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NHKで“ショートショート”再放送「どれも名作」「すごい話だ」15分で背筋を冷やす、超“有名小説”原作の短編ドラマ

  • 2026.6.3

NHK『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』の再放送にあたり、SNS上では「どれも名作」「再放送嬉しい」「すごい話だ」などの声があふれている。短いのに、観終わったあとに小さな棘が残るような、そんな違和感こそが星新一のショートショートの魔力だ。今回は、究極の管理社会を描く『生活維持省』と、眠れない恐怖が別の悪夢を招く『不眠症』をピックアップしたい。平和と安眠。どちらも“善いもの”のはずなのに、なぜこんなにも背筋が冷えるのか。

※以下本文には放送内容が含まれます。

平和な顔をした“お役所仕事”

『生活維持省』の怖さは、すでに最初の数分に宿っている。驚くほど穏やかな冒頭の空気。永山瑛太と渋川清彦が演じる役所の職員が、車で移動している。天気も良く、道は静かで、ロードムービーのような情緒さえ漂う。お役所仕事特有の、今日の業務をこなしてさえいれば問題はないという、レールの上の安心感。平和な未来社会の“しずけさ”が、画面から伝わってくる。

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夜ドラ『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』5/26放送「生活維持省」より(C)NHK

ところが、場面が変わった瞬間に世界は反転する。二人は銃を携え、あるアパートの一室へ入っていく。そこで絵を描いていた高齢の画家に対し、その銃をなんの前触れもなく向ける。大した会話もないまま、淡々と命を奪ってしまうのだ。
悲鳴も、怒号も、劇的な抵抗もない。確かにそこにある狂気が特別な事件として扱われず、日常の作業として処理されている。

画家は怯えたり暴れたりする代わりに、まるで彼らの来訪を前もって知っていたかのような対応を見せる。なんなら、彼らの仕事ぶりに感謝さえ告げるのだ。ここで露わになるのは、恐怖ではなく“受容”。理不尽な死が、社会の常識として組み込まれている。

この作品が描くのは、戦争や犯罪がなくなり、誰もが穏やかに暮らす未来だ。しかし人類が増えすぎれば資源が枯渇し、争いが起きる。
だから人口を一定に保つため、コンピューターが無作為に選んだ市民を抹殺する役所が存在する。“平和を維持するため”という大義名分のもとに。究極の功利主義、最大多数の最大幸福のパラドックスである。

眠れない恐怖が、もっと大きな悪夢を呼び込む

一方の『不眠症』は『生活維持省』と違って、入口がとても身近だ。事故をきっかけに眠れなくなった男(林遣都)。枕を変えても睡眠薬を飲んでも、どれだけ工夫を凝らしても眠れない。
眠りたいのに眠れない。これは誰にとっても想像しやすい恐怖で、しかも生理的に共感してしまう。眠れない夜が続くほど世界は遠くなり、自分だけが取り残されたような孤独に飲み込まれる。

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夜ドラ『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』5/28放送「不眠症」より(C)NHK

この作品の上手さは、その切実さをしっかり積み上げてから、“星新一らしい扉”を示すところにある。追い詰められた男が、眠るための究極の方法を求めて、怪しげな施設へ辿り着く。星新一は、困っている人間がすがりたくなる瞬間を描くのが、本当にうまい。正しい判断ができないほど弱っている時、人は一番危険な選択をしてしまう。

眠れない不安につけ込む商売。便利さや即効性を売りにして、人間の弱さを回収するシステム。さらに言えば、時間を無駄にしたくない、回復も最短距離で手に入れたいという“効率の欲望”。いま私たちが日常的に触れているタイパ至上主義の影が、物語の背景に立っている。

“便利”と“平和”の裏にあるものは?

『生活維持省』と『不眠症』を並べると、星新一が一貫して突いているものが見えてくる。ひとつは社会の最適化、もうひとつは個人の最適化だ。
前者は平和のため、後者は安眠のため。どちらも善い目的に見える。けれど、その善さが極端に研ぎ澄まされたとき、人間は簡単に“システム”に回収されてしまう。

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夜ドラ『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』5/26放送「生活維持省」より(C)NHK

『生活維持省』では、平和を保つために人が犠牲になる。『不眠症』では、眠るために人が別の地獄へ踏み込む。共通するのは、救いを求めた先にある“管理”だ。
星新一の恐怖は、当たり前の前提がすっと反転してしまうタイプの恐怖である。しかも反転が派手じゃない。静かで、理屈っぽくて、妙に納得させてくる。その納得の手触りが、後からじわじわ怖い。

短編なのに、視聴後の余韻が長い。昔の作品なのに、いまの社会と接続してしまう。監視、炎上、過労、効率、正義、依存。どれも現代の私たちが抱えている問題だ。星新一は未来を予言したのではなく、人間の性質を見抜いていただけなのかもしれない。

若いころは笑えたようなオチが、大人になると笑えなくなる。平和も安眠も、誰かにとっての“善”であるはずなのに、その裏側にある毒を、星新一は容赦なく見せてくる。短い時間で、背骨を冷やし、心の奥に棘を残す。そんな贅沢な怖さを、また味わえるのが嬉しい。


NHK 夜ドラ『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』
NHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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