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寿命は50歳までの7つの習慣で決まる…ハーバード大学が87年追跡してわかった「長生きできる人の条件」

  • 2025.10.29

老後を健康に過ごすには、どうすればいいのか。スタンフォード大学心理学部のローラ・L・カーステンセン教授は「遺伝子は病気になるリスクを示すが、寿命までは決めていない。健康な体でいられるかどうかは自身の選択や行動によるところが大きく、注目したい研究がいくつかある」という――。(第3回)

※本稿は、ローラ・L・カーステンセン(著)、米田隆(監修)、二木夢子(訳)『スタンフォード式 よりよき人生の科学』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

屋外で走っているシニア夫婦
※写真はイメージです
“若いときの生活習慣”が老後を苦しめる

人は、危険な行動の結果としての死を軽視しがちだ。死ねば少なくとも苦しみは終わるからだ。でも、生活の質(QOL)の観点から重要なのは、死の瞬間、つまりあの世にたどり着いた瞬間ではない。永遠という空港に着陸する前に、どれくらいの時間を空港の上空で旋回して過ごすかということだ。

そう考えると、食習慣の乱れと運動不足で肥満になったときの最も有害な影響は、心筋梗塞による突然死ではなく、数十年にわたる疲労感、呼吸困難、糖尿病や関節炎による身体の不自由なのかもしれない。

飲酒運転のような危険な行為は、死にいたる危険があるのはもちろん、麻痺や慢性の痛みにもつながる。不健康な習慣の副作用のなかでそれほど重大でないものも、長年のあいだに積み重なり、80歳台、90歳台になってから悩まされることもある。タバコの吸いすぎで50年も咳に悩まされることを想像してみてほしい。

それでも、長生きしやすくなる習慣を身につけることは、きわめて不明確な報酬のためにずいぶん多くの努力を要するように感じられるかもしれない。というのも、長寿に関心のある人は大量の指示を浴びせられ、しかもそれぞれが矛盾していたりするからだ。

“50歳までの選択”が老後を左右する

脂質を避ける(ただしオメガ3脂肪酸は除く)。赤ワインを飲む(ただし飲みすぎない)。昔はビタミンDのカプセルの摂取を勧められた(でもいまは過剰摂取が問題になっている)。そのうえ、取り入れるべき習慣を数限りなく勧められる。ヨガ、瞑想、脳を鍛えるトレーニング(脳トレ)、全粒粉への切り替え、抗酸化作用の高い食べ物の摂取……。すべて名案だ。こうした対策があなたの幸せにどれだけ影響を及ぼすかは、すぐに実感できる。だが、それで本当に寿命が延びるかどうかは、どうやってわかるのだろうか。

それについては、あまり深く考えすぎないほうがいいのかもしれない。研究によると、長寿に大きな影響を及ぼしているのはごく限られた要素であり、それらはみな常識的なことだという。

ハーバード大学では、1930年代から現在まで、同大学の卒業生とボストン市中心部で生まれた人の生涯にわたる健康状態を追跡調査している。その研究によると、長寿は生活習慣上の7つの選択に左右され、50歳までの選択が70歳以降の健康を予測するための優れた手がかりになるという。その選択は、①禁煙、②アルコールを乱用しないこと、③定期的な運動、④体重のコントロール、⑤安定した結婚生活、⑥教育、そして⑦人生のトラブルに見舞われたときの優れた対処メカニズムである。

酒類、タバコ
※写真はイメージです
「運動」「禁煙」「適量な飲酒」「地中海式の食生活」が死亡率を減らす

しかし、50歳を過ぎてから失敗を挽回したいと考えた場合でも決して遅すぎるわけではないと、研究を主宰するジョージ・E・ヴァイランは述べる。

「被験者のなかには、エリザベス・テイラーのように結婚と離婚を繰り返して50歳まできたにもかかわらず、テイラーとは違って晩年に伴侶を見つけ、それ以降は幸せに暮らしている人が何人もいます。それに、肥満について言うと、やせるのに遅すぎることはありません」。50歳を過ぎてから飲酒をやめた人については、それまでに肝臓や脳に取り返しのつかないダメージを負ってさえいなければ、「5年もたてば新品同様の暮らしになっています」と彼は笑顔で言う。

ハーバード大学の研究では、生まれたときの社会階層といった個人のコントロールが及ばない要素も、晩年における健康に影響を与えるという結果が出ている。しかし、70歳以降になるとそうした要素の効果が薄れてきて、長生きできるかどうかは健康上の習慣に左右される面が大きくなるという。

