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無断駐車に「1万円請求します」の“貼り紙”→弁護士「絶対にやらないで」最悪の場合、恐喝未遂に問われる可能性も

  • 2025.10.10
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出典:photoAC(画像はイメージです)

マイカーを持つ人にとって、駐車場は生活に欠かせないもの。特に都市部では、月極駐車場を契約している方も多いでしょう。ですが、毎月きちんと料金を払っているのに、思わぬ事態に巻き込まれることもあるようです。

SNS上で「自分の駐車スペースに無断で車が停まっているが、どうすればいいのか」「前にも注意したのに、また無断で駐車されている」といった趣旨の投稿がされています。

はたして、月極駐車場の無断駐車は法的にどのような問題があるのでしょうか?また、どう対処すればよいのでしょうか?

気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

無断駐車にはどのような対応ができる?

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

無断駐車はどのような罪になる?

---契約している月極駐車場に無断駐車をする行為は、法的にはどのような侵害にあたるのでしょうか?

寺林弁護士:

契約している月極駐車場に無断駐車をする行為は、法的には主に以下の侵害にあたります。

・民事上の侵害
駐車場を借りている人(借主)は、その区画を排他的に使用する権利(使用借権または賃借権)を持っています。無断駐車は、この「排他的な使用権」を侵害する行為です。民法上の不法行為(民法709条)にあたり、これにより損害が生じた場合、車の所有者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

・刑事上の侵害
無断駐車は、他人の土地(駐車場)に無許可で侵入する行為として、建造物侵入罪(刑法130条)にあたる可能性があります。しかし、単に車を停めただけで直ちに適用されることは少なく、駐車場がフェンスなどで囲まれている、明確な「関係者以外立ち入り禁止」の表示があるなど、侵入行為が明白な場合に適用される可能性があります。

---警察を呼んだ場合、どの程度まで対応してもらえるのでしょうか?

寺林弁護士:

警察は、民事不介入の原則に基づき、無断駐車の直接的な解決にはほとんど対応してくれません。

●原則としてできないこと
警察は、無断駐車の車を勝手に移動させたり、レッカー車を手配したりすることはできません。また、車の持ち主に連絡を取って移動を促すことも、個人情報保護の観点から基本的に行いません。これは、無断駐車は原則として刑事事件ではなく、民事上のトラブルと見なされるためです。

●対応してもらえること
警察を呼んだ場合、最低限の対応として、以下のことを行ってくれる可能性があります。

・状況確認と注意
現場の状況を確認し、無断駐車が常習的である、悪質であるなどの場合は、車の持ち主が判明した際に口頭で注意をしてくれる場合があります。

・ナンバープレートの照会
状況によっては、ナンバープレートから車の所有者を割り出し、連絡先を教えてくれることがあります。ただし、個人情報保護の観点から教えてもらえないケースも多いです。

・刑事事件性の判断
駐車場内で当て逃げや器物損壊が発生しているなど、無断駐車以外の犯罪行為が疑われる場合は、警察が介入して捜査を開始します。

結論として、警察は無断駐車の車を「どかす」ことに関してはほとんど対応してくれないため、自分自身で法的に適切な方法で対処することが求められます。

「車で塞ぐ」「罰金請求」はNG!正しい対処法とは

---SNSでは「この車が出られないような位置に自分の車を停めたらいい」「1万円請求しますと貼り紙を貼るといい」といった“対応策案”が上がっていましたが、これらは法的にどのようなリスクがあるのでしょうか?

寺林弁護士:

SNSでよく見られる対処法は、法的に大きなリスクを伴うため、絶対に行わないでください

1、車を塞ぐ、物理的に移動できないようにする行為

「自力救済の禁止」にあたり違法となります。日本の法律では、自己の権利が侵害された場合でも、公的な手続き(裁判など)を経ずに、自らの力で権利を回復する行為(自力救済)は原則として禁じられています。

下記のような罪に問われる可能性があります。

  • 監禁罪・逮捕罪:車を閉じ込めて相手を動けないようにする行為は、刑法上の監禁罪(刑法220条)にあたる可能性があります。
  • 器物損壊罪:相手の車に傷をつけたり、タイヤの空気を抜いたりした場合は、器物損壊罪(刑法261条)に問われます。
  • 恐喝罪:無理やり金銭を要求した場合、恐喝罪(刑法249条)に問われるリスクがあります。

2、「1万円請求します」といった高額な貼り紙を貼る行為

不当な金額の請求は、恐喝未遂と見なされる可能性があります。

法律上、請求できるのは「無断駐車によって現実に生じた損害」のみです。具体的には以下のとおりです。

  • 損害の例:無断駐車のせいで別の駐車場を借りる費用、レッカー費用、管理会社がレッカー費用を請求する際の事務手数料など。
  • 注意点:「迷惑料」や「精神的苦痛」に対する慰謝料は、裁判でも認められる金額が限られており、高額な請求は難しいです。

3、自分でレッカーを手配する行為

駐車場の所有者(地主)ではない借主が、勝手に車をレッカー移動することは、不法行為にあたる可能性があり、逆に損害賠償を請求されるリスクがあります。

レッカー移動された車の所有者からすれば、自分の所有物が勝手に動かされ、損害を被ったと主張できるためです。レッカー費用はもちろん、車両の損壊があった場合はその修理費用を請求される可能性もあります。

結論として、無断駐車の対処は、自分自身で物理的な行動をとることは避け、必ず管理会社や大家を通じて行うことが、法的なトラブルから身を守る上で最も賢明な方法です。

---このような駐車があった場合、どのように対処すればよいでしょうか?

