつけるのではなく、個人として対話をして分かり合うことの大切さを語りかけてくれる。もし自分を縛る“らしさ”があるのなら、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』に、社会が勝手に決めた“らしさ”を放棄する勇気をもらってほしい。

生きる希望をもらえるドラマが多かった2025年。2026年はドラマを通してどんな価値観に触れられるのだろうか。


ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202