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ドイツのハロウィンは歯磨き粉を持ったおばけがベッタリ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】

  • 2024.10.6

海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらう連載から過去のお話に、今の時期ぴったりのハロウィンのお話をピックアップ!
※こちらの記事は2020年10月ウェブ公開した記事を再編集しています。年齢や学年は当時のものです。

魔女にゾンビにフクロウさん 少年少女が次々と

それは私がまだドイツに来たばかりの頃の、ある日の夕方でした。
ぼちぼち食事でも作るかなとぼんやりしていたところにピンポーンと鳴る呼び鈴。だれだろう? とドアを開けると……。

『ズーセス・オダァ・ザワレス!』と叫ぶ仮装をしたこどもたち。
うおっ! 何だ何だ、何の騒ぎだ。あなた誰?? なんて言ったの? と聞くと、「きょうはハロウィンなんだけど……何かあるかなぁ」と申し訳なさそうなゾンビ少年。頭にナイフが突き刺さっててなかなか本格的です。
そうかそうかー! 今日ハロウィンなのね。うーん、何も用意してなかったなぁ。仕方ない、これでもいい? と冷蔵庫の中のゆで卵をあげると喜んでゾンビ少年は去っていきました。ゆで卵でいいんかい! ピュアだな♪

ドイツ語版の掛け声は「トリック・オア・トリート」ではなく「ズーセス・オダァ・ザワレス!」=「甘いものとスッパイもの(嬉しくないこと)どっちがいい?」なんですね。

ドイツのハロウィンは歯磨き粉を持ったおばけがベッタリ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】の画像1
かなり寒いので、厚着した上に大人用Tシャツなどをペイントして着ています。子どもたち、まんまるもこもこに仮装していてかわいいったらない!

おやおや、子どもたちがどんどんやって来ます。次の子にはみかん、そしてバナナ、りんごをあげました。ドアを閉めると鳴るピンポン、一息ついたらまたピンポン。この地域、こんなにたくさんの子ども住んでたっけか? 日頃お年寄りしか見ないのに。

次から次へと波のようにやってくる子どもたちに果物をすっかり渡してしまったあと、苦し紛れに小分けのチーズもサラミも渡し、そのうち手渡せるような食べ物が底をつきました。
どうしよう、カニカマあげるか? いやでもこれ凍ってる……ってか全然ハロウィンぽくない! かくなる上は生のじゃがいもでも……!?

と迷っていると、門扉に歯磨き粉をべったり塗られました! ぎゃー!
ほんとザワレス(スッパイという意味以外に「ムカつく」という意味もある)ですよ!

翌朝、近所を見てみると、留守にしていた家のベル周りや表札にも、きっちりイタズラの歯磨き粉が塗ってあり、スッパイというより苦々しい面持ちで、ブラシを持って表に出てくるご近所さんたちの姿が見られました。
お菓子をもらえなかったら歯磨き粉か……面白いな。と私も一緒に門の掃除をしたのでした。

ハロウィンの準備は前もって

10月31日、それはマーティン・ルター(ルターの宗教改革って歴史の授業で聞いたような……のルターです)が1517年に“95か条の論題”を提示した日。プロテスタントの地域はこの宗教改革にちなみ祝日になります。
朝から教会の鐘がゴーン……ゴーン……と厳かに鳴り響き、ミサで祈りを捧げます。

しかしこの日、子どもたちに重要なのはルターの宗教改革ではありません。10月31日はハロウィン! なんてったってハロウィン! お菓子をもらいまくる日です! ハロウィンの時期が近づくと街角やスーパーなどでオレンジ色のカボチャと、くりぬき用のナイフがセットで売られるようになります。

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UFOみたいなカボチャやバターナッツも並びます。
ドイツのハロウィンは歯磨き粉を持ったおばけがベッタリ?【教えて!世界の子育て~ドイツ~】の画像4

週末には家族でカボチャを思い思いにくり抜き、ランタンを作り、バルコニーや庭先に灯りをともして飾ります。これを見ると冬が来るなあと、指先に息を吹き掛けたくなるものです。

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これは動物園の芝生です。いろいろな施設がハロウィンに子どもたちを楽しませます。

個性豊かなカボチャで気持ちを高めたら、コスチュームを準備。
モチーフはカボチャ、魔女、こうもり。時々プリンセス、バットマン、忍者(忍んでない)、ゾンビ、スパイダーマン などなど。子どもが仮装を楽しむイベントとしてすっかり親しまれています。

さあ、郊外に友達同士集まって、暗くなるのを待って家々を回りましょう。お菓子をもらう袋も忘れてはいけませんよ!
街の中心部には背の高いアパートが建ち並んでいます。そういった家からはお菓子を貰いづらいので私の街では子どもたちは郊外に集まって友達と一緒にハロウィンを楽しみます。
その地域の大人は子どもがやって来ると分かっているので、あらかじめお菓子をいっぱい用意しています。ドイツといえば、ハリボーのグミ! キンダーチョコレート! アメ! キャラメル! 砂糖がけしたクーヘン!
甘いものをどっさりカゴに山盛りにして、子どもが玄関先で転ばないように門の灯りも点けて、それはそれはもう楽しみに待っているのです。私の家も郊外なので、子どもがいつもより多く来ていたのですね。

「ハロウィンがドイツで一般的になったのはここ20年程のことでしょ、僕が子どもの頃は無かったもの」と旦那は言います。みんなで歩くんだったら「ラターネンウムツーク」があるし、仮装は「ファッシング」だし……と。

ではここで、ドイツに昔からあるイベントというものを見てみましょう。

ラターネンウムツークは厳かに ファッシングは賑やかに

ドイツには古くから「ラターネンウムツークLaternenumzug」という聖マルティン(マーティン・ルターとは別の人です)の日、という日があります。これは冬のさなか、半裸の物乞いに自分のマントを半分裂いて分け与えたローマの兵士“マルティン”がその行いを讃えられて聖人になったことを祝う日。
日が暮れると子どもたちはランタンにろうそくを立てて、歌を捧げながら心静かに通りを歩きます。
そして訪れた家の先で果物やパンをもらうのです。この、ランタンを持ってよちよち歩く子どもたちが、かわいくってかわいくって!