近年の別の研究(Knoops, K. T. B., de Groot, L. C. P. G., Kromhout, D., Perrin, A., Moreiras-Varela, O., Menotti, A., et al. (2004). Mediterranean diet, lifestyle factors, and 10-year mortality in elderly European men and women. Journal of the American Medical Association, 292(12), 1433-1439.)では、70歳を過ぎると、①運動すること、②喫煙しないこと、③アルコールを適量に抑えること、④果物・野菜・オリーブオイルといった健康的な油を豊富にとる地中海式の食生活を実践することという4つの習慣が、今後10年のあいだになんらかの原因で命を落とす可能性を60%も減らすという。

カプレーゼ
※写真はイメージです
遺伝子はすべてを決めていない

こうした研究は、ゲノム時代における大きな誘惑の1つ──つまり寿命をはじめとする私たちの健康の行く末は、受胎の段階でDNAに組み込まれていると信じること──に真っ向から反する。いくつかの限られた性質については、完全に遺伝子で決まるのは事実だ。たとえば、瞳の色や性別は遺伝子で決まる。ハンチントン病のように、完全に遺伝性の病気もある。また、家族の病歴が、心臓病、糖尿病、一部のがんのような重大な健康上のリスクを示す場合もある。これらはすべて、寿命を縮める要因だ。

でも、特定の素因があるからといって、将来の予測ができるわけではない。双生児を対象としたさまざまな研究によって、誕生日と親、そして一卵性双生児の場合はDNAまでまったく同じでも、健康と老化の道筋が異なることがはっきりわかっている。

キングス・カレッジ・ロンドンで最近行われた研究によると、双生児のうちの1人が定期的に運動していて、もう1人が運動していなかった場合、老化の状態が細胞レベルではっきりと違ったという。この研究では、双生児の「テロメア」の長さを比較することで違いを測定した。

テロメアとは、染色体の末端を保護する役割を備えた物質で、信頼性の高い老化の生物学的指標(バイオマーカー)とみなされている。テロメアは時間の経過にともなって劣化するため、細胞の遺伝子が損傷してがんなどの病気が誘発される恐れがある。しかし、双生児のうち運動習慣のある人は、あまり動かないきょうだいと比較してテロメアが長く、場合によっては9年分の老化に相当するほどの差があったという。

病気になるかどうかは環境が影響する

では、病気のリスクについてはどうだろうか。遺伝性の病気の例として、最も一般的な認知症であるアルツハイマー病を取り上げよう。ノルウェーでは、数十年にわたって、双生児に関する情報を登録・保管してきた。その記録を使って、遺伝子の構成がまったく同じ2人の人物の健康状態を念入りに追うことができる。

追跡された事例の79%では、双生児の一方がアルツハイマー病を発症すると、もう一方も発症した。そう聞くと、家族の誰かにアルツハイマー病の人がいたら自動的に自分の命運も尽きたと思うかもしれない。しかし、DNAが完全に同一である一卵性双生児は、ほかの家族よりはるかに近い遺伝子的関係がある。

両親とは半分、祖父母とは4分の1しかDNAが共通していない。きょうだいは約半分、いとこは8分の1ほど共通している。ここで思い出してほしい。遺伝子がまったく同一でも、21%の事例ではもう1人の双生児はアルツハイマー病にならなかった。それは、環境という別の要素が影響しているからだ。

「食生活」「ストレス」「化学薬品」「行動」が引き金になる

遺伝子は何もないところで発現するわけではなく、体内環境からヒントを受け取って発現する。身体的な環境だけではなく、食生活、ストレス、化学薬品にさらされること、行動なども含まれる。たとえまったく同じDNAを備えていても、一生のあいだにまったく同じように消耗する身体は2つとない。突然変異、ウイルスや毒素にさらされること、炎症を引き起こすような外傷はすべて、ある家族にとっては潜在的な可能性にすぎない結果を、もう一方の家族の1人に引き起こす可能性がある。

疲れたビジネスマン
※写真はイメージです

行動面でも、遺伝子の発現は環境によって変わる。教科書的な典型例の1つに、フェニルケトン尿症(PKU)がある。フェニルケトン尿症は、フェニルアラニンというアミノ酸の代謝が妨げられる遺伝子疾患だ。フェニルアラニンは、タンパク質を豊富に含む母乳、卵、各種の肉などに自然に含まれているが、人工甘味料やノンシュガードリンクにも一般的に使われている。

治療をしないと、フェニルケトン尿症は発作や著しい精神遅滞の原因になる。しかし、発見されれば特別な食事療法によって症状を取り除くことができる。現代では、新生児が退院する前にフェニルケトン尿症の検査をするので、最悪のケースは避けられるようになっている。

「遺伝子スクリーニング」は"病気のなりやすさ"がわかるだけ

遺伝子は環境に反応する。これは、特定の疾患のリスクが高い人にとっても朗報だ。環境から受け取る影響の多くは、人間が制御できる。そのなかには常識的な関係もある。たとえば、両親も祖父母もアルコール依存症だったなど、遺伝子的にアルコール依存の可能性が高いとしても、お酒を1滴も口に入れなければ発症することはない。

