1. トップ
  2. 「3人全員の代表作」「せめて続編を」NHK夜ドラ最終話、俳優たち“存在そのもの”が作り上げた“癒しの名作”

「3人全員の代表作」「せめて続編を」NHK夜ドラ最終話、俳優たち“存在そのもの”が作り上げた“癒しの名作”

  • 2025.12.8

NHK夜ドラ『ひらやすみ』が最終回を迎えた。東京・阿佐ヶ谷の平屋を舞台に、29歳のフリーター・ヒロトとその周囲の人々が紡ぐ、静かであたたかな日常。その暮らしに流れるやわらかな時間と、人との距離感に癒された視聴者も多いはずだ。SNS上でも「癒しだった」「この関係性羨ましい」「3人全員の代表作」「終わらないで、せめて続編を」と好評だった作品世界を支えたのは、三人の俳優たちの“存在そのもの”の力。岡山天音、森七菜、吉村界人、それぞれが体現した、誰かと暮らすこと、一人でいること、そのどちらも肯定する“自由な生き方”とは。

※以下本文には放送内容が含まれます。

日常の尊さを描く、静かな余韻のドラマ

『ひらやすみ』は、“なんでもない日々”を真正面から描いた作品だった。舞台となるのは、生田ヒロト(岡山天音)が近所に暮らしていたばーちゃんことはなえ(根岸季衣)から譲り受けた東京・阿佐ヶ谷の平屋。そこには、都会の喧騒とは距離を置いた、ゆったりとした時間の流れがある。物語は、日常に根付いた静かな出来事を土台に進行していく。

undefined
夜ドラ『ひらやすみ』第5週(C)NHK

最終回で描かれたのも、まさにそんなささやかな出来事だった。ヒロトのいとこ・小林なつみ(森七菜)の実家から届いた大量の里芋をきっかけに、ヒロトたちは芋煮会を企画。集まるのは、いつもの顔ぶれだ。みんなで鍋を囲む、その穏やかな光景は、誰かにとっては特別な日常であり、また同時に、誰にでも訪れうる普通の時間でもある。

ヒロトが偶然見つけた、はなえの遺した白い紫陽花の押し花。それは、かつて彼が見舞いに贈った花だった。

undefined
夜ドラ『ひらやすみ』第5週(C)NHK

一人でいることに寂しさを感じながらも、誰かの優しさをちゃんと覚えている。そんなはなえの人生が、この平屋の“記憶”として、いまも残っているように感じられる。このドラマの魅力は、まさにそうした“静かに沁みてくる余韻”にある。

三人の俳優が体現した“やわらかな関係性”

このドラマの空気感をつくり上げたのは、言うまでもなく三人の俳優の力だ。

ヒロトを演じた岡山天音は、日々に漂う空気ごと役に染み込ませる稀有な存在だ。彼の“お気楽な自由人”としての空気を、飾らず、まっすぐに体現する。時折見せる柔らかな眼差しには、過去の経験からくる翳りがそっとにじみ、セリフ以上に雄弁に語りかけてくる。

誰かと関わることを恐れず、ただそばにいることの価値を信じている。そんなヒロトの在り方は、現代を生きる視聴者に静かな憧れを抱かせた。

undefined
夜ドラ『ひらやすみ』第5週(C)NHK

なつみを演じた森七菜もまた、年齢相応の迷いや衝動を瑞々しく表現した。美大生として、ひとりの女性として、不器用ながらも必死にいまを生きる姿が愛おしい。年の離れたヒロトとの関係性は、単なる家族でも友人でもない、絶妙な距離感で描かれた。その関係性の“温度”を丁寧に紡いだ彼女の演技は、作品の核となる空気を支えていた。

そして、ヒロトの高校時代からの親友・ヒデキ役の吉村界人。彼が演じるのは、ヒロトとは正反対に“世間の常識”に生きる人物だ。

仕事や結婚生活に悩み、格好つけながらもどこか不器用。それでも彼は、ヒロトと向き合い、自分を見つめ直すことで、一歩ずつ変わっていく。見栄と誠実さの間で揺れる心を、吉村はエネルギーに満ちた眼差しとチャーミングな台詞回しで表現し、物語に厚みを加えた。

“来なかった人”が教えてくれる、孤独の肯定

密かに最終回の鍵を握っていたのは、芋煮会に“登場しなかった”人物だ。ヒロトの顔馴染みである立花よもぎ(吉岡里帆)は、芋煮会に誘われるものの“予定がある”と断ってしまう。実際には自宅のソファに寝転びながら、「行ってたら、どうなってたかな」とつぶやく。

undefined
夜ドラ『ひらやすみ』第5週(C)NHK

この何気ないひと言は、彼女の孤独を描くと同時に、孤独を選ぶ自由をも示唆する。誰かと過ごす幸せと、ひとりでいる穏やかさ。どちらを選んでもいいし、揺れ動いてもいい。よもぎの姿は、かつて平屋にひとりで暮らしていたはなえとも重なって見える。

『ひらやすみ』は、人が誰かと繋がることの喜びを描く一方で、“ひとりでいること”も否定しない。その両方に価値があると、静かに伝えてくれる。だからこそ、視聴者はこの物語に、自分自身を重ねることができたのだろう。

登場人物たちは、これからもきっと、それぞれのペースで暮らしていく。その余白を残してくれたからこそ、視聴者も“もうひとつの自分の居場所”のように感じられたのだろう。

『ひらやすみ』がくれたのは、喧騒に疲れた心を受け入れてくれる場所だった。誰かと一緒に生きてもいい。ひとりで静かに過ごしてもいい。そんな柔らかな肯定を、またどこかで思い出せるように。続編が期待されるのも納得の、癒しの名作だった。


NHK夜ドラ『ひらやすみ』毎週月曜~木曜よる10時45分放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_