「じわじわ痛い」「どう展開していくの」初回放送から“視聴者の胸”に刺さる… “３組３世代カップル”に訪れる別れ

2025.7.3

テレビ東京系ドラマチューズ『私があなたといる理由～グアムを訪れた3組の男女の1週間～』が、7月1日よりスタートした。蓮佛美沙子と溝端淳平が演じる30代夫婦を中心に、20代の大学生カップル（中井友望＆百瀬拓実）、50代のベテラン夫婦（勝村政信＆いしのようこ）という3組のカップルが登場する本作は、それぞれの“関係の距離感”を南国・グアムの空気のなかで見つめ直す群像劇だ。

「彼が私といる理由」と「私が彼といる理由」は違うのかもしれない

主人公・泉美優（蓮佛美沙子）は、仕事ばかりの夫・陽介（溝端淳平）との関係に悩みながら、「二人で過ごす時間を持ちたい」とグアム旅行を提案する。すれ違いが積み重なりつつある結婚三年目の夫婦だ。

だが、せっかくの旅行でも陽介は食事中にも関わらずPCやスマホを手放さない。美優が「部屋に戻っていてもいいよ」と言われるシーンには、なんとも言えない温度差がにじむ。二人でいても“ひとり”のような孤独。そうした小さなすれ違いは、旅の序盤から観る者の胸に刺さる。結婚して三年目という節目、どこか覚えのある視聴者も多いのではないだろうか。

20代カップルのあかり（中井友望）と陸（百瀬拓実）は、一見すればラブラブな大学生カップルに見える。しかし、あかりがふと口にする「彼が私といる理由と、私が彼といる理由は違うのかも」という台詞は、恋愛の本質を突いているようにも思える。

相手と一緒にいる理由が食い違うとき、それは、一緒にいる意味を見失っていく兆候かもしれない。若さゆえの未成熟な価値観の違いが、少しずつ、しかし確実に関係性にヒビを入れていく。そんな危うさが丁寧に描かれている。

あかりや陸の数年後の姿が、美優や陽介かもしれない。そして、美優や陽介が数年後に行き着くのが、50代のベテラン夫婦（勝村政信＆いしのようこ）である健次郎と寛子かもしれない。

夫婦とは「楽な関係」ではない、それでも一緒にいたい理由

50代の健次郎と寛子は、良好な関係を保っていながらも、長年連れ添ったからこその諦めや悟りもにじむ空気を醸し出している夫婦だ。「一緒にいること」が当たり前になった時間のなかで、あらためてその意味を問う旅。熟年夫婦にとっても、ときに関係性をメンテナンスする機会は必要なのだと感じさせられる。

彼らの旅は、娘が初めてのボーナスで贈ってくれた「二度目の新婚旅行」である。「できた娘だ」と素直に喜びを噛み締める二人。しかし、おそらく寛子は心のどこかで、娘がいたからこそ夫婦の関係が保たれてきた、と感じているのではないか。

旅先でも娘のことを忘れず、写真を撮ってはメッセージを送る寛子を見て、健次郎はやんわりと娘離れするように促すシーンがある。自分ではどうにもできない、一抹の寂しさ。寛子からすれば、たとえ娘から離れられたとしても、にわかに浮かび上がる心の空白を埋めてくれるのは、決して目の前の夫ではないのだろう。

本作では、最終的に三組のうち一組が「別れ」を選ぶという予告がなされている。SNS上でも「三組のカップルがどう展開していくのか楽しみ」「リアルでじわじわ痛いな」「感情がごちゃついてる」といった声が多い。その結末は、観ている者に「自分だったらどうするか」「誰と、どんな時間を過ごしていきたいのか」と問うような構造になっている。あくまでも別れを失敗と描かず、「それぞれの幸せの形がある」というドラマの視点が、時代性を感じさせる。

ふたりでいることが、人生の正解ではない

このドラマの肝は、「誰かと一緒に生きるとはどういうことか」を問いかけるその姿勢にある。いまの時代、「一人でも楽しく生きられる」「結婚はしなくてもいい」という価値観も尊重されるようになってきた。

それでも、「誰かと一緒に生きる」ことには、意味があるのかもしれない。喜びを分かち合うことも、苦しさを誰かに受け止めてもらえることも、孤独では味わえない時間だから。

グアムの陽光、青い空、穏やかな波音。そんな非日常の舞台は、人の心の内を自然と解きほぐしてくれる。だからこそ、普段は口に出せない本音や、気づかないふりをしていた違和感が、静かにあぶり出されていく。

三組のカップルが、それぞれの関係性をどう乗り越えるのか、あるいは手放していくのか…。その選択の行方に、視聴者自身の関係性も映し出されるような、静かで繊細なドラマである。

テレビ東京系ドラマチューズ『私があなたといる理由～グアムを訪れた3組の男女の1週間～』毎週火曜深夜0時30分〜

ライター：北村有（Kitamura Yuu）
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X（旧Twitter）：@yuu_uu_