朝ドラで視聴者が“悲鳴を上げた”一つの事実「ある意味ホラー」「鳥肌立った」ヒロインの家族に翻弄される“哀れな婿養子”

朝ドラ『ばけばけ』第13週「サンポ、シマショウカ。」では、ヒロイン・トキ（髙石あかり）と異国の教師・ヘブン（トミー・バストウ）との間に流れる、届かぬ思いが描かれた。一方、元夫・銀二郎（寛一郎）が松江に戻り、トキの現在と過去が静かに融合する。舞台は月照寺の大亀伝説へ。怪談の語りにすべてが託されたとき、言葉を超えて交わされる視線の複雑さに、視聴者は息を呑んだ。すれ違う感情のゆくえを追う一週間だった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

怪談に隠された問いと戸惑い

今週も夜な夜な、トキはヘブンに怪談を語る。しかし、その語りの時間がいつまで続くのか、彼女は密かに不安を抱いている。トキが語り聞かせる怪談の数々によって、ヘブンの日本滞在記が完成してしまったら……彼は松江を去ってしまうかもしれないのだ。

帰ってしまうのか、それとなくヘブンへ聞いてみるトキ。しかしヘブンは、わざと日本語がわからないフリをする。言葉の壁ではなく、気持ちの壁が意識された。有り体に言ってしまえば、ヘブンは逃げたのだ。

思い返せばヘブンの机の上からは、彼の心の支えであろう女性・イライザ（シャーロット・ケイト・フォックス）の写真が見えなくなっている。言葉にしなくても、誰かを想うときの空気が変わる……その繊細な変化を、画面は静かに映し出していた。

一方で、トキが元夫である銀二郎と会うための休みを申し出ると、ヘブンはその理由を問う。そして、トキの曖昧な返事に「ホリュウ（保留）」と応じた後、イライザを松江に呼び寄せるのだ。偶然か、意図的か。ヘブンは、トキと銀二郎が再会する日に、自らもイライザと会う段取りをしていたのだ。

これは、嫉妬なのか。そうでなくとも確実に、何かが芽生え始めている。その未熟な感情が言葉にならず、すれ違い続けるふたりの時間に、もどかしさが滲む。

再会と“まだ夫”という衝撃

4年の歳月を経て、銀二郎が松江に帰ってきたこと自体が、振り返れば衝撃だ。あらかじめトキに手紙を送り、戻ってくることを伝えていた彼は、松野家を訪れ、深く頭を下げる。トキと別れたあとに会社を起こし、月200円を稼ぐ社長となっていた銀二郎。その告白に、司之介（岡部たかし）たち家族は驚愕する。

しかし、それ以上に驚かされたのが、銀二郎が“まだ松野家の籍にある”という事実だった。この、ある意味一番のホラーとも考えられるサプライズに、SNS上でも「ある意味ホラー」「鳥肌立った」「どうして？」といった声が相次いだ。

松江での“サンポ”を通じて、トキと銀二郎は4年の空白を埋めるかのように語り合う。しかしそこで、彼らは現在に直面する。偶然にも、ヘブン、イライザ、錦織（吉沢亮）と鉢合わせてしまうのだ。

語りがつなぐ、選べない心

寺の境内。怪談の話題をきっかけに、ヘブンはトキに大亀にまつわる怪談をせがむ。トキの語りを毎晩のように聞いていたことを知った銀二郎は、静かに驚いていた。そして、ヘブンは通訳しようとする錦織を制し、トキ自身の言葉で語られなければならないとして、日本語のまま話を聞くことを望む。

このとき、トキが醸し出す語りの魔力が、場を支配する。トキとヘブンの世界に、銀二郎、イライザ、錦織は入り込めない。誰もがその気配を察し、静かにその場を離れる。ヘブンの真剣なまなざし。トキの、どこか厳かさを帯びた語り口。怪談とは、過去と現在、心と心を結ぶ橋なのだと、あらためて痛感させられる場面だった。

外で語られるのは、イライザによるヘブンの人柄。彼は、好きなものには抑制が効かない。だからこそ、あの集中力と文才なのだ。でも臆病で、人を好きになれない。そんな言葉に、錦織も、銀二郎も黙るしかない。イライザが松江まで来たのも、そんな彼に“自分の気持ち”を気づかせるためだったのだ、と仄めかされる。

物語は、過去と現在、そしてまだ言葉にならない感情が交錯する、ひとつの臨界点に差しかかった。銀二郎はトキに「やり直したい」と申し出るが、もうそこには、かつてと同じ時間は流れていない。

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連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE（新NHKプラス）同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター：北村有（Kitamura Yuu）
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X：@yuu_uu_