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隣人「庭でBBQ、今後やめて」→弁護士「禁止する権利はない」例外として法的措置が可能な3つのケース

  • 2025.10.11
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

過ごしやすい季節になり、自宅の庭でバーベキューを楽しむ方もいるのではないでしょうか。家族や友人と過ごす楽しい時間は、マイホームならではの醍醐味の一つでしょう。しかし近年、そんなバーベキューをめぐって隣人とのトラブルが増えているようです。煙や匂い、騒音などが原因で、思わぬ近隣トラブルに発展するケースも少なくありません。

中には隣の家の人から「BBQをするのは今後やめてほしい」と“禁止令”を出された経験のある方もいるのだそう。

はたして、隣人にはバーベキューを禁止する権利があるのでしょうか?気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

隣人に「BBQ禁止」を命じる権利はあるの?弁護士が法的観点から解説

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

隣人がBBQを禁止する法的な権利はあるの?

---マイホームの庭でBBQをしている家に対して、隣人がBBQを禁止する法的な権利はありますか?

寺林弁護士:

マイホームの庭でBBQをしている家に対して、隣人がBBQを禁止する法的な権利は、原則としてありません。

日本の法律では、個人の所有する土地や建物(マイホームの庭もこれに含まれます)をどのように利用するかは、基本的に個人の自由とされています。そのため、BBQを行うこと自体を法律で禁止する規定はありません。

しかし、以下のようなケースでは、隣人が法的な措置を講じることが可能となる場合があります。

1、「受忍限度」を超える迷惑行為
BBQの煙、匂い、騒音などが、社会生活を営む上で通常我慢すべき限度(「受忍限度」)を超えていると判断された場合、隣人は民法上の「不法行為」(民法709条)を根拠に、BBQの差し止めや損害賠償を請求できる可能性があります。具体的には以下のようなケースが考えられます。

  • 煙や匂い:頻繁なBBQで洗濯物に匂いがつく、窓を開けられない、体調が悪くなるなど、日常生活に支障をきたす場合。
  • 騒音:夜遅くまで大声で騒ぐ、大人数で連日パーティーをするなど、近隣の安眠を妨げる場合。

2、火災の危険性
BBQの火の取り扱いが不適切で、隣家への延焼リスクがある場合など、火災の危険性が高いと判断される状況であれば、消防署が注意・指導を行うことがあります。また、軽犯罪法や火災予防条例に抵触する可能性もあります。

3、マンション・アパートの規約
戸建て住宅の場合、特にBBQを禁止する法律はありませんが、マンションやアパートの場合は、管理規約や賃貸契約でベランダや共用部での火気の使用が禁止されていることが一般的です。この場合は、規約違反となります。

もし我慢できないほど隣家のBBQが迷惑だったら…?

---隣家のBBQがもし迷惑だったとして裁判で禁止させることはできるのでしょうか?

寺林弁護士:

隣家のBBQが迷惑だった場合、裁判で禁止させることは可能ですが、非常にハードルが高いのが現状です。

1、裁判で禁止させるための条件
裁判でBBQの禁止(差し止め)を求める場合、その根拠となるのは民法上の「不法行為」です。具体的には、BBQの煙や匂い、騒音などが「受忍限度」を明らかに超えていることを証明する必要があります。

「受忍限度」とは、社会生活を営む上で、お互いが我慢すべきとされている限度のことです。裁判所は、以下の点を総合的に考慮して、受忍限度を超えているかどうかを判断します。

(1)頻度と時間帯:どのくらいの頻度で、何時頃までBBQを行っているか。

(2)迷惑の程度:煙や匂いがどれくらいひどいか(洗濯物に匂いがつく、体調不良を引き起こすなど)。騒音はどのくらいか。

(3)被害の継続性:迷惑行為が継続的に行われているか。

(4)近隣の状況:住宅密集地か、田園地帯かなど、地域の特性。

(5)BBQをする側の配慮:煙の少ないコンロを使っているか、風向きを考慮しているかなど、配慮している点があるか。

2、裁判の難しさ

BBQの差し止めを求める裁判が難しい理由は以下の通りです。

・証拠の収集
煙や匂いは目に見えないため、その程度を客観的に証明するのが困難です。写真や動画、騒音測定器のデータ、被害状況を記録した日記など、多角的な証拠が必要となります。