寺林弁護士:

まずは、感情的にならず、冷静に対応することが重要です。

1、管理会社または大家に連絡
これが最も推奨される対処法です。契約している駐車場の管理会社や大家に連絡し、状況を伝えましょう。管理者が適切な対応(貼り紙の掲示、レッカー業者の手配など)を取ってくれます。

2、警告文の掲示
「無断駐車を発見しました。直ちに移動してください。移動がない場合、警察に通報し、レッカー移動する場合があります。レッカー費用は○○円、一日駐車料金は○○円を請求します」といった内容の警告文を、フロントガラスに貼り付けるのが一般的です。

ただし、個人で勝手にレッカーを手配することは、前述の通り、法的なリスクがあります。

3、証拠の記録
いつ、どこに、どのような車が停まっていたか、日時とナンバープレートがわかるように写真や動画を撮っておきましょう。これにより、後々トラブルになった際の重要な証拠となります。

無断駐車をした相手に損害賠償を請求できるの?

---このような件で、相手方に損害賠償を請求することはできるのでしょうか?

寺林弁護士:

無断駐車は、契約者(あなた)が持つ駐車場の排他的な使用権を侵害する行為であり、民法上の「不法行為」にあたります。これにより、現実に生じた損害については、車の所有者に対して賠償を求めることができます。

具体的に損害賠償として請求できる可能性があるのは、以下のような費用です。

1、代替駐車場の費用
無断駐車のせいで自分の契約区画に車が停められず、やむなく近くのコインパーキングなどを利用した場合、その実費は請求できます。この場合、領収書などを必ず保管しておきましょう。

2、レッカー費用
駐車場の管理者や所有者が、事前に警告文を掲示するなど適切な手続きを踏んだ上で、レッカー移動を行った場合、その費用を請求することができます。ただし、先ほど解説したように、契約者本人が独断でレッカーを手配すると、逆に不法行為と見なされるリスクがあります。

3、弁護士費用
無断駐車の相手方と交渉したり、裁判を起こしたりする際に弁護士を依頼した場合、その費用の一部または全部を請求できる可能性があります。

4、精神的苦痛に対する慰謝料
度重なる無断駐車や、悪質な行為により、精神的な苦痛を被った場合、慰謝料を請求できる可能性もあります。ただし、請求が認められる金額は限られており、大きな額にはなりにくいのが一般的です。

損害賠償請求の進め方

---どのように手続きを進めたら良いでしょうか?

寺林弁護士:

1、内容証明郵便
まずは、内容証明郵便で車の所有者に損害賠償を請求するのが一般的です。これにより、請求の事実と内容を公的に証明できます。

2、少額訴訟
請求額が60万円以下であれば、「少額訴訟」という簡易な裁判手続きを利用できます。これは、原則として1回の期日で審理が終了するため、比較的短期間で解決を図ることができます。

3、民事訴訟
請求額が60万円を超える場合や、より複雑な問題に発展した場合は、通常の民事訴訟を提起することになります。

---注意すべき点があれば教えてください。

寺林弁護士:

・現実に生じた損害の証明
損害賠償を請求するためには、無断駐車によって「現実にどのような損害が生じたか」を客観的に証明する必要があります。レッカー費用や代替駐車場の領収書、無断駐車の状況を記録した写真や動画などが重要な証拠となります。

・相手を特定すること
損害賠償請求を行うためには、無断駐車をした相手(車の所有者)を特定する必要があります。警察が教えてくれない場合、弁護士に依頼して、ナンバープレートから所有者を割り出してもらうなどの手続きが必要となります。

冷静な対応と適切な手続きが、トラブル解決のカギ

月極駐車場への無断駐車は、契約者の排他的使用権を侵害する不法行為にあたります。しかし、だからといって自分で車を塞いだり、高額な請求をしたりすると、逆に自分が法的リスクを負うことになりかねません。

SNSでは「やり返してやりたい」という気持ちから、過激な対処法が共感を集めることもあります。ですが、感情的な行動は新たなトラブルを生みかねません。

無断駐車を発見したら、まずは証拠を記録し、管理会社や大家に連絡すること。そして適切な手続きを踏んで対応することが、法的トラブルを避けながら自分の権利を守る最善の方法です。

また、駐車スペースに車が停まっている理由は、必ずしも悪意によるものとは限りません。急な体調不良など、やむを得ない事情がある可能性も考慮に入れつつ、冷静に対処することが大切でしょう。

万が一、損害が生じた場合は、証拠をもとに損害賠償を請求することも可能です。困ったときは、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

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