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外食より豪華なメインディッシュ5人分で950円…元水産庁職員が考案「フライパンから飛び出る魚の正体」

  • 2025.10.29

物価高の影響で魚介類を食卓に出すコストは上昇している。元水産庁職員の上田勝彦さんは「独特の臭みがあったり調理が難しいといった魚は敬遠されるが、工夫次第でおいしく食べられるものも多い。人気魚種と比べると価格もお手ごろだ」という。ライターの大宮さんが取材した――。

年間100万トンの新鮮な魚介類が廃棄されている

未利用魚、という言葉を聞いたことがある人は少なくないと思う。その魚を美味しく調理して食べている地域もあるので正確には「低利用魚」と言うべきだが、漁獲や流通の過程で「売りにくい魚」として廃棄されてしまうケースが少なくない。

FAO(国際連合食糧農業機関)が2020年に出した報告書では、世界の大半の地域では全漁獲量の約30~35%が廃棄されている。日本の漁獲量で換算すると、およそ100万トンもの食べられる魚介類が活用されずに捨てられている計算になる。

引きずられて弱った魚が海に戻される…

愛知県の三河湾沿いに住んでいる筆者は毎年、底引き網漁の船に乗せてもらっている。鉄製の枠が付いた大きな網を海に落としてしばらく引きずると、狙いのワタリガニやエビ類、貝類が網の中に入る。同時に、海底に棲む小魚もたくさん獲れる。

メゴチ、ハゼ、キス、カレイ……。どれもさばいて調理すれば美味しいのだけど、数とサイズが揃わないと売りにくいのだろう。海に戻されがちだ。しかし、引きずられて弱ったり死んでしまっていることが多い。戻すというよりも捨てるという感覚になる。

岩場に棲む雑食性の魚であるタカノハダイ
岩場に棲む雑食性の魚であるタカノハダイ。漁場や食べている餌、鮮度によっては強く臭うことがあり、市場では不人気。いわゆる低利用魚だ

漁師が悪いのではない。せっかくの海の恵みはすべて丸ごと味わうという姿勢と知識が消費者にあれば、漁師はちゃんと寄り分けて港に持ち帰ってくれる。

ちなみに筆者はご近所20世帯ぐらいに声をかけて協同購入の仕組みを作っている。地元の漁師や仲買人から低利用魚を中心に多めに仕入れて、さばき、分配するのは筆者の役割。ご近所付き合いと魚さばきが趣味なので毎回楽しいし、仕入れの半量は我が家が無料で食べられる値付け(仕入れ価格の2倍。それでも十分安いが)で分配するので経済的なメリットもある。魚市場通いや釣りが好きな人には真似できる仕組みだと思うので、ぜひ参考にしてほしい。

鮮魚店でもなかなか見られない低利用魚

三河湾の小型定置網でもときどき獲れる低利用魚がタカノハダイだ。鱗が硬くて除去しづらいだけでなく、独特の匂いがある。漁師が売り先に困っているので筆者は積極的に仕入れるようにしているが、正直言って他の人には勧めにくい魚種の1つだった。

「磯に棲んでいるタカノハダイは漁場によっては内臓が強く臭うことがあります。でも、うちの店が仕入れている鹿児島県産のものは臭みではなく、磯の爽やかな香りがします。透明感がある身は歯応えも良くてお刺身にもおすすめです」

鎌倉にある鮮魚店「サカナヤマルカマ(以下、マルカマ)」の店頭でこの魚を解説してくれるのは企画・広報を担う狩野真実さん。マルカマは鹿児島県阿久根市の仲買人も理事に名を連ねている「協同販売所」であり、多様な魚種が水揚げされる阿久根港から空輸にて仕入れている。鮮度が良くて適切な下処理をしている割には1キロほどあるタカノハダイが1900円とは安い。同じサイズの人気魚種ならば4000円はするだろう。

