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ティモシー・シャラメが、映画監督たちに愛される理由──『君の名前で僕を呼んで』から『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』まで

  • 2026.3.5

ルカ・グァダニーノ監督が見抜いた決意とピュアネス──『君の名前で僕を呼んで』(2017)

CALL ME BY YOUR NAME - Timothee Chalamet, 2017.

1980年代の北イタリア。17歳のエリオ・パールマンは、父の研究助手のアメリカ人青年オリヴァーと出会い、ひと夏の恋に落ちる。やがてその情熱は、避けがたい別れへと向かっていく──。初恋の甘美さと痛みを描いた本作で、当時22歳のティモシー・シャラメは一躍脚光を浴び、第90回アカデミー賞主演男優賞にノミネート。世界がその名を知ることとなった。

ルカ・グァダニーノ監督が彼と初めて会ったのは17歳のとき。ポッドキャスト『SUPERNOVA』で、その印象をこう語っている。「初めて会ったのはギリシャ料理店でした。聡明で野心的、才能にあふれた青年で、その存在感は強く印象に残っています。彼に初主演を託せたことを、とてもうれしく思っています」。さらに『DEADLINE』ではこう述べた。「彼には偉大な俳優になろうとする揺るぎない決意と野心があった。同時に、少年のような初々しい無垢さもあった。その両方が共存していたことが驚きでした」

強い意志と繊細なピュアネス。その相反する二つが同時に存在していたからこそ、エリオはあれほどリアルだったのだろう。内に秘めた情熱と、初恋に揺れる脆さ。そのどちらも自然にあふれだしていたのは、若さだけではなく、すでに俳優としての覚悟を持っていたから。グァダニーノが最初に見抜いたその決意とピュアネスの同居こそが、シャラメという俳優のはじまりだった。

壊れながら輝く危険な没入──フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン監督『ビューティフル・ボーイ』(2018)

BEAUTIFUL BOY - Timothee Chalamet, Steve Carell, 2018.

薬物依存症の長男と向き合う家族の苦闘を描いた『ビューティフル・ボーイ』で、シャラメはドラッグ依存に陥る息子ニックを演じた。ベルギー出身のフェリックス・ヴァン・フルーニンゲンにとって、本作は英語長編デビュー作。監督は撮影準備中に『君の名前で僕を呼んで』を観て、起用を確信したと『The Hollywood Reporter』で語っている。また『RogerEbert.com』では、彼の天才性は「その恐れを知らない姿勢」にあると評した。

「並外れた才能がなければ、あれほど大胆な挑戦は成し得ない。圧倒的な魅力を備えながら、一瞬で危うい人物へと変貌できる。その演技は幾重にも層をなし、観客の心を捉える」。魅力と崩壊を往復する振り幅。その大胆さこそが、監督の言う恐れを知らない姿勢なのだろう。撮影当時はまだ無名に近く、「またオーディションを受けに行かなきゃ」と不安も漏らしていたそうだ。しかし完成後、状況は一変。監督は「ただ役に最良の俳優を求めていただけ」と振り返る。もともと細身ながら18ポンド(約8キロ)減量し、過酷な表現にも身を投じた。その献身は、急速に変わるキャリアのなかでも揺らがなかった。

才能と野心、その境界線──ウディ・アレン監督『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(2019)

A RAINY DAY IN NEW YORK - Timothee Chalamet, Elle Fanning, 2019.

雨のニューヨークを舞台にしたラブコメディ『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』で、シャラメはエル・ファニング演じる恋人と週末を過ごす大学生を演じた。等身大のニューヨーカーらしい自然な佇まいは高く評価されたが、作品は#MeToo運動の高まりのなかで、映画そのものとは別の理由で注目を浴びることになる。ウディ・アレン監督への批判が再燃し、公開は論争の渦中へと向かった。

2018年、シャラメはインスタグラムで声明を発表(現在は削除)。「良い役であることだけが仕事を引き受ける理由ではないと学んだ」と記し、出演料を全額寄付すると明かした。これに対し、アレンは回想録『Apropos of Nothing(原題)』でこう記している。「本作の3人の主演俳優はいずれも素晴らしく、一緒に仕事をするのは楽しかった」。そのうえで、シャラメが『君の名前で僕を呼んで』(2017)でアカデミー賞候補となっていた状況に触れ、「私を公に非難すれば、受賞の可能性が高まると考えた」と示唆した。

称賛と疑念。その落差が浮かび上がらせたのは、卓越した演技力と同時に語られる野心の存在だった。才能は認めつつも、その計算高さもこの一件で露わになったとアレンは匂わせる。真相は定かではないが、本作はシャラメという俳優の才能だけでなく、野心という側面をこれまで以上に浮かび上がらせた。同時に、スクリーン外の選択までも注目される俳優へと押し上げた転機だったとも言えるだろう。

性別を越える美しさ──グレタ・ガーウィグ監督『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)

© Columbia Pictures / courtesy Everett Collection
LITTLE WOMEN - Timothee Chalamet as Laurie, 2019. © Columbia Pictures / courtesy Everett Collection