・判例が少ない
BBQそのものを差し止める判例はほとんどありません。多くは、騒音や悪臭といった特定の迷惑行為に対する損害賠償を認めた判例にとどまっています。

・差し止め請求のハードル
裁判所は、個人の自由な行動を差し止めることには慎重な姿勢をとります。そのため、差し止めが認められるには、損害賠償が認められる場合よりも、さらに深刻な被害を証明する必要があります。

トラブルを防ぐために…自宅BBQで気をつけることは?

---法的観点から、マイホームの庭でBBQをやる場合、どういった点に気をつければ良いでしょうか?

寺林弁護士:

法的観点から、マイホームの庭でBBQをやる際に注意すべき点は多岐にわたりますが、特に重要なのは以下の3つです。

1、迷惑行為(煙・匂い・騒音)の「受忍限度」を超えないこと

これが最も重要なポイントです。隣人とのトラブルに発展し、裁判にまで発展するリスクを避けるためにも、BBQが迷惑行為と判断されないよう配慮が必要です。

・煙・匂い:煙の量や匂いは、隣家の洗濯物への付着、窓を開けられない、体調不良につながるなど、日常生活に支障をきたす原因となります。

→対策:煙の出にくい炭やガスコンロを使用する。風向きを常に確認し、煙が隣家に向かわないようにする。隣家との距離が近い場合は、事前に声をかける。

・騒音:大声での会話、音楽、夜遅くまでの宴会などは、近隣住民の安眠を妨げ、騒音問題に発展します。

→対策:夜間は静かにする。遅くとも夜9時頃までには片付ける。大人数でのBBQは控える。

これらの迷惑行為が「受忍限度」を超えたと判断されると、民法上の不法行為(民法709条)となり、損害賠償請求やBBQの差し止めを求められる可能性があります。

2、火災予防に関する法令・条例の遵守

BBQは火気を取り扱うため、火災の危険性にも十分に注意する必要があります。

・軽犯罪法:「相当な注意をしないで、建物、森林その他燃えるような物の付近で火をたき」という行為は、軽犯罪法に抵触する可能性があります。

→対策:建物や燃えやすい物の近くで行わない。火の粉が飛ばないように配慮する。

・火災予防条例:各自治体が定める「火災予防条例」にも注意が必要です。一部の自治体では、一定の場所や時間帯での火気の使用を制限している場合があります。

→対策:事前にお住まいの自治体の条例を確認する。

3、公序良俗と近隣住民への配慮

法律だけでなく、社会生活を円滑に送るための「マナー」も重要です。

・頻度
毎週末のように頻繁にBBQを行うと、たとえ迷惑行為の程度が軽微であっても、隣人にとっては大きなストレスとなり、トラブルに発展しやすくなります。

・事前のコミュニケーション
BBQを行う際は、事前に隣人に声をかけておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。「今日はBBQをやるので、もし洗濯物があれば取り込んでください」といった一言があるだけでも、相手の心象は大きく変わります。

自由と配慮のバランスが、良好な近隣関係を築く鍵

マイホームの庭でのBBQは、原則として個人の自由であり、隣人が一方的に禁止する法的権利はありません。ただし、煙や匂い、騒音が「受忍限度」を超えた場合には、法的な措置を取られる可能性があります。

とはいえ、裁判で差し止めをさせるのは容易ではありません。証拠の収集が難しく、判例も少ないため、実際に禁止命令が出るケースは極めて稀でしょう。

しかし、法的に問題がないからといって、何の配慮もなくBBQを楽しんでよいわけではありません。煙の少ない器具を使う、風向きに気をつける、夜間は静かにする、事前に一声かけるといった小さな配慮が、近隣トラブルを未然に防ぐことにつながります。

「自分の家だから自由にやっていい」という権利意識と、「隣人に迷惑をかけたくない」という配慮の心。このバランスこそが、良好な近隣関係を築き、お互いが気持ちよく暮らせる環境を作る鍵なのではないでしょうか。

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