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押井守がこだわる、戦争映画での“軍オタ”チェックポイント「リアルに再現できたからこそ、実在の兵士たちの写真を出せる」【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」特別編(後編)】

  • 2026.2.17

独自の世界観と作家性で世界中のファンを魅了し続ける映画監督・押井守が、Aだと思っていたら実はBやMやZだったという“映画の裏切り”を紐解いていく連載「裏切り映画の愉しみ方」。今回は特別編として、現在公開中のアレックス・ガーランド監督『ウォーフェア 戦地最前線』をお届けします。

【写真を見る】華麗に狙撃…といったアクション映画要素は皆無。リアルに描かれる戦場のスナイパー

“軍オタ”押井守が大興奮だった描写とは?
“軍オタ”押井守が大興奮だった描写とは?

前編では「戦争映画と呼べる正しい戦争映画」と本作を絶賛していた押井監督。後編となる本稿では“軍オタ”目線全開となった押井監督が、本作を観て大興奮だったというミリタリー描写や、戦争映画を観る際のチェックポイントなどを熱弁していく。

舞台は2006年、アメリカ軍特殊部隊8名の小隊は、イラクの危険地帯ラマディで、陸軍の迷彩服に身を包み身分を隠しながら、アルカイダ幹部の監視と狙撃の任務に就いていた。ところが、想定よりも早く事態を察知した敵兵が先制攻撃を仕掛け、市街で突如全面衝突が始まる。退路もなく敵兵に完全包囲されるなか、重傷者が続出。部隊の指揮をとることを諦める者、本部との通信を断つ者、悲鳴を上げる者。負傷した仲間をひきずり放心状態の隊員たちに、さらなる銃弾が降り注ぐ。小隊は逃げ場のないウォーフェア(=戦闘)からの脱出を目指すのだった。

「飛行機が低空飛行して衝撃波を浴びせる、これも初めて見た戦術」

――後編では本作のもうひとつのチェックポイント、軍オタ視点で語っていただきます。軍オタとしても知られている押井さんの大喜び要素があったんですよね?

「そうです。驚きましたよ、なぜってホンモノのブラッドレーが出てきたから。字幕では『戦車』とか『搬送車』と訳されていたけど、正確には歩兵戦闘車。映画でホンモノを見たのは初めてなので大コーフン(笑)。そうか、昇降ハッチの厚みって、あれくらいなのかって。内部も資料から受けた印象よりも狭かった。そういうディテールは資料だけじゃだめで、やっぱり実物を見ないとわからない。そういう意味で最高ですよ。25mm機関砲の射撃も見事だった。この監督、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)でもホンモノの25mmを使っていたけど結構、射撃対象に当たっていたんだよね。でも、今回はものの見事に当たりません。しかも、当たって火花が飛び散るなんていうリアクションじゃなくて、パンパン壁が弾けるだけ。こういうのもホンモノです。IED(簡易手製爆弾)に当たったショックで、ブラッドレーのなかにいた兵士が負傷するでしょ。装甲車両といえども全然安全じゃないことも描いていたということ。いや、本当にすごい」

押井監督注:これは完全にマチガイです。

YouTubeで専門家が指摘してましたが、ブラッドレー風に改装した装甲車両で、正確には英軍の装甲兵員輸送車FV432/30を映画用に改装したものでした。転輪の数とかよく見れば分かったはずなのに、ブラッドレーの雰囲気が出てるので気づきませんでした。まことにお恥ずかしい限りです。ちなみに主砲も.30mmRADENです。

謹んで訂正させていただきますm(_ _)m。

――色も正しいんですよね? 黄色で目立つんじゃないかと思ったんですけど。

「あれは中東仕様。黄色というかサンドイエローで、中東の土地の色に合わせている。いまの米軍の中東地帯の地上部隊はほぼあの色です。

もうひとつ、驚いたのは飛行機の威嚇飛行。低空飛行して衝撃波を浴びせると、少し時間をおいて『ドーン』という音が響き渡る。衝撃波は遅れて届くからそういう表現になる。市街戦だと有効な威嚇手段になるけれど、かなり危険だよね。パイロットのリスクも大きいんじゃないの。これも初めて見た戦術。低空飛行自体は動画で見ることが出来るんだけど、ああいう使い方をするのは初めて見た。とても勉強になりますよ」

圧倒的なリアリティで再現された戦場の最前線 [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
圧倒的なリアリティで再現された戦場の最前線 [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

