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絶景の世界遺産「青の都」【ウズベキスタン・サマルカンド】でスマホを落とし…⁉ 清水みさと連載

  • 2026.2.14

訪れた国は約40カ国。サウナと旅をこよなく愛するタレント・モデル・俳優の清水みさとさんの連載エッセイ。6回めは青く美しい建築がいっぱいの世界遺産の都、ウズベキスタンは【サマルカンド】でのお話。

【連載】清水みさと「旅をせずにはいられない」vol.6 失敗は物語になって、残る

わたしはよく海外で、失くして、落として、盗まれる。
 
そんなの本当にもう懲り懲りだったので(不注意)、最近、海外に行くときは、iPhoneを首から下げるようになった。そして、対策しているつもりの人間ほど油断するという真理を嫌というほど知っているので(経験しすぎ)、今回はその真理まで折り込み済みの二周回った対策をして、ウズベキスタンにやってきた。はずだった。

ウズベキスタン・サマルカンド、レギスタン広場のティリャー・コーリ・マドラサ

初めての「スタン系」。情勢不安のニュースを何度も目にしてきたこともあり、遠くて怖い国だと思っていた。
 
でも実際は、拍子抜けするほど穏やかで。レストランで、サウナで、道端で、ことごとく親切な人にばかり出会っていて、先入観との差に驚いてばかりいた。そういえば、インドに行ったときもそうだった。危険は実際どの国にも存在していて、もちろん具合に差異はあるけど、先入観を作るのは、たいてい遠くで見ている人たちだったりする。

ウズベキスタン料理「プロフ」。ピラフ風の炊き込みご飯

そんなふうに街にも慣れて、気持ちがほどけ始めた3日目。首都タシュケントで最大の市場「チョルスー・バザール」にむかう移動中のタクシーで、なぜか「肩が凝るなぁ」と、首にかけていたiPhoneを外し、カバンの上に置いた。入れずに、置いた。
市場に着き、タクシーのドアが閉まる音と同時に、何かが落ちる乾いた音とが重なった。
 
iPhone。
 
あ、と思ったときにはもう車はビューンと走り去っていて、「待って、待って、待ってーーーー」と、自分でも引くくらい情けない声が空を切る。遠ざかるタクシーに、立ち尽くすわたし。地獄絵図・イン・ウズベキスタン。
 
 
英語も通じない。地図も、ホテルの予約も、航空券も、さっき撮ったばかりのいい写真も、全部あの小さな板の中にある。この現代においてスマホをなくすというのは、ただの忘れものなんかじゃなくて、自分のいまを丸ごと失うこととほぼ等価。買い替えてどうにかする手段も逃げ道もない国で、わたしは見事にやらかした。

中央アジアの主食用のパン「ノン」

油断禁物という言葉は、たぶんわたしのためにあると思う。呆然としていると、足元でパカパカ音がして、振り返ると、ひっかけサンダルのおじさんが近づいてくる。市場の周りには、たむろしているおじさんがたくさんいて、彼はそのうちの一人だった。何を言っているのかわからないけど、「OK、OK」とわたしを制して、突然、ピューーと、指笛を鳴らした。
 
焦るそぶりもなく、やっぱりサンダルをパカパカさせて、信号待ちの車の窓をコンコンと叩いて何かを伝えている。すると、その車がクラクションを鳴らした。そして、その音がどんどん前の車に、プッ、プッ、プッと数珠繋ぎのように伝って、伝言ゲームみたいなことが起きている。

数分後、さっきのタクシーがUターンして戻ってきて、窓がウィーンと下がり、紐付きのiPhoneが差し出された。
 
作り話みたいで恥ずかしいけど本当で、わたしだって何が起きていたのか今考えてもよくわからない。だけど、わたしは、嬉しくて、嬉しくて、ひっかけサンダルのおじさんに、何度も「ありがとう」を伝えた。

あまりのミラクルに、興奮しすぎて、とりあえず今できることとして、記念写真を撮った。あとで見返すと、わたしはおじさんの腕を思い切り引っ掴んでいて、恩人に対する態度として明らかに間違っていた。でも、そのままあの瞬間の温度が残っている気がして、記録としてはこれ以上ない気がする。
 
スマホのデータのままにしておくには、どこか心許ないと思ってしまうほどの体験で、それに、いつかこの嘘みたいな出来事が夢だったことにならないように、久しぶりに写真をプリントアウトするのも悪くないかもしれないと思った。

失敗の先にしかない景色って、たしかにある。考えてみれば、この旅そのものがそうだった。
 
ウズベキスタンの前に訪れたジョージアで、わたしは人生初めてのロストバゲージをした。首都トビリシには、古着を自由に重ねておしゃれを楽しむ若者が多く、センスのいいカフェやバーが自然と目に入った。

ジョージアの首都・トビリシのバー「CMR(House of Camora)」

トビリシのカフェ「カフェ・スタンバ (Cafe Stamba)」

わたしはというと、飛行機で来ていた餃子トレーナーしか手持ちがなかった。気に入ってはいたけれど、さすがにそのまま歩き続けるのが気恥ずかしくて、ホテルの隣の古着屋で急ごしらえのアウターを1着買った。
 
そのアウターを着てウズベキスタンを訪れ、サマルカンド行きの列車に乗ると、車両のシートと全く同じ色だった。青も緑も、絵の具単体じゃ出せない小難しい色なのに、そんなことある? と大笑いした。

サマルカンドで、ずっと行ってみたかったシャーヒ・ズィンダ廟群へ行った。お墓だなんて信じられないほど鮮やかで、絢爛で、美しい。終わりのための建築がこんなに明るいんだとしたら、失敗だって少しくらい派手でもいいんじゃないかと思った。

わたしは、失敗が多い。けれど、その失敗がこうして物語になって残るなら、人生はこれくらいすっとこどっこいのほうが、味がする。それに、そのほうがきっと、ずっと、わたしらしい。

photograph & text:MISATO SHIMIZU

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