しかし、最新の興味深い遺伝学は、行動と健康のあいだにある、ややわかりにくい関係を明らかにしている。知能、健康、回復力など、体を守る力は、うまく歳を重ねられるかどうかの決め手になる。これらはすべて遺伝子に左右されるが、行動や、身体的・社会的環境にも大きな影響を受ける場合がある。両親の頭がよいのは遺伝的に有利だが、一流の教育を受けるのはさらに有利だ。

過去10年で最も驚くべき発展の1つは、遺伝子構造全体の写しを提供し、特定の病気を引き起こす遺伝子をもっているかどうかを示してくれるビジネスの出現だ。しかし、こうしたサービスを活用するときには、その結果を自分の運命として受け入れてしまわないよう、用心する必要がある。

遺伝子スクリーニングは、ひいきめに見ても特定の病気になりやすいことを示すだけで、絶対にその病気になると証明するわけではない。遺伝子はあなたにカードを配ってくれるが、配られたカードをどうプレーするかはあなたしだいだ。心臓病のリスクが高いと判明したときに、お手上げだと絶望してハンバーガーを買いに行く人がいる一方で、腹筋を鍛えて豆腐を食べる人もいるのだ。

研究
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「親と同じ年代で亡くなる」は迷信だ

最後にもう1つ付け加えよう。人類には、老化そのものを制御する遺伝子も、死ぬ時期をプログラムする遺伝子もない。家族全員に対して同じ年齢で働く「オフ」ボタンがDNAに隠されているわけではない。ハーバード大学で行われていた、被験者の生涯にわたる健康に関する研究では、祖父母と両親の死亡日を追跡している。同研究では、遺伝性の病気によって60歳前に亡くなるような極端なケースを除いては、祖先の長寿は個人の長寿を予測する重要な因子ではないことが示されている。

ローラ・L・カーステンセン(著)、米田隆(監修)、二木夢子(訳)『スタンフォード式 よりよき人生の科学』(サンマーク出版)
ローラ・L・カーステンセン(著)、米田隆(監修)、二木夢子(訳)『スタンフォード式 よりよき人生の科学』(サンマーク出版)

それなのに、私たちは両親や祖父母が亡くなったのと同じぐらいの歳で、同じ原因で亡くなると考えてしまう傾向がある。それは迷信に近い。親戚のなかに若くして亡くなった人がいると、その予想が大きなストレスとなり、自分の可能性に対して最初から負け犬のような姿勢をとってしまうことがある。

逆に、みんなが熟年まで長生きしている家系だと、何をしても大丈夫だという感覚を抱いてしまったりする。リスクを軽視するのは負け犬根性と同じぐらい大きな問題であり、それを経済学では「モラルハザード」という。どちらの状況でも、「太く短く生きる」行動をとりやすくなる。すぐに死ねなければ、重苦しい老年期を送る羽目に陥る。

人間の運命はあらかじめ決まっているという考え方は、何の助けにもならない。運命を信じたくなるのは人間ならではだが、自分で切り拓く運命を信じたほうが賢いのだ。

(参考文献)
・たった4つの習慣:Knoops, K. T. B., de Groot, L. C. P. G., Kromhout, D., Perrin, A., Moreiras-Varela, O., Menotti, A., et al. (2004). Mediterranean diet, lifestyle factors, and 10-year mortality in elderly European men and women. Journal of the American Medical Association, 292(12), 1433-1439.
・双生児のうちの1人が定期的に運動していて:Cherkas, L., Hunkin, J., Bernet, S. K.,Richards, J. B., Gardner, J. P., Surdulescu, G., et al. (2008). The association between physical activity in leisure time and leukocyte telomere length. Archives of Internal Medicine, 168(2), 154-158.
・信頼性の高い老化の生物学的指標(バイオマーカー):Mather, K. A., Jorm, A. F., Parslow, R. A. (2011). Is telomere length a biomarker of aging? A review. The Journals of Gerontology 66A(2), 202-213.
・双生児の一方がアルツハイマー病を発症すると:Gatz, M., Reynolds, C. A., Fratiglioni,L., Johansson, B., Mortimer, J. A., Berg, S., et al. (2006). Role of genes and environments for explaining Alzheimer disease. Archives of General Psychiatry, 63(2), 168-174.

ローラ・L・カーステンセン
スタンフォード大学心理学部教授
カリフォルニア州ロス・アルトス・ヒルズ在住。スタンフォード大学フェアリー・S・ディキンソン・ジュニア記念講座公共政策学教授や、同大学長寿研究所の設立者で所長も務める。カーステンセン博士の研究は20年以上にわたってアメリカ国立老化研究所から支援を受けている。グッゲンハイム・フェロー、アメリカ国立衛生研究所(NIH)メリット賞受賞者、マッカーサー財団高齢化社会ネットワーク会員でもある。

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