――あの威嚇飛行はかっこよかったですね。

「かっこいいけどリアルなんですよ。軍オタがこういう戦争を扱った映画を観る時のチェックポイントは、それが本当なのか演出なのか?なんだけどその判別は難しい。でも、この映画に関しては徹底しているから本当なんだと思うよ」

――本作の監督&脚本はアレックス・ガーランドと、レイ・メンドーサというシールズ(SEALs)で実際に活躍していた本当の軍人との共同監督作なんです。軍オタ的に見ても様々な描写がリアルなのは、彼のおかげなのかもしれませんね。

「そうなんだろうね。おそらくリアルに再現できたからこそ、ラストに実在の兵士たちの写真を出すことができたともいえる。実在の兵士たちをエンディングで出すというのはほかの映画でもよく見る手法だけど、私の考えではそれは、アメリカという国の映画に課せられた使命のひとつだということ。つまり『国を裏切っちゃいかん。戦争に従軍した人たちに敬意を払え』ということです。それはアメリカがやるべきことなんだから、ハリウッドもそれに従えといっているんです。本編にそれを反映している比重がここまで高い映画はあまり見たことがないよ」

脚本&共同監督のレイ・メンドーサがモデルとなったレイ [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
脚本&共同監督のレイ・メンドーサがモデルとなったレイ [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

「いまの戦争は、兵士の能力でカバーできる余地が実はあまりない」

――そういう実際の兵士たちの写真を出す意義をしっかり感じる映画になってましたね。

「可能な限り戦場のリアリズムを追った映画としては、これがいまのところはダントツですよ。何度もいうけど、ほとんどの戦場を描いた映画はアクション映画になっちゃっているから。

あ、近年だと『ジャーヘッド』(05)が異色と呼べる戦争映画だったよね。ものすごくハードな訓練を重ねてやっと中東に赴いたにもかかわらず、最後まで発砲許可が下りなかった海兵隊たちの話ですよ。ストレスの塊になった兵士たちは最後、夜空に向かって撃ちまくるしかなかった。そういうストレスと闘うのもいまの戦争であるということが伝わって来たじゃないの」

兵士たちによる活躍はほとんど描かれない [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
兵士たちによる活躍はほとんど描かれない [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

――押井さん、偶然かもしれませんが、その『ジャーヘッド』の監督サム・メンデスもアレックス・ガーランドもイギリス人ですよ。イギリス人が撮るほうが視点がおもしろいのかもしれませんね。

「そういうのはあるかもしれないよね。『ジャーヘッド』も本作も、現在の戦争の在り方を描いているという点では同じ。『プライベート・ライアン』(98)の第二次大戦時とはまるっきり違うでしょ」

――具体的にどういうところが?

「いまの戦争というのは兵士の能力でカバーできる余地というのが実はあまりないんですよ。銃器も違うし戦術も異なるわけだから違って当然と言えば当然なんだけど、いまの戦争では連携をとって動くというのが徹底している。だから本作でも、外に飛び出すまえに役割を決めていたでしょ。あれは実際にやっているんだよ。そういう連携を重要視しているからひとりだけヒーローになるということも少ないんです。そういう、いまどきの戦い方もちゃんとわかるから、軍オタ的にはもちろん、そういうことに興味がある人にとってはめちゃくちゃためになる映画。特殊部隊と言えども普通の人間。身体の向きや連携を憶えるのは訓練できてもメンタルはできない。そういうところもちゃんと伝わっているから。

だから私、これは絶対に自衛隊が観るべきだと思ったからね。いまの自衛隊の訓練って野戦がメインで、市街戦は想定外になってる。だから、もっと市街戦の訓練をするべきだという意見は以前から結構あがっていた。もし日本で戦うケースになった場合、市街戦になる確率はとても高いから」

負傷した兵士を懸命に救おうとする [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
負傷した兵士を懸命に救おうとする [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

――押井さんの話をお伺いしていると、いろんな側面で楽しめる作品なんですね。

「軍オタ的には圧倒的にブラッドレーです(撮影に使われたのはFV432/30だけど実車輌。これはこれで大変珍しい車輛なので必見です)。映画監督的に言えば、サー(リドリー・スコット)の『ブラックホーク・ダウン』(01)のような派手さがある映画も好きだけど、今回のめちゃくちゃリアルでシブいのも大好き。可能な限り戦場のリアリズムを追った映画としては近年の断トツ1位ですよ」

『ウォーフェア 戦地最前線』は公開中! [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.
『ウォーフェア 戦地最前線』は公開中! [c] 2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.

取材・文/渡辺麻紀

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