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【田園日記~農と人の物語~ Vol.14】夢だった酪農家になり 若い世代の羽翼となる

  • 2025.5.15

農にまつわるリアルを伝えるドキュメンタリー連載。情熱をかけて地元で「農」を盛り上げる「人」にスポットを当て、いま起こっているコトをお届けします。今回伺ったのは、子どもの頃から牛が大好きだったという小川翔吾(34)さんの牧場「リトルリバーファーム」。大学卒業後も酪農関連の経験を積み重ねて、憧れの牧場経営をスタートさせました。



幼少期から酪農にゾッコン!




神奈川県秦野市の小高い丘に、小川さんの経営する「リトルリバーファーム」はあります。

現在、三十七頭の乳牛を飼育する牧場を、翔吾さんが「第三者継承」で引き継いだのは四年前のことでした。第三者継承とは、後継者を探す農家から、親族や従業員以外の人が経営を引き継ぐ制度です。

先代から牛と牛舎、土地や機械などの有償譲渡を受けたのは、翔吾さんの事例が神奈川県内で初めてのことでした。

「子どもの頃から、牧場で牛を見るのが好きだったんです。牛乳も好きだったので『どうしてこの動物から牛乳が出るんだろう』と、いつも不思議に思っていたものです」



そう語る翔吾さんが生まれ育ったのは、県内で酪農が盛んな隣の伊勢原市。実家は非農家ですが、幼い頃から酪農に興味を持ち、地元の農業高校を経て、北海道の畜産系大学で牛の飼育を学びました。

その後、翔吾さんは神奈川県の畜産技術センターに四年ほど勤務。
東京都八王子市の牧場でさらに三年間、酪農の経験を積んだそうです。

「いつかは自分の牧場を持ちたい。ずっと、そう思って勉強をしてきました。畜産技術センターや牧場での仕事で、牛や経営の知識を身に付けたんです。そんななか、飼料会社に紹介してもらった今の牧場を引き継ぐことになったんです」


二千五百万円で、夢の牧場主に




神奈川県に限らず、全国では農家の後継者問題が深刻化。
廃業を考える高齢の酪農家も増えています。翔吾さんが第三者継承の条件の交渉を始めたさい、先代の年齢も七十歳になろうとしていました。

「もしゼロから酪農を始めようとすると、億単位のお金がかかります。先代から提示されたのは、青年等就農資金で借りられる範囲の二千五百万円。それで、すべてを引き継げる。一年以内には就農したいと思っていたので、ぴったりの条件でした」

第三者継承では、価格などの条件で交渉が難航することも多いそう。

しかし、翔吾さんのケースでは、JAはだのなどでつくる「はだの都市農業支援センター」や神奈川県、秦野市、金融機関が交渉に関わり、月に一度の継承会議で諸条件がスムーズに整えられていきました。

「先代も牧場を廃業せず、次につなげられることを喜んでいました。今でも春になるとタケノコ掘りに来たり、牧場の様子を見に来てくれたりと交流が続いています」



研修生を受け入れ、次世代へつなぐ

翔吾さんには新規就農をするにあたって、一つの思いがありました。
それは故郷である伊勢原市の周辺で、「神奈川県の酪農をつないでいきたい」という思いでした。

「ぼくの育った伊勢原市は酪農が盛んな地域です。しかし神奈川県内でも、そのことはあまり知られていません。昔からあった牧場が、だんだんとなくなっていくのはやっぱり寂しい。県内の酪農を自分のような世代が継いでいる姿を見せれば、後に続いてくれる人も出てくるのではないか。そんな気持ちもありました」



リトルリバーファームでは現在、一日に約千リットルの牛乳を生産しています。
餌の配合を工夫するなど、就農以来、生産量も少しずつ増えてきました。

近年の飼料高騰などの影響を受けるなか、牧場経営を軌道に乗せてきた翔吾さんは、それまでの経験を自分の牧場で試す日々に、やりがいを感じています。
そして、翔吾さんが意識的に受け入れているのが、農業高校や大学からの研修生やアルバイトです。



「若い人たちには、しっかりと技術を身に付けて帰ってもらいたい。彼らの中から、次の世代を育てていきたいんですよ」

新規就農を経験して実感するのは、たんに「酪農をやりたい」との気持ちだけでは、牧場経営を続けるのは難しい、ということだと翔吾さんは言います。

「仮に新規就農しても、酪農の技術や経験を持たずに『やりながら覚える』という姿勢でやれるほど甘い世界ではありません。その意味で、経験を積んでから就農した自分のやり方が、若い世代にとって一つのモデルケースになっていってほしい。まだまだ、ぼくの牧場も発展の途中。この地域でもっとも若い酪農家として『やるしかねぇ』という気持ちでいます」

※当記事は、JAグループの月刊誌『家の光』2024年9月号に掲載されたものです。

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