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ろうそくの火を消さないようにそーっそーっと歩きます。

リンゼたちの保育園ではランタンの行列をした後、焚き火を囲んで暖をとりながら、みんなでパンを分け合って食べます。
これは園児が自分たちで穂を刈り取り、石でモミをトントンと叩いて皮を取り除いた小麦を、石臼で挽いてできた粉を自分でこねた特別なパン。たくさんの手作業を重ねています。これを親や先生たちと分け合って大切に食べます。

「おかあさん、これリンゼ、じぶんでトントンして、ぐるぐるして、コネコネしたんだよ!」とつたない言葉で教えてくれます。味はポソポソと素朴で、何個も食べたくなるほどおいしくはありません。だからこそ当時を思うことができる特別なパンなのでしょう。
子どもたちはこの日のために人形劇や絵本でマルティンのお話を見聞きしていますから、このパンが持つ意味も、よりしっかりと噛みしめられるのですね。

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夏の終わりは、お迎えに行くと入れ替わり立ち替わり、石臼で粉挽きに勤しむ子どもたちが。

そして、もうひとつのイベントは「ファッシングFasching」です。
こちらは大人も子どもも仮装、仮装、仮装! ありとあらゆる格好で街を練り歩き、飲んで食べてパーティーをします。
キリスト教には46日間もの断食期間があり、この断食が始まる前に食べておきたいものをがっつり食べて賑やかに過ごすというものです。

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行列した後に焚き火を囲んでいるところです。

こうしてラターネンウムツークとファッシングを並べてみると、ハロウィンと似ている点がありますね。

ランタンを掲げて街を歩くところや、食べ物をもらうところ、仮装するところ。こういった文化や行事は、ドイツ内でも各地で大きく異なるところがありますが地域の特色や相違点を見つけるのも面白いところ。
ハロウィンはスコットランドの文化ですがヨーロッパの文化はお互い影響しあっていますから、時代を経るにつれ似通っていったのかもしれません。

また、ドイツには各地に魔女伝説や魔女文化があります。私の住む地域近辺ですとHexentanzplatz(ヘクセンタンツプラッツ)というところで“ワルプルギスの夜”という大きな魔女祭りがあり、子どもたちは幼い頃から魔法使いに親しむ機会が多くあります。
仮装でも、魔女メイクは慣れたもの。MyほうきやMy魔女帽子を持っている子もいます! 日本でいう妖怪や鬼の文化のようですね。

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魔女の街ウェルニゲローデ。ハルツ山地地方には多くの魔女伝説や魔女裁判の歴史があります。

子どもは嬉しい! 親は複雑 だって歯が心配だもの

最初の歯磨き粉べったり以来、わたしもハロウィンにはお菓子を用意するようになり、自分の子どもが生まれてからはチャイムを鳴らしに行くようになりました。
子どもたちはカボチャを用意してハロウィンの日を待ち、仮装して呼び鈴を鳴らし、色とりどりのお菓子を選ぶのが楽しみ。誰か出てきてくれるかな? とワクワクする気持ちがキュンキュンと伝わってきます。

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ペンで顔を下書きしたら、ヘタの周りを抜きます。スプーンでワタを掻き出したら……後は親の仕事。
また、保護者は見守りだけでなく、ごあいさつを兼ねています。すれ違うグループからは「ちゃんとお礼言ったの?」や「1個だけよ!」「お菓子はいっぱいもらったから次はフルーツにしなさい」など保護者あるあるな声が聞こえてきます。

いろいろなお宅がありますからお菓子の内容もさまざまです。ハリボーやチョコレートの家、手づくりマフィンを配る家、リンゴの木が生えている家はリンゴを木箱ごと玄関先に置いています。呼び鈴を鳴らさないで勝手に持ってけスタイルの家も。
我が家は子どもが3、4歳になるまでは、親しくしているご近所さんにこちらで用意しておいたお菓子袋(中に幼児用スナックが入っている)をあらかじめ渡していました。仮装したリンゼやおいもさんが夕方に来たらこれをあげるようにお願いし、こちらはすぐに食べてもいいことにします。

大量のグミやチョコレートを幼児にプレゼントしてくれる家もあるので、食べかけのお菓子をひとつ持たせておくことで、それらに手が伸びるのを防ごうという作戦です! もらったお菓子のなかで年齢に合わないものは全て旦那の職場に持って行って消費してもらっていました。

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去年リンゼとおいもさんは「恐竜」になりました。

今年のハロウィンはどうなるのでしょうね。コロナで近しい人以外との接触を避ける風潮になっていますから、歯磨き粉を持ったオバケたちは少ないのではないかなぁと思います。
毎年お菓子を準備して楽しみにしているご近所さんも、我が家も、どうしようかなぁと迷っているところです。子どもたちは、もちろん仮装も『ズーセス・オダァ・ザワレス!』もしたいと言うでしょう。うーん、周りの感染状況を見て考えなければ。

こんな情勢の中ですが、ランタンの灯火に心をあたためつつ、ハロウィン本来の意味合いやヨーロッパの歴史を子どもと話すような、家の中での充実した時間が持てたらいいなと思っています。

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今回の海外ママは
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに移住。滞在年数10年を超えてもドイツ語に苦しむ。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。2人の娘がいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn

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