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そろそろ理想的な歳の取り方から外見の美が外れてもいいのでは? 【連載・ヴォーグ ジャパンアーカイブ】

  • 2025.4.1

女のピークは20代だと、19歳の私は信じていた。だから当時最も活躍しているように見えた20代女性に憧れた。90年代に時代を席巻したスーパーモデルたちだ。彼女たちは目一杯若さと人生を楽しんでいるように見えた。同時に、意志的で自立した女性にも見えた。そしてやがて彼女たちをはじめとした多くの才気あふれる女性たちが、物知らずの私に「女性のピークは20代ではない」と教えてくれた。女の人生は坂を上って頂点に達したあとは下り坂、という発想自体が馬鹿げていると、身をもって示してくれたのだ。

2014年9月号では、人々を夢中にさせてから20年経ったスーパーモデルたちがキャリアについて語っている。90年代にはモデルは30歳でおしまいと言われていたのに、40代後半となったスーパーモデルたちは仕事も私生活も大充実していて、魅力的だ。おそらく美容医療の力も借りながら、瞬く間に消費されてしまいかねないモデルの世界で「美しさを人に使われるのではなく、自ら使う」ことによって無二の存在感を示し、ビジネスや慈善事業でも活躍の場を広げてきた彼女たちには逞しさを感じる。 その多くは、記事から10年以上が経った現在でも活躍している。

みんながスーパーモデルをずっと大好きなのは、もちろん90年代への郷愁や憧れも あるだろう。でも今現在の60歳近い彼女たちを見ると、時間を重ねた自分を肯定する気持ちになれるのも確かだ。なぜなら彼女たちは人は変化することを教えてくれるか らだ。リンダ・エヴァンジェリスタが自身の辛い経験を開示してカムバックしたよう に、たとえその変化が望んだようなものではなくても人生は決して空っぽになるわけではなく、どのようにも価値を読み替えて生きることができる。

この号の表紙には「スーパーモデルという生き方。『年齢で美をあきらめない』」とある。当時の彼女たちは40代後半でもまだ30代のような外見で、人が年齢に抗うことができる証左のような存在だった。時代を象徴するモデルという仕事を生業とする生き方を選んだ人たちは、肌の状態や身体の均整を保つために人一倍のケアが欠かせないだろう。だが熟年期に入った彼女たちは、も う30代には見えない。今ではSNSで年齢相応の変化を経た姿をおおらかに公開している熟年の著名モデルもいる。私はそれを見て思うのだ。モデルだって、年齢とともに商業的な美を諦めてもいいのではないか。 かつてその類稀なプロポーションで世界を圧倒した人たちが、現在はリアルな生活感の滲む身体で豊かに幸せに暮らしているなんて、希望の持てる話だ。それでこそ本当にモデルという仕事を超越するスーパーな存在といえよう。

どんな仕事であれ長く活躍している女性を称える際に、美が度外視されるようになればいい。そうしたらどれほど気が楽だろうか。女性の功績を称賛するときに脊髄反射的に外見を褒め称える人は 多い。「才色兼備」「いつまでもお若い」「変わらずお美しい」と。そんな賛辞がなくても女性の偉大さが伝わるようになればいいと心底思う。

90年代の日本では、まだ女性は20代で結婚して専業主婦になるのが幸せと考える人も多かった。ごく一部に特別優秀な“キャリアウーマン”がいるだけで、世の中の主役は男性だという意識が強かった。まさに19歳の私は、その価値観に染まりきって「女性のピークは20代」と思い込んでいたわけだ。けれど幸運なことに、私自身が30代、40代と年齢を重ねるのと同時に、メディアの中の女性たちの扱いも少しずつ変わってきた。その変化はもっと速いスピードで進行するべきだったが、それでも今は著名な女性が人前で更年期や閉経について語る機会が増え、年齢を重ねることをごく自然な摂理として捉えるようになっている。社会全体の高齢化に伴い若者が希少化したことの影響もあろう。加齢が日常化したのなら、そろそろ理想的な歳の取り方の条件から外見の美が外れてもいいだろう。

100年以上の時間をかけて、世界中で女性の権利向上の歩みが続いてきた。それは常に前進してきたわけではなく、何度となく足踏みや後退を余儀なくされ、それでも諦めずに先人たちが「私たちは人間だ」「女性はモノではなく、誰かの持ち物でもない」と言い続けた結果、現在がある。そしてその声は今この瞬間も、世界中で絶えず上がり続けている。女性の身体は女性自身 のものである。女性の人生は他人を満足させるためではなく、自身が幸福に生きるためにある。女性は一人の人間として、学び、働き、社会をつくり、思うように生きる権利がある。女性は一人の人間として、ほかの誰とも等しく無二の、尊重されるべき存在である。私たちはそれに値する。生まれた瞬間から、あらゆる規範や外形的な条件を超えて、最大の敬意をもって扱われるべきかけがえのない命なのだ。

Photography: Shinsuke Kojima(magazine) Text: Keiko Kojima Editor: Gen Arai

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