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迫真の演技に魅了される!ヴェネチア国際映画祭「女優賞」受賞作3選

  • 2025.9.11

『ベイビーガール』© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

イタリア現地時間9月6日に閉幕したばかりのヴェネチア国際映画祭は、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭と並ぶ世界三大国際映画祭のひとつで、最古の歴史を誇ります。今年の受賞結果も気になるところですが、本コラムでは、現時点でDVDや配信などで観ることのできる歴代受賞作を紹介。先週は「金獅子賞」(最優秀作品賞)にスポットを当てたので、今週は最優秀女優賞にあたる「ヴォルピ杯」の過去3年間の受賞者とその作品を取り上げます。

満たされない欲望に苦しむ女性をニコール・キッドマンが衝撃の熱演 『ベイビーガール』

『ベイビーガール』© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

2024年の第81回ヴェネチア国際映画祭で最優秀女優賞に輝いたのは、『ベイビーガール』のニコール・キッドマンです。映画が始まるといきなり映し出されるのは、ベッドであえぐ裸の中年女性。夫婦の営みが終わるとすぐさま一人でパソコンの前に移動してあるものを観ながら……、という衝撃的な冒頭シーンに、キッドマンの凄さを見ました。すでに名声も地位もあるスター女優でありながら、本能剥き出しの演技を厭わず、新たに挑戦する姿勢。だからこそ、キッドマンは常に第一線で活躍を続けているのでしょう。
 
キッドマンが演じるのは、巨大物流企業でCEOを務めるロミー。仕事でトップに昇りつめ、優しい夫(アントニオ・バンデラス)と娘たちもいて、公私ともに成功している女性です。ある日、ロミーは、路上で暴れる犬を手懐けた青年を目撃。その青年は、彼女の会社にインターンとして入ってきたサミュエル(ハリス・ディキンソン)で、ロミーの秘めた欲望を見抜くと、きわどい挑発を仕掛けてきます。格下の青年に主導権を握られたロミーは、心がかき乱されて、深みにはまっていきます。

『ベイビーガール』© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

犬を手懐けるサミュエルの姿が頭から離れないロミーは、自らの本能、性癖ともいえますが、それを恥じて苦しんでいるのです。このようなテーマは、例えばルイス・ブニュエル監督の“昼は娼婦、夜は貞淑な妻”をカトリーヌ・ドヌーヴが演じた『昼顔』などでも描かれているように目新しいものではありませんが、女性の立場が現代的にアップデートされたことで、別の問題も示しています。ロミーの部下である女性は、ロミーに女性たちの手本であってほしい、と言います。何もおかしな意見ではありませんが、妻はこうあるべき、といった男性からの要求と同じで、成功した女性は常に輝いているべき、という女性からの期待もまた、ロミーをがんじがらめにしているのでしょう。

『ベイビーガール』© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

女性監督のハリナ・ラインとタッグを組み、“満たされない欲望”の苦しみから脱却しようとするひとりの女性の変化を、繊細かつ大胆に演じたキッドマンには脱帽です。

『ベイビーガール』

2024年製作

DVD ¥4,400円
発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング

© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

スターとの恋と自立、ケイリー・スピーニーの瑞々しい演技が光る 『プリシラ』

『プリシラ』© The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

2023年は、『プリシラ』に主演したケイリー・スピーニーが主演女優賞を獲得。ロックンロールの歴史に燦然と輝くスーパースター、エルヴィス・プレスリーの元妻プリシラ・プレスリーの自伝回想録を、ソフィア・コッポラ監督が映画化しました。“ガーリー・カルチャー”の先駆者であるソフィア・コッポラならではの、甘く美しい映像で綴られる60~70年代カルチャーと一人の少女の物語です。

『プリシラ』© The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

14歳のプリシラは、エルヴィス・プレスリー(ジェイコブ・エロルディ)と出会い、恋に落ちます。夢のような現実に舞い上がる少女。やがて彼女は両親の反対を押し切って、大邸宅でエルヴィスと一緒に暮らしはじめます。まだ大人とはいえないプリシラにとって、彼の色に染まり、彼のそばにいることは彼女にとってすべてでしたが……。

『プリシラ』© The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

愛らしい少女が初恋に舞い上がり、突き進み、鳥かごのなかの小鳥のような暮らしに孤独を感じていく、という内面の変化を、ケイリー・スピーニーが瑞々しく丁寧に表現しています。純真なまなざし、喜び、戸惑い、自立しようとする強い決意……、14歳から20代後半までを違和感なく演じる技量は見事です。

『プリシラ』© The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

現代の視点からみると、エルヴィスがプリシラに求めたこと、例えば、電話はすぐに出ること、自分好みの髪形や装いをすること、などは非難されても仕方ありませんが、ソフィア・コッポラ監督はあくまでもこの時代を生きたある女性のリアルを描いています。エルヴィスのロックスターとしての活躍をほとんど描かず、潔いほどにプリシラだけに焦点を当てています。

『プリシラ』

2023年製作

Blu-ray ¥5,500/DVD ¥4,400
発売・販売元:ギャガ

© The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

転落する権力者の狂気をケイト・ブランシェットが怪演 『TAR/ター』

『TAR/ター』© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

巨大な権力を持つ者がその座から転落していく様が現代社会を反映しているかのような『TAR/ター』で、鼻持ちならない主人公を演じたケイト・ブランシェットが、2022年の主演女優賞に輝きました。
 
世界最高峰のオーケストラの一つであるドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター。現代音楽界を牽引する圧倒的カリスマとして君臨するターは、「指揮者は時間を支配する」と豪語する一方、マーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。
 
そんな時、かつての教え子の死を知り、彼女を頂点とする完璧な世界は崩れ始めていきます。

『TAR/ター』© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

リディア・ターは架空の人物ですが、実在の人物と勘違いするほどリアルに描かれています。ターは天才芸術家で傲慢、気に入らない人がいれば平気で役から降ろします。同性愛者でありコンサートマスターの女性と同居して養女に「パパ」と呼ばせ、浮気もします。

『TAR/ター』© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

そんな不遜な権力者が女性として描かれていることに異を唱えた意見もありますが、性別を問わずターという人物を通して権力者の脅威と狂気、足元をすくわれたら一気に転落していく様子をオーケストラの音楽とともにスリリングに描写しています。

『TAR/ター』© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

パワーも華もある自信に満ちたターが、後半では精神的な苦しみに苛まれ、大事な舞台で狂気の行動をとるシーンの凄まじい演技は必見。その後のターの歩みを落ちぶれたとみなすか、一筋の光を見出したと受け取るかは、映画を観た人にゆだねられています。

『TAR/ター』

2022年製作

Blu-ray ¥2,075/DVD ¥1,572
発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング

© 2022 FOCUS FEATURES LLC.


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※この記事の内容および、掲載商品の販売有無・価格などは2025年9月時点の情報です。販売が終了している場合や、価格改定が行われている場合があります。ご了承ください

構成・文

ライター
中山恵子

中山恵子

ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。

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