香りと旨味が詰まっている皮を炙って刺身に

「臭みと香りは紙一重。匂いが強い魚を香り良く味わうには、まずは鮮度が欠かせない。次に、血抜きなどの徹底した下処理。そして、香りを損なわずに美味しくするための調理技術が必要だね」

タカノハダイの扱い方を教えてくれるのは、元水産庁職員でマルカマのアドバイザーを務めている上田勝彦さん。特に香りとうまみが詰まっているのが皮なので、刺身では皮ありと皮なしの両方を比較することを勧めてくれた。

「半身を刺身にするならば、肉が薄い腹側は皮を引く。肉が厚い背側のほうは皮を付けたまま焼き切りにしよう。肉と皮のバランスが大事なので、部位ごとでこういう使い分けをする」

自分で開発した「魚さばき手袋」(マルカマで販売中)をはめてタカノハダイの鱗を除去している筆者。笑っちゃうほど取りづらい
自分で開発した「魚さばき手袋」(マルカマで販売中)をはめてタカノハダイの鱗を除去している筆者。安全かつ効率的に作業できます

焼き切り、つまり炙りについては上田さんの著書『ウエカツの目からウロコの魚料理』(東京書籍)に詳しい。ここでは簡略化して引用する。なお、バーナーは不要だ。100円ショップで鉄の串を買ってくればガスコンロで炙ることができる。


1.皮つきの身と皮の間に数本の串を打ち、皮側に塩を振って直火で炙る。皮側は20秒ほど、身側は3秒ほど。皮の縁に焼き色がつくくらいが目安。焼きが足りないと皮が固くて口に残る。
2.炙った身をキッチンペーパーで包み、冷蔵庫で1時間ほど冷やす(水っぽくなるので氷水には浸けないこと)。
3.冷やした身を1センチほどの幅に切り、細切りにした大葉を散らし、カイワレを添える。

水を使わないスピード煮つけ

刺身で半身を味わったら、残りの半身は温かく食べたい。狩野さんによれば、タカノハダイの分厚い皮は加熱するとブリンブリンの食感を楽しめるらしい。ただし、焼いた皮は冷えると固くなるので塩焼きは避けたい。そういえば、焼き切りも1センチ幅にして食べやすくしたな。上田さん、残り半身はどうします?

「頭付きで煮つけにしよう。短時間で味がしみて失敗しないスピード煮つけ「早煮」だよ。調味料の分量がわからないとか、煮あがりがわからないといった理由で魚の煮つけを敬遠する人もこれなら大丈夫、失敗しない」

煮汁の甘辛さの好みは人それぞれなので、砂糖・醤油・みりんの分量は自分の舌で確かめながら加えるのが上田さん流。調味料を加える順番とその都度の味見が大切だという。タカノハダイ以外の魚にも広く使えるのでこの機会に覚えてほしい。


1.魚の表面に格子状に、骨に到達する深さで切れ込みを入れ、火が通りやすくしておく。
2.蓋つきフライパンに魚を入れ、魚の半分程度まで酒を注ぐ。
3.魚をいったん取り出し、砂糖を加えて甘さを決め、中火にかけて沸いたら魚を入れ、蓋をする。そのまま切れ込みが大きく開き、目が白くなるまで蒸す。煮る前に蒸すのがこの煮方のポイント。ゴボウを添えたい場合は、縦半分に割って5センチ幅に切って魚と一緒に入れるとよい。
4.魚に火が通ったら、煮汁に少しずつ醤油を入れて塩味を決め、みりんを少し加えて好みの甘辛さに調える。タカノハダイは香りが強い魚なので濃いめの味付けがおすすめ。
5.蓋をはずしたまま、軽くわく程度まで火を弱め、お玉で煮汁を魚に3分間かけ続ける。
6.火を止めて、さらに1分間煮汁をかけ続け、魚の表面に照りが出たら完成。

