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“海の上の家”を買ったのに…住居型クルーズ船が運航停止、約200人に当日下船を通知

  • 2026.11.1

船の客室を「家」として購入し、世界を回り続ける暮らしを提供していた住居型クルーズ船が、運航を一時停止した。カンボジアに停泊していた船の住民約200人には、通知から約7時間後までに下船するよう求められた。(フロントロウ編集部)

「今日の14時までに全員下船を」

運航を停止したのは、ヴィラ・ヴィ・レジデンスが運営する「ヴィラ・ヴィ・オデッセイ」。同社は米時間10月27日、カンボジアでの運航停止と、事業再建に向けた検討を進めることを発表した。

住民のランディ・カシンガムが自身のブログで公開した通知によると、船内時間の同日朝、CEOから「運航を続けるために必要な燃料を確保できなかった」と連絡があった。通知には、船を一時的に係船し、乗組員が船体や必要な設備の維持管理にあたるとしたうえで、「今日の14時までに全住民が下船しなければならない」と記されていた。場所は、カンボジアの港町シアヌークビルだった。

米Cruise Feverによると、船の収容人数は600人を超えるが、運航停止時に暮らしていたのは200人あまり。住民に与えられた時間は約7時間で、取り切れなかった荷物については、翌日夕方までシャトルを利用して回収する手配が案内されたという。

この船が注目を集めたのは、旅行先としてだけでなく、“住まい”として客室を購入できたからだ。客室価格は12万ドル(約1,890万円)からと宣伝され、14万〜30万ドル以上(約2,210万〜4,730万円以上)を支払った人もいた。Cruise Feverは、陸上の家を売って船での暮らしを選んだ住民も多かったと伝えている。

ただし、購入すれば無条件に永住できるという仕組みではない。公式説明では、契約プランに応じ、船が運航可能な期間に客室を利用する権利などを提供していた。購入費とは別に、船の運営や食事、清掃、燃料、港湾費用などを支える月額維持費も必要だった。

客室あたりの月間燃料費は最大約4.4倍に

会社側が運航停止の理由として挙げたのは、燃料費の急激な上昇だ。公式発表によると、客室1室あたりに換算した月間燃料費は、従来の平均約1,800ドル(約28万円)から、アジアの一部地域では推定6,000〜8,000ドル(約95万〜126万円)に達した。約3.3〜4.4倍に膨らんだ計算になる。これは住民への請求額ではなく、会社側が示した燃料経費の換算額だ。

同社は、2月末に紛争が始まって以降、航行速度を落とし、港での停泊時間を延ばすなどして燃料消費を抑えてきたと説明。それでも経費の増加を吸収できず、営業損失を負担し続けることが難しくなったとしている。増加分をすべて住民に転嫁することも、現実的な解決策ではないという。

一方で、資金繰りの問題は以前から表面化していた。米Cruise Industry Newsによると、会社側は最近、燃料費を賄うために住民に総額36万ドル(約5,670万円)の追加資金を求めていた。4月には、年利12〜24%という条件で300万ドル(約4億7,280万円)を募る緊急融資の案も提示されていたが、実際にどれだけの資金が集まったかは確認できていない。

ランディもブログで、燃料費や燃料確保の問題だけでなく、事業モデルや経営上の判断など、複数の問題が積み重なっていたと指摘している。

船に戻れる日は来るのか

会社側は、今後60日間で事業再建と資本増強の選択肢を検討するとしている。ただし、再建の結果は保証できず、10月27日の発表時点では新たな資金調達や取引も成立していないと明らかにした。

Cruise Industry Newsは、住民が支援するグループが、客室を再購入する形で資金を拠出する案を検討していたと報道。バハマ・パラダイス・クルーズ・ラインの元CEOが、買収の可能性を探るために船を訪れたとも伝えている。ただし、いずれも運航再開が決まったことを意味するものではない。

オデッセイは、1993年建造の旧「ブレーマー」を改装した船。2024年秋に北アイルランドのベルファストから旅を始めたが、出航前にも修理や認証手続きの遅れで、予定が約4か月ずれ込んでいた。

燃料価格の上昇は、日本の旅行者にも影響している。日本航空は2026年11・12月発券分の国際線燃油サーチャージを引き上げ、日本を旅行開始国とする北米・欧州路線では片道6万2,000円に設定。共同通信によると、過去2番目に高い水準となる。

しかし、今回中断されたのは旅行だけではない。船を住まいに選んだ人々にとっては、日常生活そのものだ。会社側が再建策を探るなか、住民たちは陸上での滞在先を確保しながら、“海の上の家”に戻れるのか、見通しの立たない時間を過ごしている。

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