『レディ・バード』(2017)に続き、グレタ・ガーウィグと再びタッグを組んだのが『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』。ルイザ・メイ・オルコットの名作『若草物語』を新たな視点で映画化した作品だ。シャラメが演じたのは、マーチ家の隣に住む資産家の孫、ローリー。ガーウィグは『Teen Vogue』で、「ローリー役はティモシー以外に考えられなかった」と語っている。理由は、「ハンサムでありながら美しい存在であること」

彼女はローリーにアンドロジニーを求めており、その資質を体現できる俳優だったからだという。さらに『Extra』などのインタビューでも、「ティモシーは私のお気に入りの一人」と公言。初めて舞台で彼の演技を観た際、「若いのに仕事に深くコミットし、技術的に優れていながら自然で即興性もある。その両方を兼ね備えている」と強く印象づけられたと振り返る。

確かな技術としなやかな流動性。性別の枠さえ軽やかに越えていく存在感こそが、ガーウィグにとって理想のローリー像だった。シャラメはその存在感で、誰もが知るクラシックな物語を、ぐっと今の時代に引き寄せたのだ。

一択の確信──ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021)

DUNE: PART TWO - Timothee Chalamet, 2024.

かつてドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作『プリズナーズ』(2013)のオーディションに落ちたシャラメは、約10年後、『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021)で主演ポール・アトレイデスを任されることになる。13歳で原作『デューン』を読み、「これを映画にする!」と決意したというヴィルヌーヴにとって、本作は長年の悲願だった。その夢のど真ん中に立ったのがシャラメだった。

監督はUS版『GQ』で、「はじめから彼一択。脚本に書かれたただ一つの名前だった」と明かす。その確信は『君の名前で僕を呼んで』にあった。『Variety』でルカ・グァダニーノと対談した際、「あの目に宿る知性と若さの中の成熟を見て『彼しかいない』と思った」と語っている。さらに『GQ』では、「今この地球上で演じられる存在は一人しかいない」と断言。シャラメの「目に宿る深い知性」は偽れず、「聡明で芯が強い」。若い容貌の奥に老いた魂を感じさせ、「ロックスターのようなカリスマ」とロマンティックな美を併せ持つ存在だと語った。

「彼が引き受けてくれて本当に安心した。プランBはなかった」と全幅の信頼を寄せ、「何かが誕生する瞬間に立ち会っている」とその可能性を称えた。唯一の候補と断言され、監督の夢そのものを託される俳優へ。シャラメはここで、神話級のプロジェクトの中心に立ったのだ。

模倣ではなく生成──ジェームズ・マンゴールド監督『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2024)

A COMPLETE UNKNOWN - Timothee Chalamet as Bob Dylan, 2024.

『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』で第97回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされるも、『ブルータリスト』(2024)のエイドリアン・ブロディに栄冠を譲った。シャラメは若き日のボブ・ディランを演じ、数々の名曲を吹き替えなしで歌い上げた。ジェームズ・マンゴールド監督は『Rolling Stone』のインタビューで、その演技をこう分析している。

「ボブという人物を単純に説明するのではなく、とても詩的なやり方で示している。音楽を作りたいという強い衝動がありながら、常に人々に取り囲まれていたいわけではない、という感情を共感的に表現している」。さらに、「自身の大きな成功がもたらすものに対する、ほとんど遺伝子的とも言える居心地の悪さも描き出している」と指摘。そして、ボブ・ディランというアーティストがたどった「一人の若者から、私たちが知るアイコンへと至る道筋」を体現したその変化のプロセスこそ、演技として見事だと称えた。

それは単なる物真似ではなく、若者が伝説へと変わっていく過程そのものを演じること。マンゴールドが評価したのは、ディランを模倣するのではなく、生成してみせた点だった。

アウトサイダーからスターへ──ジョシュア・サフディ監督『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(2025)

MARTY SUPREME - Timothee Chalamet, 2025.

卓球界のスター、マーティ・リーズマンの人生に着想を得た『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』。マシンガントークで身勝手で野心に満ちた男が、アメリカでは決してメジャーとは言えない卓球の世界で名声と富をつかもうとする物語だ。ジョシュア・サフディ監督とシャラメが初めて出会ったのは2017年、『グッド・タイム』のプレミア後のアフターパーティー。『W』によれば、当時の彼は『君の名前で僕を呼んで』でブレイクする直前。

監督は「次世代スターというよりも、どこか夢見がちで少しアウトサイダーな若者だった。それでも、彼にははっきりと特別な何かがあると感じた」と振り返る。その夜に交わした「いつか一緒に」という約束は、いま賞レースを席巻する一本として実を結んだ。さらにサフディは『Lifestyle Inquirer』で、「彼はとびきりユーモラスで、驚くほどフィジカル。そう、彼はダンサーなんだ」と語り、演技力だけでなく身体性も高く評価する。

夢見がちなアウトサイダーは、やがて野心的な主人公を体現するスターへ。サフディが早くから見抜いていた特別な何かが、本作でついに形になったのだ。

Text: Rieko Shibazaki

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