「火を弱めたり止めたりしてから煮汁をかける理由を知っているかな? 食材は加熱しているときに細胞が膨らみ、温度が下がるときにしぼむ。しぼむときに煮汁を身の中に引きずり込むんだ。だから、酒蒸しで魚の身をふっくらさせてから火を弱めて煮汁をかけてやると、煮汁に魚が浸かっていなくても冷める過程で味が浸み込んでいくというわけだ」

あくまで理詰めで教えてくれる上田さん。酒と砂糖は加熱前、醤油とみりんは加熱後に入れるのにも意味がある。酒・水・砂糖は食材の細胞を緩める機能があり、塩・醤油・味噌・酢・みりんは細胞を締める機能があるからだ。最初に酒と砂糖で魚の細胞を緩めて加熱しておくと、その後で締める調味料を加えても身がかたくならず、味が入りやすいのだ。

強い香りを大葉が調和してくれる

マルカマで教えてもらったタカノハダイの刺身と煮つけを実践したのは、千葉県浦安市に住む叔母宅。半年ほど前に、アジとマダイをそれぞれ持ち込んで食べてもらった。

叔母宅でタカノハダイを炙り中
叔母宅でタカノハダイを炙り中。鉄の串はあと2本ぐらい打ったほうが炙りやすいと後から気づく(撮影=筆者叔母)

アラフォーの従妹も含めて好奇心旺盛な人たちなので聞き慣れない低利用魚も喜んで迎えてくれるだろう。地方公務員だった叔母の元同僚夫妻にも来てもらった。ちなみに奥さんのほうは現役の公務員だ。

「私がずっと主夫をしています。車の運転だけは苦手なので妻に任せていますけど」
「何言ってんの! お父さんも外で働いていた頃は料理以外の家事は私もやっていましたよ」

人前で夫婦喧嘩をできるあたりが仲良しの証拠だと思う。昔から料理担当だという旦那さんはタカノハダイの焼き切りに衝撃を受けたようだ。

「初めての味です! 魚だけだと香りも脂も強すぎるので、大葉と一緒に食べるというアイデアはすごくいいですね」

一方の奥さんのほうは皮を引いた刺身を気に入ったようだ。

「私は火が入っていないほうが好きです。コリッとした歯ごたえがいい!」

叔母と従妹も含めて「臭い」という感想は誰からも聞かれなかった。よく締まって歯応えがある身質なので、薄造りにして正解だった。

タカノハダイの焼き切りと刺身
タカノハダイの焼き切りと刺身。コリコリの食感、旨味と脂、ほのかな香り。どれをとっても一級品
味と香りとネットリ食感を堪能できる煮つけ

そして、メインディッシュの煮つけ。こちらはパサパサ食感が苦手な叔母と従妹にヒットしたようだ。

タカノハダイの煮つけ
タカノハダイの煮つけ。フライパンに収まらないほどの大きさだ。これで半身なので950円分。5人で楽しめるメインディッシュになった(撮影=筆者従妹)

「身がすごくネットリしていますね。うまい~。煮崩れしていないのに、箸を入れるとホロッと取れる! 生姜を使っていないのに臭みがないのもすごいですね」

さすが我が従妹。いい指摘だな。鮮度が落ちた魚を煮つける場合は臭みを隠すために生姜が必要だけど、このタカノハダイは刺身でも十分食べられる鮮度だし、内臓も血もキレイに除去してある。魚の味と香りを堪能してほしいので、生姜はむしろ邪魔なのだ。

タカノハダイを叔母の家で料理して食べながら、上田さんの口癖である「魚に貴賎なし」を再認識した。人気魚種ばかりに目を向けていると損をする。その周りに、膨大な数の美味しい魚たちが泳いでいるのだ。それらを買って、適切な下処理と料理で味わうことこそお得の道である。

大宮 冬洋(おおみや・とうよう)
フリーライター
1976年埼玉県所沢市生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。著書に『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せの見つけ方~』(講談社+α新書)などがある。2012年より愛知県蒲郡市に在住。趣味は魚さばきとご近所付き合い。

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